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キュートなバトロワゲーム「フォールガイズ アルティメットノックアウト」の開発秘話に迫る

以前の私なら「ゆるキャラのバトルロイヤルゲームがリリースされる」と聞いた途端、一笑に付したことでしょう。そして、イギリスのゲーム開発会社、メディアトニック(Mediantonic)が手掛けた、とてもキュートなバトロワゲーム「フォールガイズ アルティメットノックアウト(Fall Guys: Ultimate Knockout)」が出た時には、本当に笑ってしまいました。なぜなら、このゲームがものすごく楽しめる内容だったからです。

もともと「フォールガイズ」は、私がE3 2019(世界最大級のゲームの祭典)で見たゲームのなかでも最も注目したタイトルの一つでした2020年8月4日に発売されたこのゲームは、1980年代に日本で放映されていた「痛快なりゆき番組 風雲!たけし城」や「Exceed」「Wipeout」といったTV番組のゲームからインスピレーションを受けています。最大60人のプレイヤーがキュートなキャラクターになって奇想天外な障害物コースを走り回り、最後のひとりになるまで戦います。用意されているミニゲームは25種類あり、 例えば3 チームで対戦する「エッグ・スクランブル」では、全力疾走して卵を集め、自軍のバスケットを最初に一杯にしたチームが勝利します。

「フォールガイズ」の開発について、メディアトニックのリードゲームデザイナーであるジョー・ウォルシュ氏とクリエイティブディレクターを務めたジェフ・タントン氏に話を聞きました。このゲームはデボルバー・デジタル(Devolver Digital)からPlayStation 4とSteamでリリースされています。

以下はインタビューの抜粋です。

 

進化し続けるゲーム

メディアトニックのクリエイティブディレクター、ジェフ・タントン氏

クレジット:メディアトニック

GamesBeat2019年のE3で「フォールガイズ アルティメットノックアウト」を拝見した後、どうなったのか気になっていました。どうやってゲームの開発を進めていったのですか。

ジョー・ウォルシュ:この1年は、いろいろと大変な世の中だったこともあり、本当に忙しい毎日でした。どんなゲームでも作るのは大変ですが、特に「フォールガイズ」では、ゲームの要となる二つの部分を、自分たちの思い描く形にしっかり仕上げようとフル作業を続けてきました。一つ目はキャラクターです。以前にお話ししたように、ぬいぐるみっぽい動きを再現しようとしたのですが、これを60人という規模に拡大するのは本当に大変でした。何しろ一つのキャラクターでシミュレーションしたことが全部60倍になるんです。ゲームが重くなりすぎないように抑えるべきところは抑えつつ、ユーザーが笑ってしまうようなゲームの世界観を維持するバランスを見つけるのに苦労しました。ぬいぐるみっぽさがなくなると、コミカルさも消えてしまうからです。

ジェフ・タントン:キャラクターが転げまわるのはなぜかというと、それが彼らの一番得意なことだからです。転倒するキャラクターにドタバタアクションの面白さを感じてもらえるように気を配りました。参考にしたのは「風雲たけし城」に「Exceed」「Wipeout」などのゲーム番組です。キャラクターたちの存在意義は転んでみんなを笑わせること。この規模のゲームでちゃんとぬいぐるみっぽい動きを出すのは本当に難しかったです。

ウォルシュ:そしてもう一つはミニゲームです。たけし城に匹敵するゲームを作るには、たくさんのクレイジーなミニゲームが必要でした。それぞれ全く異なる25のユニークなミニゲームにするため、僕たちは猛スピードで開発しました。どれも奇想天外な内容を目指したので、個々のミニゲームはそれぞれ全く別のゲームを作っているようなものでした。新しいマップを作ったり、新しいジオメトリを配置したりしただけではなく、ゲームメカニクスや物理的な設定もミニゲームごとに変えています。この全てを一つのゲームにまとめあげるのは、本当に大変な作業でした。

メディアトニックのリードゲームデザイナー、ジョー・ウォルシュ氏

クレジット:メディアトニック

プレイヤーの上限は60人ですが、この数字はどうやって決めたのですか。

ウォルシュ:プレイヤーの数を100人で試したところ、人数が多過ぎることが分かりました。でも同時に、たとえ人数を減らしたとしても、ユーザーにとっては100人くらいでプレイしているのと感覚的には変わらないということも分かりました。30人でもものすごくカオスに感じます。60人ならグラフィックやアセットのクオリティを上げられるし、その方が良いゲームになると考え、最終的に60人に決めました。100人より60人の方がずっと楽しくプレイできると思います。

