当初、このウイスキーが製造されたのは1850年だと考えられていましたが、放射性炭素年代測定の結果、1763～1803年の間にまでさかのぼることが判明しました。

ここ数年の間に、ウイスキーの競売市場ではインフレが急速に進み、最高級品が100万ドル（約1.08億円）を超える値段で取引されることも珍しくなくなりました。そんな高価なボトルを開けて飲んでしまうなんて信じられない話ですが、これについては「ウイスキーの味か、それともその背後にある物語のどちらが重要か？」という興味深い議論が展開されています。しかし、250年の歴史をもつとされるバーボンがオークションにかけられたとき、この議論に一つの結論がもたらされるかもしれません。

ボストンに拠点を置くオークションハウス「Skinner Auctioneers」は、“現存する世界最古のウイスキー”といわれる「オールド・イングルデュー・ウイスキー」を、2021年6月22～30日に開催される競売にかける予定です。茶色をしたボトル前面には「ジョージア州ラグレンジにあるエヴァンス・アンド・ラグランド商会 」からの商品であるとエンボス文字で記載が入っており、裏面には「このバーボンはおそらく1865年以前に製造された」という一文で始まるタイプされたメモが貼られています。

もちろん「このバーボンはおそらく1865年以前に製造された」という記述は明らかに曖昧で、推定される年代の範囲も広すぎます。そこでSkinner  Auctioneersで希少な酒類のオークションを担当するジョセフ・ハイマン氏は、1850年製造という当初の推定が正しいかどうか確認するため、注射針で少量のサンプルを採取し炭素年代測定検査を行いました。それまで“最古”とされていたウイスキーは、1840年代〜1860年代にかけて製造されたものがほとんどです。Skinner  Auctioneersも、このウイスキーがとても古いことはわかっていましたが、人類最古とまでは思っていなかったそうです。

しかしジョージア大学とグラスゴー大学の研究者の協力を経て検査を行ったところ、81.1％の確立で1763年〜1803年の間に作られたバーボンであるという結果がでました。

「私自身も研究者の方も、この結果には本当に驚かされました」とハイマン氏はいいます。「南北戦争以降はボトルにある名前を冠した蒸留所が存在しなかったので、（ジェームズ・バーンズ氏も含め）戦前に作られたものだと予測していました。記録によると、食料雑貨店を営んでいた『エヴァンス・アンド・ラグランド商会』は戦後も存続していましたし、ウイスキーをデミジョン（細首の大瓶）に入れて保管することも当時は一般的でした。そこで私たちは、このウイスキーは戦後にデミジョンに詰められ、数十年間保管されたという結論に達したのです」

中身の味はさておき、このボトルには歴史的な逸話もあります。先ほどのメモによると、このウイスキーはモルガン財閥の創業者、ジョン・ピアポント・モルガン氏のセラーに保管されていたものでした。ジョンの息子、ジャック・モルガン氏は、1942～1944年の間にクリスマスプレゼントとして、このボトルをサウスカロライナ州のジェームズ・バーンズ氏に、また遠縁のいとこであるフランクリン・ルーズベルト大統領とハリー・トルーマン大統領にも同じものを1本ずつ贈りました。

政界で目覚ましい活躍を遂げたバーンズ氏は、下院議員、上院議員、最高裁判事を経て、第二次世界大戦中はルーズベルトの推薦により戦争動員局長、トルーマン政権下では国務長官、最後は1951年〜1955年までサウスカロライナ州知事を務めた人物です。

バーンズ氏がこのボトルを“親友で飲み仲間”のフランシス・ドレイクに贈ったのは、輝かしいキャリアの最後の時期だったことは確かです。また、このエピソードにはちょっと笑えるオチがあります。というのも「ドレイク氏とその子孫はスコッチしか飲まなかったので、このバーボンを3世代にわたって手付かずのまま保管することができた」のです。

今になって思えば、ドレイク一家はウイスキーのことを熟知していたのかもしれません。世界で最も高価なウイスキーはスコッチです。1926年物のマッカランが200万ドル（約2.16億円）近くで売れ、世界最高記録を樹立しました。それに対し“世界最古のバーボン”は、2～4万ドル（約216万円〜432万円）で落札されると予測されているのです。

この記事はFood & Wineのマイク・ポメランツが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで。