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伝説のホップだけでつくったビール「SORACHI1984」をつなぐ者たちの物語<エピソード2~「フィールドマン」という仕事 前編~>

 ソラチエースで作った「SORACHI 1984」を巡る当連載では、前回、前々回と育種家という職務を取り上げました。今回ご紹介する「フィールドマン」も、育種家同様、国内のビール会社のなかではサッポロビールだけに存在する、独特の職務です。

 広い意味では「畑などの野外で働く人」といった意味合いで使われますが、サッポロビールのフィールドマンは、育種家が開発したホップや大麦を契約した生産農家の皆さんとともに育てていく、重要な仕事。「SORACHI 1984」の製造においてフィールドマンをつとめた上本允大のインタビューを前後編の2回に渡ってお届けします。

■「協働契約栽培」で原料を調達

――今回のインタビューの打ち合わせで「育種家」と「フィールドマン」というお仕事の存在を初めて勉強させていただきました。育種家が新たな品種の開発を主にされるのに対し、フィールドマンはどんなお仕事なのでしょうか?

上本允大(以下、上本):サッポロビールはビールの原料であるホップと大麦の調達に「協働契約栽培」という方法を採用しています。これはかんたんに言えば、生産者のかたと契約を結んだうえで、サッポロビールから「こんな原料が欲しい」といったことを伝え、交流を結びつつ、いっしょに原料である作物を育てていくシステムです。

このときに直接産地に赴くのが、フィールドマン。字面の通り、「畑に行く人」ですね(笑)。

――サッポロビールと原料の生産者の接点となるお仕事なんですね。フィールドマンという職務があるメーカーはほかにもあるのでしょうか?

上本:同じ空知郡上富良野町にポテトチップスメーカーと契約するじゃがいもの生産農家とその会社の施設があります。その会社にはフィールドマンがいますね。同様に、ほかにもフィールドマンを擁する食品会社があるんじゃないでしょうか。でも、少なくとも国内のビール会社では、フィールドマンがいるのはサッポロビールだけです。

――育種家の鯉江さんのお話にもあったように、商社経由で原料を仕入れるのが国内のビールづくりの主流だからですね。やはり育種家と同じように、群馬県太田市には大麦を専門に担当されているフィールドマンがいるんですか?

上本:そうですね。やはりフィールドマンもその作物に対する深い専門知識が必要になるので、あちらには大麦のフィールドマンがいます。

――上本さんも前回の鯉江さんも、フィールドマンと育種家のどちらも担当されるとのことですが、どういうタイミングで職務が変わるんですか?

上本:育種家もフィールドマンも専任というわけではなくて、鯉江も私も、常に育種家であり、フィールドマンでもあるんです。育種家として手がけた品種を生産することになれば、それを持って生産者のところへ行き、フィールドマンとしての役目を果たす、といった感じですね。

――なるほど。所属部署が変わったりするのではなく、日々の業務によってフィールドマンであり、育種家でもあるわけですね。

上本:いや、実は違うんですよ。育種家は原料開発研究所の所属。フィールドマンは生産者から原料を買ったり支援する業務なので、購買部の所属になります。つまり、鯉江も私も、ふたつの部署に身を置いて兼務している状態なんですね。

SORACHI 1984」にフィールドマンとして携わる上本允大。同時に育種家も兼務し、日々、新たなホップの品種開発も行っている。

■ホップの契約生産者は北海道以外に岩手、さらにドイツにも

――2つの部署を兼務しているというのも珍しいことだと思いますが、フィールドマンというお仕事自体が会社員としてはちょっと変わっていますよね。“ならでは”の苦労はありますか?

上本:苦労というほどのものではないですが、「サラリーマンなのにこんなに畑にばっかり行くんだ」と思うことはありますね(笑)。
それと、生産者のかたは若い人でも40代後半くらいなんです。30代の私から見ると皆さん年上ばかり。たとえば品質に影響があるような農薬を使わないで欲しいといったお願いをしなければならないこともあるのですが、特にフィールドマンなりたての頃は知識もかなわず、そういうときにこちらの意見を聞いてもらうのがなかなか大変でした。
フィールドマンとして向き合う時間を重ねていくうちに信頼関係が構築されてきたと実感できるようになったのは、ここ1~2年くらいですかね。

――畑に行くのはどれくらいの頻度なんですか?

上本:時期によりますね。フィールドに出ている時間が長いのは7~8月。週に1回は生産者のところを回っています。ほかにはたとえばソラチエースの収穫の時期などはもっと増えるでしょうね。

――畑に直行直帰、なんていう日もあるんですか?