GamesBeat:ミニゲームの設計で上手くいったことや失敗したことはありますか。

ウォルシュ:初期の段階でミニゲームに関する基本的なルールを決めました。開発の指針となる重要な決定です。その中でも一番大事なルールは「英単語3つでそのミニゲームを説明できなければならない」というもの。でなければ複雑になりすぎてしまうからです。僕たちが作りたかったのは、子どもが公園でする遊びや、ゲームショーのスピリットを体現したゲームです。開発を進めるうえで、この点をとても大切にしました。

もう一つのポイントは、スキルとカオスの最適なバランスを見つけること。プレイヤーには楽しみながらどんどんスキルを伸ばしてもらいたいと思いますが、やり込んでいるプレイヤーだけが常に勝つゲームにはしたくありませんでした。そのためのカオスとスキルの絶妙なバランスを見つけることも大きなチャンレンジでした。最終的には、だいたいスキル80%、カオス20%の割合に落ち着きました。「フォールガイズ」らしさを出すにはこのバランスが一番だと思います。

バラエティに富んだゲームプレイ

Fall Guys comes out on August 5.

2020年8月に発売された「フォールガイズ アルティメットノックアウト」

クレジット:デボルバー・デジタル

GamesBeat:伝統的なバトロワ系シューティングゲームはたいてい1~2個くらいのマップからスタートし、モードの種類はそれほど多くありません。「フォールガイズ」ではミニゲームの豊富さが大きな特徴ですが、なぜそんなに大きな違いがあるのでしょう。

タントン:ゲーム番組の雰囲気を再現するだけではつまらないからです。例えば「Fortnite」「PUBG」などのゲームでは、一つのマップで20分から、うまくいけば30分ほどプレイすることになります。マップは広大な空間であり、没入型のゲームプレイに向いています。一つのマップの中で様々な体験をすることができるからです。

僕たちは、きっちりと作り込んだ、明確なゴールがある体験を作りたいと考えました。ジョーが言うように、ゴールはプレイヤーが理解できるものでなければなりません。ほとんどのミニゲームは、最後までやっても15分程度で終わります。幅広い体験を提供するため、プレイヤーには次にどんなミニゲームをプレイするのか分からないようにしています。これはゲーム番組によく似た形式です。プレイする度に異なるゲームがランダムで出てくるようにするため、開発に際して膨大な範囲をチェックしなければなりませんでした。エマージェントゲームプレイ、物理アセット、カオスだけでなく、コースを駆け抜けるたびに異なる体験ができるようにする必要があるからです。また、次にどのミニゲームが出て来るか予測不能であることも大切です。

GamesBeat:昨年も反響が大きかったみたいですね。PRにも多くの時間を費やしたのでしょうか。 

タントン:そうですね。特にE3に出展するときは、メディアに注目してもらうことが重要です。でも、E3の後に「みんなの期待に応えないと!」「約束したことを全部実現しなきゃ」というプレッシャーを感じないゲーム開発者はいないのではないでしょうか。開発者は自分の持てる力を出し切って最高のゲームを作らなければいけません。E3で好感触を得られたのは、励みになりました。 しかし、誰もが自分たちの作っているゲームを知っていて、とても楽しみにしているとなると、開発チームにもプレッシャーがかかります。すると突然、できる限り最高のゲームを作りたいという熱意が湧いてくるんです。

ウォルシュ:最近の重要な取り組みは、クローズドベータ版のプレイテストです。これによって僕たちのコミュニティから率直でオープンなフィードバックを得ることができました。そしてこのコミュニティのメンバーたちは最初からこのアイデアを熱狂的に迎えてくれました。プレイテストの大部分は、プレイヤーたちの反応を見て、それを確実にゲームに反映することに費やされました。今のところは順調に進んでいると思います。プレイテストは週に2〜3回行っています。

タントン:誰もが協力的な、素晴らしいコミュニティです。プレイテストでダメなところが見つかればちゃんと教えてくれるので、修正して調整することができます。この開発方法には手応えを感じています。

GamesBeat:開発チームには何人くらいのスタッフがいますか。

タントン:最も多い時で30人くらいです。初期のプロトタイピングでは、オリジナルメンバーの5人が会議室に集まって、どうやってこのゲームの開発を進めていくか議論しました。あの頃に比べると明らかに成長したと思います。

