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伝説のホップだけでつくったビール「SORACHI1984」をつなぐ者たちの物語<エピソード3~「醸造家」という仕事 後編~>

サッポロビールの育種家によってこの世に生み出されてから約20年もの時を経て海外で注目され、「伝説のホップ」とまで呼ばれるようになったソラチエース。当連載ではこのホップを用いてつくられた「SORACHI1984」に関わる人々を紹介しています。

 前回に引き続き、「SORACHI1984」を製造する仙台工場の醸造部でビールの中味づくりを担当している醸造家の高尾龍之介がビールづくりについて語ります。

高尾さんTOP169.jpg

■「SORACHI1984」は上面発酵の“ゴールデンエール”

――ビールづくりについて、もう少し具体的なお話を聞かせてください。ビールの醸造には上面発酵、下面発酵、自然発酵と、大きく分けて3つの方法があるとうかがいました。それぞれの違いを教えていただけますか?

高尾:まず使用する酵母が違います。

上面発酵と下面発酵は培養された酵母を使いますが、自然発酵は野生の酵母とでも言いますか、文字通り、自然界に存在する酵母を使って発酵させます。

上面発酵は上面発酵酵母、下面発酵は下面発酵酵母を使用するのが両者の違いです。これらの酵母の違いのひとつとして上面発酵酵母は発酵液表面に上昇するのに対し、下面発酵酵母は下に沈む傾向が強いです。

一般的な傾向で言えば、上面発酵では華やかな香りのビール、下面発酵ならすっきりした味わいのビールができると言われています。酵母のほかにも麦芽やホップの種類を工夫することで、香りや味に特徴をつけることが可能です。

左右にずらりと並ぶのは発酵タンク。人との対比でタンクがどれほど巨大なのかがわかるだろう。

――「SORACHI1984」はゴールデンエールということですが、どちらの発酵方法になるのでしょうか?

高尾:「SORACHI1984」は上面発酵ですね。同じビールでも「黒ラベル」などのラガービールは下面発酵ですから、使用している酵母の種類からして違うということになりますね。

――上面発酵と下面発酵で使用する設備や醸造の難しさに違いはありますか?

高尾:違いという点で言うと、発酵温度が異なりますね。

「SORACHI1984」のような上面発酵の場合、下面発酵よりも高い温度で管理するため、発酵の進行が早いです。その分、繊細な部分もあって、その扱いには慎重さが必要となります。

仙台工場の生産ライン全体を管理する中央コントロール室。

■独自製法でより際立つソラチエースの香り

――「SORACHI1984」は「ソラチエース」だけを使ってつくられているということですが、単一のホップを使ってつくられるのは一般的なことなのでしょうか?

高尾:一般的には複数のホップを使用することが多いですね。ホップの役割として香りや苦味の付与がありますが、目的に応じて使用するホップを変えています。

――苦味に特徴があるホップと、香りに特徴があるホップを組み合わせたりするんですね。

高尾:そうですね。ですから、「SORACHI1984」のように単一のホップで苦味も香りも演出するのは珍しくておもしろい点と言えますね。

貯酒用タンクの上面。発酵が終わったビールをこのタンクに蓄え、熟成させることによって、美味しさに深みが生まれるのだ。

――ホップを添加するタイミングによっても味や香りが変わるんですか?

高尾:一般的にはホップは麦汁の煮沸工程で加えられますが、煮沸のはじめのほうに投入すると苦味は残りますが、香りは煮沸の進行とともに揮散(きさん)していきます。あえて香りを強めたいときは、煮沸の終わり頃に加えることで、香りの成分が飛ばずに特徴をより残しておくことができるわけです。ビールづくりの工夫のひとつですね。

――「SORACHI1984」はソラチエースを2回にわたって添加していると聞きました。

高尾:「SORACHI1984」でも初回の添加は苦味の付与が目的、2回目の添加は香りつけを目的に実施しています。

「SORACHI1984」のユニークな点は、ホップを添加するタイミングが仕込終了後の麦汁に対して行われる独自の「ドライホッピング製法」を採用しているところです。

ドライホッピング製法は近年注目を集めている製法のひとつです。

精密な機器を使って出来上がったビールの分析を行うが、やはり味と香りといった官能的な部分は人の感覚が頼り。

■ビールの味わいは多様化し、楽しみ方にも変化が

――以前は大手ビールメーカーの製品をはじめ、日本のビールというと、ラガー、それもピルスナーしかないと言っても過言ではないような状況でした。しかし、「SORACHI1984」もゴールデンエールですし、いわゆるクラフトビール人気も高まっていて、日本で手軽に飲めるビールの種類が増えてきているように感じます。ドライホッピング製法でつくられるビールが増えている背景には、そういったビールの多様化が影響しているのですか?

高尾:確かにビールの種類が多様になっているのも理由のひとつだと思います。

それと、「SORACHI1984」のように、特徴のあるホップを使い、ビールの個性を出す時代になってきていると思います。そうした流れのなかで、ホップの種類が増えてきているだけでなく、使い方にも注目が集まっているような状況ですね。

――1994年の規制緩和から1990年代の中頃に小さな醸造所でつくられる、いわゆる「地ビール」ブームが訪れ、それがいったん立ち消えのようになり、15年くらい前から今度は「クラフトビール」という名称で今に続くブームがやってきていますよね。サッポロビールの歴史は100年以上になるとのことですが、その歴史のなかで見ても、この約15年ほどで起きているビールの多様化は特筆すべき出来事なのではないですか?

