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苦痛の吟遊詩人を解き放て! ロックダウンで人気爆発のメタル系テーブルトークRPG「Mörk Borg」

地下牢の主人フリントワームは、4人の冒険者に対して「世界の破滅を止める唯一の方法は、想像を絶するほど強烈なメタル音楽を演奏することだ」と語りかけます。この冒険者たちに課された使命は「The Hall of Cacophonous Screams(耳障りな叫びのホール)」と呼ばれるコンサート会場と、どれだけ飲んでも枯れることのないビール樽、そして5人の「苦痛の吟遊詩人」を見つけ出し、思う存分ジャムセッションを行うことです。しかしこのミッションを達成するまでには小さな悪魔たちを倒し、また迫りくる世紀末的苦難を生き延びなければならないのです——。

といってもこれはロールプレイングゲーム(RPG)の話です。フリントウォームを演じているのは、29歳のクリストファー・ジョエル。来るべき冒険に胸を躍らせています。新型コロナによる外出自粛期間中、RPG愛好家、メタル音楽ファンを含む数百人ものプレイヤーが、この黙示録的ゲームを通してお互いへの親近感を高めていきました。

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こうして多くのファンを熱中させているゲームのタイトルは「Mörk Borg」。テーブルトークRPGとエクストリーム・メタルを融合させた規格外の作品です。メタル音楽の世界観に特有の過激なビジュアル、詩、アルバムアートワークへの敬愛がぎっしり詰め込まれています。

世界初のロールプレイングゲームとして知られる「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のように、プレイヤー同士で協力して一つの物語を作り上げていくテーブルトークRPGでは、厳格なルールやカードではなく、臨機応変な立ち回りや助け合いが重要です。「Mörk Borg」では、プレイヤーがオンラインまたはリアルで集まり、水浸しの穴蔵、拷問用の地下牢、暗黒の砦などを巡る冒険のキャラクターを演じます。サイコロを振って出た数字に従って、モンスターを攻撃したり、死体から食物を盗んだりするのです(あまりにも空腹だったら死体を食べたりもします)。

各プレイヤーが演じるキャラクターがあまりにも頻繁に死んでしまうので、ジョエル氏は死体を埋葬するためのバーチャルな墓地を作りましたが、それぞれの墓石にはユニークな碑文が刻まれています。「テーマも設定も非常にダークですが、ゲームの雰囲気を決めるのはプレイヤー自身に任されています」と彼はいいます。

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「Mörk Borg」のアイデアが生まれたのは2018年の冬のこと。デザイナーのペッレ・ニルソン氏が、スウェーデンの田舎町でリンゴのジュースを搾るために8時間も行列に並んでいた時のことです。あまりにも退屈したニルソン氏は、ブラック・メタルの歌詞そっくりの攻撃的な文章でゲームのルールをノートに書き上げました。

次にアーティストでデザイナーのヨハン・ノール氏に声をかけ、ゲームの基本的なルール、架空の伝説、“Gutterborn Scum”や“Esoteric Hermit”といったキャラクターなどを編集してまとめた簡単なジン(自費出版物)を作ることを決意します。ところが、クラウンドファンディングサイトのKickstarterで1000名以上の人が初版の出版を支援してくれたことから、当初計画した小さなジンではなく、れっきとしたルールブックを作るアイデアに進化しました。最近出版された「Mörk Borg」に関するジンも、たった13分で支援の目標金額が集まったということです。また「Mörk Borg」は、2020年度のENnieアワードでロールプレイング賞を受賞しただけでなく、今年リリースされたゲームの中で最も優秀な作品に選ばれています。