GamesBeat:「フォールガイズ」にはライバルとなるゲームタイトルがないように思います。 “笑えるバトルロイヤルゲーム”というのは非常に珍しい存在です。

タントン:もともとは「バトルロイヤルゲーム」として宣伝しようとは思っていませんでした。このゲームの売り込みをしていた時期には、いたる所でバトロワゲームを目にしましたし、いまさらバトロワを出しても見向きもされないのではないか、発売する頃にはバトロワは飽きられているのではないかとも思いました。「フォールガイズ」は、「大人数でプレイするのは好きだし、バトロワのコンセプトも好きだけど、銃を撃つのは苦手で『Fortnite』や『PUBG』では楽しめない人のためのバトロワ的なゲーム」という当初のアイデアを忠実に実現していると思います。

僕はみんなが参加できるという「フォールガイズ」のコンセプトが特に気に入っています。これには誰もが共感できるのではないでしょうか。大勢でスタートして、最後にたった一人が生き残る、60人ものグループの最後の一人という存在は、なんともロマンチックで爽快な感じがします。僕たちはこの感覚を大事にしました。「フォールガイズ」は、どんな人にも親しみやすく楽しめるゲームを目指して作ってきました。バトロワという素晴らしいコンセプトを、より幅広いユーザーが楽しめるように作り変えてみようと思ったのですが、そこにみんなが反応してくれたんだと思います。ツイッターやSNSを通じて「ついに私にもプレイできるバトロワが出た!」というコメントをたくさんもらいました。それこそまさに僕たちが目指したところです。

笑いの追求

バトロワゲームとしてはユニークな世界観が特徴の「フォールガイズ アルティメットノックアウト」

クレジット:デボルバー・デジタル

GamesBeat:ミニゲームの中で思わず笑ってしまうところはどこですか。ユーモア溢れるコンセプトがあれば教えてください。

ウォルシュ:最初に作ったミニゲームの一つ「シーソーゲーム」は、基本的には空中に巨大なシーソーが浮かんでいるだけの構成で、プレイヤーがシーソーの上を走ると上下するように設計されています。もし現実にあるとすれば、長さ100メートルくらいの巨大なシーソーです。初めてプレイした時、プレイヤー同士競い合ってはいても、クリアするにはお互いに助け合わなくてはいけないという「フォールガイズ」の理念をしっかり表現できていると実感しました。転ぶ人も落っこちてしまう人もいる。「プレイヤーにこんなことをさせるゲームなんてやったことがなかったけど、すごく楽しいじゃないか!」と思ったのを覚えています。

このミニゲームはちょっと人を選ぶかもしれません。イライラする人もいると思いますが、僕は大好きです。僕たちがやろうとしたことが正確に体現されている、実に「フォールガイズ」らしいゲームだと思います。

タントン:僕のお気に入りは「ゲートクラッシュ」です。開閉するドアを通り抜けて、ほぼ直線のコースをひた走るだけの実にシンプルなゲームです。でもコースの終わりに液体が流れるスロープがあって、最後にジャンプに成功しなければクリアできません。こんなことをさせるプラットフォームゲームは見たことがないと思います。開閉する3つのドアがあって、プレイヤーはベトベトのスロープに飛び乗って滑り降り、ジャンプでこのドアを通過しなくてはいけないのです。ドアがジャストのタイミングで開いてくれれば良いですが、そうでなければ顔面からドアに突っ込むことになります。もう1000回は見たと思いますが、プレイヤーたちがドアに顔をぶつける姿は何度見ても飽きないですね。

本当にたくさんのミニゲームがあります。全部で25種類ですが、もはや懐かしい感じさえします。しばらく見ていないと「こんなのがあったなんて完全に忘れてた!」と思うくらいです。なかでも「エッグ・スクランブル」は傑作だと思います。マップの真ん中に巨大な卵の山があって、3つのチームに分かれたプレイヤーが卵を集めて自分のチームのバスケットに入れるというものです。「ハングリー・ハングリー・ヒッポーズ(Hungry  Hungry Hippos)」のゲームにちょっと似ています。

でもプレイするたびに、ちょっとした悪ふざけを楽しむことができます。みんなが卵を巡ってけんかをするし、他のチームから卵を盗んでくることもできます。このゲームには今までになかったやり方でこのいたずらの要素を取り入れました。「エッグ・スクランブル 」は誰でも自分なりの遊び方を楽しむことができるので、プレイするたびに「よしやるぞ、僕には特別な作戦があるんだ」と思えるミニゲームの一つです。

