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伝説のホップだけでつくったビール「SORACHI1984」をつなぐ者たちの物語<エピソード4~「デザイナー」という仕事 後編~>

ソラチエースはサッポロビールの育種家によって生み出され、長い時を経た後に海外でブレイク。「伝説のホップ」とまで呼ばれるようになった、希有な運命を持つホップです。当連載ではこのホップを用いてつくられた「SORACHI1984」に関わる人々を紹介しています。

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シリーズとして4つめのエピソードとなる今回は、「SORACHI 1984」の缶やロゴのデザインを担当した2人がその仕事を語る後編です。パッケージデザインについて、話はより細部へと……。


【前編の記事はこちら!】

▼伝説のホップだけでつくったビール「SORACHI1984」をつなぐ者たちの物語<エピソード4~「デザイナー」という仕事 前編~>

https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/17099


■無数の可能性の中からベストを探す作業

――ご紹介できないのが残念ですが、本当に驚くほどさまざまなバリエーションのデザイン案があったんですね。ホップのイラストだけに注目しても、製品版よりもっと写実的なものもあれば、三角形を組み合わせた幾何学的な模様でホップを表していたり。

柚山哲平(以下、柚山):そうですね。最初のうちはいたずらに考えを固定させないよう、アイデアを広げていろんなバリエーションを提示して、そこから「やっぱりこの方向だよね」と絞り込んでいくわけです。

ホップのイラストをアイコニックに見せるにしても、抽象的にまとめるか、具象的にまとめるか、その方向や段階はいくらでもありますし、配色や商品名の文字と並べたときの印象によって感じ方も変わりますからね。

――色についても黒だったり、銀だったり青だったり、発売された商品と大きく違うイメージのものもアイデアとしてはあったんですね。

田中章生(以下、田中):それらはなんというか、「確認」のための候補ですね。色は製品のイメージに大きく影響します。なので、最初からある程度の方向が決まっているものなのですが、でも、本当にそれがベストなのかどうかを検討する必要があります。

柚山:頭のなかで想像するだけでは気づけない部分もあるので、やっぱりある程度、パッケージデザインとしてまとめたうえで検討するほうがいいんですよ。

ホップのイラストとともに、ベースカラーもかなりの議論を重ねました。最終的な商品では単純な白ではなく、少し柔らかさが感じられる色がベースとして使われています。「白」と決まってから、この微妙な色合いに落ち着くまでにやっぱり議論があったわけです。

――こうしてデザイン案を拝見すると、本当に驚くほどの候補の中からひとつに絞り込まれていったんですね。

柚山:弊社としても、この案件の重要さは理解していて、僕だけでなく、ほかのスタッフも含めた総力戦みたいな形でいろんな方向性のアイデアを出しました。最終的には僕がデザインしたものを磨いていくことになりましたが、たまたま、ですね。

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■家紋風のデザイン案も登場したホップのイラスト

――先ほどホップのイラストを「抽象的にまとめるか、具象的にまとめるか」というお話がありましたけど、そのイラスト部分だけに着目しても何種類もパターンがありますね。

柚山:ホップのイラストは最後の最後まで議論と調整を重ねた部分ですね。ホップをアイコニックに表現する際の抽象度はまさにデザイナーに委ねられている部分で、無数にある選択肢のなかから進んだり戻ったりしながら「SORACHI 1984」に適したものを探し出していきました。

田中:最終的にはホップの球花を横から見た、わりと具象的なイラストになっています。でもアイデアの段階では、球花を下というか、先端部分からまっすぐ見上げたような、ともするとバラの花のようにも見えるものだったり、三角形を組み合わせてタイル絵のように表現したものだったり、逆に、商品のものよりももっと写実的なものもありました。

柚山:球花を下から見上げたような構図のものは、その絵のなかに「SORACHI」や「SAPPORO」の“S”を組み合わせてあったり、かなりいろいろな“意味”を込めたデザインだったんです。

デザインの意図について話を聞いていただけば「なるほど」とうなづいてもらえるかもしれませんが、店頭で毎回それを説明できないという問題がありますし、説明が必要であるということは、言い換えれば「わかりづらい」んですよね。

田中:それよりはもっとストレートに「ホップに着目したブランド」であることを伝えようと、イラストはホップであるとすぐわかる方向に進んでいきましたね。

――ホップの球花がどんな形をしているか、今でこそ知っている人は増えて来ていますが、それでも写真を見てもホップとわからない人もまだまだ多いでしょうしね。デザイン案を見ていると、家紋のようなイメージでまとめられているものがけっこうありますね。

田中:「SORACHI 1984」は、日本生まれのホップを使ったビールであることが商品が持つストーリーのキーになっています。バックに柄を敷いたり、あるいは周囲にリボンを使ったりといった装飾的な要素を極力用いず、シンプルに伝えたいという指針が最初からありました。

日本をイメージさせたいという想いがあるなかで、シンプルにイラストを抽象化していった結果、家紋に似せるのもアイデアとして出てきたわけです。特に金色を使うと、家紋的なイメージが強まりますよね(笑)。

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■「SORACHI 1984」をつなぐ者の一員として

――とても素敵ではあっても、なんとなくビールというよりも缶コーヒーのように感じてしまうようなデザインもあって、興味深いですね。既存の商品のイメージを重ねてしまうのでしょうか?

