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伝説のホップだけでつくったビール「SORACHI1984」をつなぐ者たちの物語<エピソード4~「デザイナー」という仕事 前編~>
ソラチエースはサッポロビールの育種家によって生み出され、長い時を経た後に海外でブレイク。「伝説のホップ」とまで呼ばれるようになった、希有な運命を持つホップです。
当連載ではこのホップを用いてつくられた「SORACHI1984」に関わる人々を紹介しています。
シリーズとして4つめのエピソードとなる今回は、「SORACHI 1984」の缶やロゴのデザインを担当した2人がその仕事を語る、前編です。
■缶のデザインとスリーブは担当者が別!?
――パッケージやロゴはどんな流れで決まっていったのでしょうか?
田中章生(以下、田中):実はパッケージやロゴのデザインが決まる手順は商品ごとに結構らばらなんです。「SORACHI 1984」の場合は、当連載のエピソード0に登場したブリューイングデザイナーの新井健司のとても強い想いが込められた商品ということもあって、僕と新井で商品のコンセプトやターゲットを考えながら、基本的なイメージやトーンを探るところからはじまりました。
ある程度の方向性が見えたところで、そういったデザインが得意と思われるデザインプロダクション2社を抽出してコンペへの参加をお願いし、ご提案いただいたデザインから、柚山さんが在籍される会社にご依頼することになったという流れですね。
今回のように外部にデザインをお願いする場合、こちらでサンプルとなるようなデザイン案をいくつか制作して提示し、それらの世界観を中心としつつプラスαもご提案いただくこともありますが、SORACHI 1984」でお渡ししたのは、イメージ画像や世界観を表すようなビジュアル、それと商品のコンセプトやターゲットを記した文字情報だけ。そこからデザインしてもらっています。
柚山哲平(以下、柚山):「SORACHI 1984」は最初からかなり自由にやらせていただきましたね。
左:サッポロビール 田中章生、右:P.K.G.Tokyo 柚山哲平
――「SORACHI 1984」の場合は4缶ごとにスリーブと呼ばれる複数の缶をまとめて持ち運べるようにしたカバー状の包装資材でまとめられていますが、あれのデザインも柚山さんが担当されているのですか?
田中:スリーブに関しては広告と連動することが多い関係で、またデザインの担当が違うんです。
柚山:どちらかというと、スリーブは広告代理店を通じてポスターなどを得意としているところに発注されることが多いですね。
――そうなんですね。そこはなかなか一般の人からは見えない部分ですね。
田中:スリーブには訴えたいメッセージを入れたり、そのときどきに流れているTVCMと連動してデザインを変えたりすることがあるので、広告に近い扱いをしています。
一方で、缶のラベルなどは商品の「顔」そのものですし、お客様に何度も繰り返し見ていただくものとして、広告的な要素はあまり入れないですね。
柚山:僕は元々、広告制作などを手がけていましたが、どれだけ時間をかけて作ってもポスターや広告のデザインは刹那的に消費されていくことが避けられない運命にあります。それに対してパッケージデザインはお客様が商品を買うときの「目印」として、比較的、長く残り続けます。
広告制作とパッケージデザインでは、短距離走とマラソンみたいな違いがありますね。広告関連のデザインを手がけるのは「ならでは」の楽しさがあります。しかし、今はパッケージデザインの「お客様に長く愛される喜び」をより味わいたくて、こちらを積極的に行っています。
■「SORACHI 1984」は“少し特別なブランド”
――このパッケージデザインが決定するまでの候補って、何パターンくらいあったんですか?
田中:今回は非常にたくさんのデザインを作ってもらいましたね。
柚山:コンペに出したものだけで20くらいありましたからね。2社をあわせるとそれだけで40パターンくらいになるのではないでしょうか。
田中:コンペでは僕と新井だけでなく、もう少し上の立場の者も含めて、「SORACHI 1984」の商品イメージに合ってるものを選びました。それが柚山さんの会社によるデザインだったわけですね。
柚山:コンペで勝ったデザインがほぼ決定というわけではなくて、そこから今度は商品化に向けたデザインがはじまります。コンペで評価されたポイントを押さえつつ、配色やロゴのデザイン、商品名とロゴの位置、バランスなどをいろいろ変えて、デザイン案を考えます。
田中:実は弊社の場合、パッケージデザインでコンペをかけることはほとんどしないんです。お付き合いのあるデザイナーさんにも得意不得意や、「その人らしさ」があります。商品のコンセプトやイメージにマッチしていたり、それらを表現したデザインが得意そうなところへダイレクトに依頼するのが一般的ですね。
柚山:パッケージのデザイナーをすべてコンペで選ぶ会社も珍しくはないですし、むしろサッポロビールみたいにほとんどコンペをしない会社の方が少ないかもしれないですね。
――なぜコンペ形式を採用したんですか?