「このようなゲームの登場を待ち望んでいた人が大勢いたのではないでしょうか」と語るのは、スウェーデンのデスメタル界で活躍するミュージシャンからRPGの歴史家に転身したオヴァ・セーヴストロム氏。「ダンジョンズ&ドラゴンズ」へのオマージュが詰め込まれたテレビシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のように、最近のポップカルチャーシーンでは80年代のリバイバル系作品のリリースが続いています。またセーヴストロム氏は、パンデミックの緊急事態かどうかに関わらず、昔ながらのゲームスタイルと初期メタル音楽の組み合わせは絶対にブレイクすると断言します。「『Mörk Borg』は雰囲気も見た目も“アングラ”です。だからこのゲームをプレイしていると自分が特別な存在になったように感じられるのです」

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「本作りというよりは音楽のバンドをやっているようなものでした」と制作のプロセスについて振り返るニルソン氏。ニルソン氏もノール氏も、Belzebong からMurgまで、メタルバンドの音楽を四六時中聴いています。そのためこのゲームブック全体にもメタル音楽へのオマージュやビジュアルが散りばめられているのです。例えば「Bowels of a Baby Killer(赤ん坊殺しの内臓)」はアメリカのスラッジメタルバンド16のヒット曲ですが、「Mörk Borg」の中には自分のにおいを消すために内臓を使うキャラクターがいます。ゲームや関連するサブカルチャーを愛するファンのために立ち上げられたチャットルーム「Mörk Borg Discord」には、バードコア、スラッジ、ストーナードゥーム、ゴシック、そしてもちろんブラック、デス、ドゥームと、ありとあらゆるタイプのメタル音楽からお薦めの楽曲が山のように寄せられ、その全てを聞く時間が確保できないほどです。

ブルネル大学の講師でメタルと“怪奇フィクション”を研究しているジョセフ・ノーマン氏は、Mörk Borgのサントラに含まれている、徹底的に吟味された選曲に驚いたといいます。7時間もあるこのプレイリストには、例えばYOBの「The Screen」やConanの「Hawk as Weapon」などがあり、その歌詞には、他の楽曲と同様、モンスターによる攻撃や古代の廃墟が登場するのです。

「こうした楽曲の一つ一つが、ゲームの各ステージの設定や雰囲気作り、ロケーション、アイテム、アクションのアイデアとして使えます」とノーマン氏。例えば現代版のバッカス賛歌アルバム「Amongst the Catacombs of Nephren-Ka」は、ファンが作った「Mörk Borg」の冒険のタイトルとしてあっても全く違和感はありません。

また、ノーマン氏によると、伝統的にメタルアルバムにはシンセサイザーを使って作曲された間奏曲が入っていますが、ゲーム内の地下牢の主人たちが、自分たちのサントラをシンセサイザーで作曲したことから、「ダンジョン(地下牢)シンセ」という新しい音楽のジャンルまで誕生したといいます。

そして、このようなダンジョンシンセの楽曲からさらに新しいゲームが生まれるという連鎖も起きています。しかしMörk Borgの完成度は群を抜いています。そしてミュージシャンたちはすでにこのゲームにインスパイアされた楽曲をリリースしていますが、このMörk Borg自体がもともと色々なゲームにインスパイアされた音楽をそのルーツにもっています。つまりこうしたクリエイティブのループは周り続けるのです。

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実際、RPGは名作とされるアルバムのインスピレーションになってきたことも事実です。最近ではアメリカのバンドThe Mountain Goatsが「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の戦いで破れた魔法使いたちを描いた“不完全なロックオペラ”としてアルバム「In League With Dragons」を発表しています。今後もこのような作品がリリースされていくことでしょう。

MartyrdödとIron Lambという二つのメタルバンドでベーシストを務めるダニエル・エケロス氏は、RPGをプレイしたことはほとんどないという、しかし「Mörk Borg」のページをめくると「ちょっと興味をそそられます。もしかすると、このゲームがついに私を未知の世界に連れていってくれるかもしれませんね」といいます。そんなエケロス氏にとって幸運なことは、「Mörk Borg」ではベースギターは強力な武器であり、ゾンビの首を簡単に切り落とすことができるということです。

copyright Ockult Örtmästare Games and Stockholm Kartell, all rights reserved

この記事はThe Guardianのピアース・アンダーソンが執筆し、 Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで

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