柚山:結果的にそういうデザインは「ビールらしくない」という理由で排除されていきますね(笑)。“ビールらしさ”のような大ざっぱな印象の部分だけでなく、サッポロビールらしさ、最終的には「SORACHI 1984」らしさみたいな部分を、新井さんや田中さんの意見をしっかり採り入れて調整していくことになります。

――パッケージは円筒に載せたときによく見えることが最重要課題ですけど、一方でロゴは印刷物など平面で使うことがありますよね。デザインのときはそこも勘案されるのでしょうか?

柚山:やはりそこはきちんと考えます。多くのデザイン案を比較して絞り込むような段階ではそこまで手間をかけませんが、大枠が決まってからは、ちゃんと変形をかけて缶に印刷したときにどう見えるかといった比較もしますね。

田中:たとえば黒ラベルのパッケージは黒い丸に黄色い星が入っていますが、あれは正面から見たときに真円に見えるように変形させて印刷しているんです。「SORACHI 1984」では缶にしたときにホップのイラストがもっとも美しく見えるように、また文字も読みやすく、バランスよく並んで見えるように調整していますね。

――個人的な感想として、「SORACHI 1984」のパッケージは、ホップのイラストだけでなく、文字が持つ力も強いと思うんです。

柚山:ベースとなった書体はわりとオーソドックスなもので、細部の抑揚とか装飾が多い分、少し古くさく感じてしまうところがありました。それを省略したり、直線を増やしたりしてすっきりと現代風にアレンジしいるんですが、やりすぎると元の書体が持つよさが失われてしまうんですね。

今回のパッケージデザイン全般に言えるのですが、デザインには新しさを求めてはいます。しかし、ビールって歴史のある商品ですし、オーソドックスな部分も残さないとなりません。そのバランスにはかなり注意を払ったつもりです。

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田中:「SORACHI 1984」がほかの商品と大きく違うのは、ストーリー性の部分。1984年に品種登録されたものの、長いこと日の目を見なかったソラチエースが海外で人気を博し、それが「SORACHI 1984」として日本で商品化されました。

たいていの商品はこんな壮大なストーリーを持っていません(笑)。新しいものを目指すと言っても、過去からの繋がりがあってはじめて生み出された商品であることは無視できないんですね。やっぱりどこかどっしりと落ち着いたところのあるデザインが「SORACHI 1984」らしさだと思うんです。

柚山:ソラチエースを発見した人がいて、引き継いだ人がいて、復活させた人がいて、「SORACHI 1984」を生み出した新井さんがいて、そのパッケージを僕がデザインする。そうやって長いストーリーのなかでバトンをつないだ一人になれたことは、今回とても意義を感じた部分ですね。

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――何気なく手にしている缶のデザインも、さまざまな段階を経て生み出されたものであり、そこにはいろんな想いが込められているのですね。今後も「SORACHI 1984」の情報は定期的にお届けしていく予定です。ご期待ください。

P.K.G.Tokyo
チーフクリエイティブオフィサー

柚山哲平

2009年、柚山デザイン株式会社を設立。さらに2017年、P.K.G.Tokyoを創業メンバーとともに設立。ブランディングを中心に、ブランドコンサルティングや商品プランニング、アートディレクションからデザインまでシームレスかつ幅広く取り組んでいる。P.K.G.Tokyoでは、これまで様々なメーカーの主要商品ブランディングやパッケージデザインを手がけてきた。

サッポロビール
マーケティング本部新価値開発部
クリエイティブディレクター

田中章生

1995年サッポロビール株式会社入社。新価値開発部 デザインルームにて、アルコール飲料を中心にパッケージや商品広告の制作、制作ディレクション、コンセプト開発に携わる。

(文=稲垣宗彦)


【本シリーズの過去の記事はこちら!】

▼<エピソード1~「育種家」という仕事 前編~>

https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/14106/

▼<エピソード1~「育種家」という仕事 後編~>

https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/14171/

▼<エピソード2~「フィールドマン」という仕事 前編~>

https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/14412/

▼<エピソード2~「フィールドマン」という仕事 後編~>

https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/14415/

▼<エピソード3~「醸造家」という仕事 前編~>

https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/15078/

▼<エピソード3~「醸造家」という仕事 後編~>

https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/15073/


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