田中:ソラチエースを使った先行商品からのリブランディングとして、大きくイメージを変えたかったというのが理由としてありました。時間的な制約がある中で、方向性を広く取りつつ、質を担保したくて、過去の実績から2社に絞ってコンペへの参加をお願いしたわけです。
――パッケージデザインが決定する経緯を見ても、「SORACHI 1984」はサッポロビールの製品として少し特別なブランドであることが伝わってきますね。
田中:そうですね。コンペを実施するにあたって柚山さんのP.K.G.Tokyoを含めた2社にお声がけさせていただいたときから、“「サッポロビールらしさ」よりも、明確な「SORACHI 1984」ならではの狙い”みたいなところをしっかり説明してました。
■偶然の産物もイメージづくりに貢献!?
――今のサッポロビールのパッケージは星マークが象徴的に使われているものが多いですけど、「SORACHI 1984」にはそれがないですよね。
柚山:そこは新井さんが決めたコンセプトのひとつで、まずは味とホップの香りに着目してもらって、あとからサッポロビールの製品だと気づいてもらうという、プライオリティが反映された部分ですね。
田中:サッポロビールの製品として選ばれるのではなく、「SORACHI 1984」というブランド、あるいはソラチエースという特別なホップが選ばれる製品にしたいというのが新井の狙いでしたね。
――先ほどスリーブの話が出ましたけど、通常は6本パックのところを、「SORACHI 1984」では4本パックになっていますよね。こういうところにも「SORACHI 1984」の特別感が出ていますね。
田中:実はそれは狙ってやったわけでなくて、発売までの過程で「たまたまそうなった」だけというのが実情なんです(笑)。でも確かに今では「SORACHI 1984」の“らしさ”につながっていますね。
柚山:パッケージをデザインしていくなかでも、たとえばロゴの扱いにしてもそうですが田中さんや新井さんが「SORACHI 1984」を少し特別に思っていることは伝わってきましたね。
偶然が影響している部分も確かにあるかもしれませんが、「SORACHI 1984」はやっぱりどこか尖ったところがあるというか、ひと癖あるブランドであると感じています。たぶんそれは「SORACHI 1984」が生まれた経緯や味に起因しているところも大きいんでしょうけど、新井さんや田中さんの想いの強さみたいなものも感じました。
――柚山さんが感じたそうした「SORACHI 1984」の「尖った部分」が、ホップの球花をモチーフにしたイラストが星マークの代わりに入るパッケージへとつながっていったわけですね。
――缶のデザインが決まるプロセスなど、なかなか知ることのできない情報が多かったのではないでしょうか? 次回後編では、ロゴやイラストに込められた想いなど、よりディープな話をご紹介します。
【後編記事はコチラ!】
▼伝説のホップだけでつくったビール「SORACHI1984」をつなぐ者たちの物語 |
P.K.G.Tokyo
チーフクリエイティブオフィサー
柚山哲平2009年、柚山デザイン株式会社を設立。さらに2017年、P.K.G.Tokyoを創業メンバーとともに設立。ブランディングを中心に、ブランドコンサルティングや商品プランニング、アートディレクションからデザインまでシームレスかつ幅広く取り組んでいる。P.K.G.Tokyoでは、これまで様々なメーカーの主要商品ブランディングやパッケージデザインを手がけてきた。
サッポロビール
マーケティング本部新価値開発部
クリエイティブディレクター田中章生
1995年サッポロビール株式会社入社。新価値開発部 デザインルームにて、アルコール飲料を中心にパッケージや商品広告の制作、制作ディレクション、コンセプト開発に携わる。
(文=稲垣宗彦)
【本シリーズの過去の記事はこちら!】
▼<エピソード1~「育種家」という仕事 前編~>
https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/14106/
▼<エピソード1~「育種家」という仕事 後編~>
https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/14171/
▼<エピソード2~「フィールドマン」という仕事 前編~>
https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/14412/
▼<エピソード2~「フィールドマン」という仕事 後編~>
https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/14415/
▼<エピソード3~「醸造家」という仕事 前編~>
https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/15078/
▼<エピソード3~「醸造家」という仕事 後編~>
https://blog.sapporobeer.jp/knowledge/15073/