上本:契約している北海道のホップ生産農家4軒は、すべてオフィスと同じ上富良野町にあるんです。なので、まずは出勤してから畑を回る感じですね。ほかにホップの生産者さんは東北にもいて、そちらを回るときは出張として行くことになります。

――サッポロビールのホップは東北地方でも生産しているんですね。

上本:岩手には十数軒ほど契約農家があって、生産量のトータルでもそちらのほうが多いくらい。ホップ全体の生産量を見ても、北海道よりも東北地方のほうが圧倒的に多いですね。
実は国内だけでなく、ドイツにも契約している生産者がいて、育種家としてインタビューを受けた鯉江はフィールドマンとしては長年に渡って主にそちらの生産者を担当しているんです。国内の生産者と違って頻繁に訪れることも難しいですし、ましてやこのコロナ禍で現地へはなかなか行けない状況です。ですから、フィールドマンとしての仕事に対する姿勢や思いもまた違うものがあるかもしれませんね。

チェコの契約ホップ圃場を視察する上本と鯉江。

■ホップの天敵は“台風”

――鯉江さんは「思いもよらぬ品種ができたときに育種家としての喜びを感じる」とおっしゃっていましたが、フィールドマンとしてのやりがいや達成感はどんなときに感じるのでしょうか?

上本:無事に収穫が終わったときには達成感を感じますね。また、商品に紐づく品種が無事に育って、商品が完成したときもうれしいです。
ソラチエースはサッポロビールが開発した品種ですが、「SORACHI 1984」では今までほとんど海外産に頼っていました。今年は上富良野生産者のソラチエースが初収穫を迎え、来年にはそれを使った「SORACHI 1984」が生産されます。おそらくそのどちらのときも大きな達成感が味わえるはずです。

――天候不順など不確定要素もたくさんあるなかで無事に収穫を迎えるのはやはりうれしいことなんですね。

上本:ホップには特定の病害があって、適切な農薬を用いてそれをきちんと防がないと、大変なことになってしまいます。
それと、ちょっとした暑さ寒さや乾燥に対してはわりと安定した作物なのですが、台風の影響はかなり大きいですね。

――近年は北海道も台風の影響を受けるケースも増えましたよね。地上から5mの高さまで成長させるわけですから、風の影響は大きそうですね。

上本:ビールの原料として使うのはホップの「球花」。これは枝の部分に実るんですが、強い風が吹くとその枝が根本から折れ、そこから先が枯れてしまいます。また台風が来るのがホップにとって大事な時期、球花がなりはじめる初夏や、収穫の秋なんですよね。影響が出そうな予想コースが出たときは気が気ではありません。

――フィールドマンとしていろんな生産者のかたにいろいろな品種を育てていただいていると思うのですが、育てやすい品種、そうでない品種はあるんですか?

上本:ありますね。育てやすさ以外にも、単位面積当たりの収穫量とか、収穫作業の困難さとか、品種によってやっぱり違いはあります。
ホップの収穫では、5mの高さまで伸びたつるの上と下を切って摘果場へ運び、そこで枝を落としてからその枝を摘果機という機械に入れる必要があります。たとえばリトルスターという品種は球花が実る枝が比較的短く、枝を落とす作業が楽なんです。
単位面積の収穫量は生産者さんの収入にも直結する話ですし、育てにくい品種をお願いするときは気を使いますね。

地上から5mの高さまでつるを伸ばして育成させるホップの天敵は“台風”。強い風に吹かれると球花が実る枝が折れ、収穫量が激減してしまう危険がある

――生産者のかたがたとともに、原料調達という重要な役割を担うフィールドマン。後編ではそのさらに深い部分などを語ってもらいます。その独特な香りこそがソラチエースの魅力ですが、上本にとっては幼少期の思い出に直結した香りなのだとか。さて、上本はソラチエースの香りが何と同じと語ったのでしょうか? 答えは後編で。

原料開発研究所 北海道原料研究グループ兼 購買部 フィールドマン
上本 允大(うえもと みつひろ)

2012年サッポロビール株式会社に入社。上富良野町のバイオ研究開発部(当時)に配属。それ以来、ホップの新品種開発や育種技術の開発に携わる。2015年からは購買部を兼務し、欧州ホップ(~2016)、国産ホップ(2017~)のフィールドマンを担当する。ホップ登録品種はふらのほのか、フラノブラン、フラノローザ、フラノフローラ、フラノマジカル、フラノクイーン。

(文=稲垣宗彦)

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