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愛する地元パブを救うため立ち上がったイギリス、ライトン村

まるで絵画のような「古き良きイギリス」を彷彿とさせるイングランド北東部のライトン村。1800年代、人口増加によって劣悪になる環境を逃れて、ニューカッスルやゲーツヘッドといった近隣の工業都市から富裕層がこの村に移り住んできました。

その当時にまで遡る長い歴史をもつ地元のパブ「イェ・オールド・クロス」。かつてメソジスト派(キリスト教の中でもプロテスタント教会・教派に属する人々)の創始者ジョン・ウェスレーが説教をしていた隣村に立つ記念碑から名付けられたこのパブは、長年の間、地元住民にとって欠かせない生活の一部として親しまれてきました。しかし近年では存続の危機に直面しているため、常連客たちが愛するパブ復活のため奮闘しています。

常連の1人は、2年前にスーパーマーケットやネット通販などとの競争激化によって休業に追い込まれた時は7500人の地元民が悲しみに暮れたと語ります。しかし、このパブを愛する数百人もの人たちが立ち上がり、募金を集め、最終的に地元コミュニティの所有物として存続させていく道を探ることになったのです。

「建物を買うだけのお金はなんとか集まりましたが、それだけで当初の資金はほとんど尽きてしまいました」と12名で構成される運営委員会の1人、テッド・エワーズ氏は言います。「なので今後はパブを存続させためにできることは可能な限り自分たちの手でやってみようと決めたのです」と同氏はAFP通信に語っています。

現在このパブでは、献身的な常連たちが新しく作る2階のバーとエレベーターを設置する準備の手伝いをしています。

 

小規模パブの回復

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Communities are banding together to save Britain’s beloved local pubs OLI SCARFF, AFP

イギリスの大衆文化を象徴するパブを保護し、その消滅を阻止することを目的としたコミュニティ主導の買収を奨励する法律が2010年に可決されると、100軒ほどのパブが個人投資家の所有になりました。イェ・オールド・クロスもその内の1つです。

フランスにおけるカフェのように、パブは何世紀にも渡ってイギリス人の生活の中で重要な役割を果たしてきました。しかし英国国家統計局(ONS)によると、過去13年間に廃業に追い込まれたパブの数は約12,000軒。これはイギリス全土にある酒場の4分の1に相当する数だといいます。

「昨年は、12時間に1軒の割合でパブが廃業しました」と語るのは、イギリスの文化および社会的伝統を象徴する伝統的なリアルエールの製造・販売を促進すると同時に、パブの保護を目指す団体「キャンペーン・フォー・リアルエール」のニック・アントナ会長です。

パブの数が激減している背景には、アルコール消費量の減少、若者の社交習慣の多様化、商用物件に課せられる高額な税金、未だに続く2008年の世界不況の影響など、様々な社会的変化があげられています。

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Pubs have been revived not only as a place to eat and drink, but also as a focus of the community OLI SCARFF, AFP

しかし、パブ復活の希望も見えてきました。ONSによると、昨年は従業員10名未満の小さなパブやバーの数が15年ぶりに初めて増加したといいます。またこのセクターとしてはリーマンショック以来最高レベルの売上高を達成しました。

まさにイェ・オールド・クロスは、人々の力と自由な発想によって、パブを単なる飲食の場ではなく、コミュニティの活力の中心にすることもできることを示す好例です。

パブの常連たちが何カ月にも渡って株主募集の宣伝活動に取り組んだ結果、地元住民の約300名からおよそ15万ポンド(約2000万円)の資金が集まりました。さらに助成金や銀行ローンなど、合計10万ポンド(約1664万)の融資も獲得しています。

株主になったとしてもパブの株価自体は上がりも下がりもしませんが、投資した人々は自分たちのコミュニティを象徴する建物の未来に携わっているという誇りを得ることができるのです。

 

ちょっと一杯

ボランティアの一人であるリチャード氏は、ヨガのクラスも開催されるパブの床を掃除した後、パイントグラスに注いだラガービールを美味しそうに飲んでいます。

「給料の替わりにビールをもらっているわけではないんですよ」と笑うリチャード氏。

今ではヨガだけでなく、地元の編み物クラブや映画上映会など様々なイベントがこのパブで開かれています。こうしたイベントの参加者からも寄付を募ってパブ運営の足しにしているといいます。

ヨガのインストラクターは「これは双方にとってウィンウィンの関係なのです」といいます。

イェ・オールド・クロスをパートナーのビリー氏と2人で経営しているアビゲイル・ベネット氏は、楽なことばかりではないと言います。イギリスではほとんどの場合、パブ運営会社または醸造所が経営権をもち、パブの主人が物件を借りて営業するのが通常です。ベネット氏は、コミュニティ所有のパブの経営は、「標準的なビジネスモデルの場合より精神的には疲れますが、気持ちのうえでは非常にやりがいがあります」と言います。

昔から英国の税金は高く、幅広い層の国民を苦しめてきましたが、最近になってイギリス政府はささやかながら小規模なパブに対する1000ポンド(約13万)の減税を発表しました。減税の対象は商用物件に課される固定資産税です。これまで中小の事業者はこの税金が高すぎて払えないと訴えてきました。

キャンペーン・フォー・リアルエールのアントナ氏は、この減税は言ってみれば「一杯のビールを無料で提供されたくらい」の効果しかない、政府はもっと援助するべきだと考えています。「スタート地点としては悪くありませんが、大けがに絆創膏を貼って治そうとするようなものなのです」。

 

この記事はDigital Journalに掲載されたもので、NewsCredのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまで。

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