高尾:何よりお客様の嗜好が多様化してきていて、それに応えるような形でどんどんビール、あるいはビールテイスト飲料の種類は増えてきています。ビールの種類も増えていますし、ひとつの種類のなかでもバリエーションが増えてきています。

――バブル以降、さまざまな国の料理がお店で食べられるようになり、食のバリエーションが一気に増えましたが、それに呼応するようにビールの味わいも種類が増えているように感じられます。

高尾:そうですね、香りが華やかなもの、どっしりと重い味わいのもの、苦味が強いもの、弱いもの、いろいろ出てきています。味や香りの好みが多様化しているのもそうですが、それだけでなく、ビールの飲み方もバブル以降に大きく変わってきていると感じています。

バブルの頃は、会社が終わった後に居酒屋やビアホールでみんなでわいわいと楽しむ飲み物といったイメージを抱いていた方が多かったのではないでしょうか?

新型コロナウイルスの影響を抜きにしても、近年は家で自分の時間をゆったりと過ごすことが大事にされるようになり、お酒もそういった時間をより豊かにするもの、といった立ち位置に変わってきていますよね。

味と香りは人によって感じ方が違うというのも、ビールづくりの品質管理において難しい部分。
複数のスタッフによって官能検査を行い、評価の精度を高めていく。

■「SORACHI1984」は飲むこと自体を楽しむビール

――仕事柄、いろんなホップを扱った経験があると思います。「醸造家から見たソラチエース」はどんなホップでしょうか?

高尾:確かに今までいろんなホップの香りに触れましたが、そのなかでもソラチエースはとても個性が強くておもしろいホップだと感じます。ソラチエースはレモングラスのような、ヒノキのような、そういった香りがするのですが、ほかのホップを例に「~に似ている」といった表現をするのも難しいユニークさがありますね。

――サッポロビールによって日本で開発されながらもアメリカのクラフトビールに採用されて注目を集めるようになったという経緯も、その独特な香り故でしょうか?

高尾:個性が強すぎるがために、最初は日本では受け入れられづらいものがあったようです。アメリカでは日本よりかなり早くクラフトビールの人気が拡大していったのですが、ソラチエースの独特な香りがそこにうまくマッチした形ですね。

そうして海外で大きな話題を呼んだことで、日本でもソラチエースにスポットライトが当たりました。開発された当時と違って日本でも嗜好の多様化はすでに起こっていて、それが「SORACHI1984」へとつながっています。

――醸造家から見た「SORACHI1984」はどんなビールですか?

高尾:繰り返しになるようですけれど、ユニークなソラチエースの香りが前面に出ているところがやはり大きな特徴ですね。ほかのビールでは味わえないような香りと味をぜひ多くの人に体感して欲しいと思っています。

飲んだときの感想や気持ちはもちろん人によって違うとは思いますが、私が「SORACHI 1984」を飲むときに感じるのは、「わくわくするような気持ち」ですね。

ラインを流れる「SORACHI1984」。ビール工場というと多くの人が思い浮かべるのがこういった光景ではないだろうか。

――口に含んだときに鼻に抜ける香りが華やかで独特ですよね。もちろんゴールデンエールなのでラガーとは違って当たり前ですけれど、それを含めて考えても、「SORACHI 1984」はほかのビールとは違う味わいに仕上がっているように思います。

高尾:その違いがやはりソラチエースの個性であり、「SORACHI1984」の製法の違いということになるのだと思います。

「SORACHI1984」は和食を含めたいろんな料理にあいますが、個人的にはこの独特の個性はひとりでビールを飲むこと自体を楽しむのにあっていると感じていて、私はそんな風にこのビールを楽しむことが多いですね。

――醸造家としての野望というか、やってみたいことは何かありますか?

高尾:ビールづくりでは思った通りの味や香りを生み出すのはとても難しくて、「たとえばここをもう少し変えたい」といった、ちょっとした修正でもときにとても苦労することがあります。醸造家として新しい美味しさを生み出すのも楽しいのですが、それよりも、今つくっているものの美味しさに磨きをかけるようなスキルをもっと向上させたいですね。

野望と言うほどのものではないですが……。

多くの人が協力し合って美味しいビールをつくる今の仕事はとても気に入っていますが、その一方で、開発から醸造まで、すべてをひとりで手がけるようなビールづくりにも興味というか、憧れみたいなものはありますね。

――今回もまた、ビールづくりにおいて知っているようで知らなかった話が次々と飛び出しましたが、いかがだったでしょうか? 今後も「SORACHI1984」に関わる者へのインタビューをお届けしていく予定です。ご期待ください。

箱詰めされ、あとは出荷を待つばかりの「SORACHI1984」。

仙台工場 醸造部
髙尾 龍之介(たかお りゅうのすけ)

2015年サッポロビール株式会社に入社。大分県日田市にある九州日田工場 醸造部に配属。それ以来、ビール醸造に携わり、2019年に仙台工場に移る。

(文=稲垣宗彦)

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