タントン:「ためこみ合戦」もすごくいいですよ。3つのゾーン、3つの色、そして7つの巨大なサッカーボールがあるだけ。ゲーム開始から1分半後に最も多くのサッカーボールを自陣に持っているチームが勝ちとなります。または一番少ないチームが敗退となります。とても単純なゲームですが、始まった途端にみんなが巨大なボールを転がして、息を切らせながら相手のボールを盗んだり邪魔しあったり。さらにそこに何か飛んできてぶつかって、と実にカオスな状態になるんです。

ものすごく緊張感高まるゲームなのに、誰もが理解できる実にシンプルなコンセプトが特徴です。走ってボールを転がし、ゾーンに入れる。このミニゲームの中に1分半だけ存在する完全架空のスポーツですが、プレイするたびにいつも何か違うことが起きて、みんなが大真面目に戦えるというのが素晴らしいと思います。

GamesBeat:自分たちと同じように他人も面白いと思うかどうかはどうやって判断するのでしょう?

タントン:ジョーと僕が最高に面白いと思うゲームを作ったとしたら……うーん、ジョー、君ならどうする?

ウォルシュ:そうなったら、いつも通りのプロセスに従います。まずは設計チームと非常に綿密な話し合いをして、リスクを特定し、細かいところまで議論を詰めます。「面白いけど深みはあるのか?」「何度でもプレイしたくなるか?」「ゲームとして成り立つのか?」と、機能しないアイデアを排除するために最大限の検討を行います。幸いにも今は大きなスタジオがあります。メディアトニックは200人以上のスタッフを擁する大きなチームに成長しました。アイデアをできるだけ早く形にして、ちゃんと機能するようにしたら、スタジオのスタッフにプレイしてもらうんです。

この規模のマルチプレイヤーゲームの素晴らしい点は、たくさんの人数でプレイするので、スタジオのスタッフから評価と回答のデータを得られることです。僕たちはゲームの良し悪しを判断できるスタッフの力を信頼しています。スタッフのみんながプレイして、全員から10点満点中3点の評価を受けたら、そのゲームはすぐにゴミ箱行きです。「これは絶対10点のアイデアだ! どうして分からないんだ!」と言い張ったことも何度かありますが、最終的にはスタッフの判断が採用されます。ゲームはちょっとどこかを修正しただけで、評価が最悪から最高になることもあるのでとても興味深いです。その逆もまたしかりですが……。つまりはプレイテストをきちんとやれば問題は少ないということです。

Fall Guys: Ultimate Knockout

メディアトニックが「フォールガイズ アルティメットノックアウト」」を開発

クレジット:デボルバー・デジタル

タントン:まだリリースするレベルには達していないゲームを世の中に出してしまうと、ユーザーから多大な怒りを買うこともあります。デザイナーとして、彼らがダメだと指摘しているものは、必ずしも彼らがダメだと思っているものとは同じではないということが見えてくる時があります。そんな時は、何か一つの要素を変更するだけ良いのです。みんなにダメ出しされている時にこの決断をするのはとても勇気がいる場合もありますが、ジョーが言うように、ちょっと手直しすると突然みんなに気に入られることもあるので、自分の直感に従うことも時には必要です。

GamesBeat:最近は、ユーザーみんなが口を揃えて「面白い」というゲームは少ないように思えます。ユーモアは簡単にはマスターできないものですね。

ウォルシュ:特にバトロワ系ではそうです。でも、だからこそチャレンジしてみる価値があると思います。ユーモアはとても個人的なものですが、ストーリーテリングも同じです。もし「フォールガイズ」が笑いをとろうとして必死になっている物語系のゲームだったら、一部の人には大うけするかもしれませんが、その他全員には酷評されると思います。でも、質の高いドタバタコメディには普遍的な何かがあると信じています。上手にやれば誰でも笑わせることができます。「フォールガイズ」もそこに着地できればいいなと思います。

GamesBeat:私は「コール オブ デューティ ウォーゾーン」の世界に入って、ヘリコプターで人をバラバラにするのが好きなんですが、そんな怖いことできないと思う人もいるでしょうね。

タントン:そんなこと簡単にできる人はなかなかいませんよ!

ウォルシュ:巨大なヘリコプターの羽根の間を走り抜ける「ぐるぐるファイト」というミニゲームがあるんですが、これならもしかして気に入ってもらえるかもしれませんね。「フォールガイズ」のキャラクターはバラバラにはなりませんが。

この記事はVentureBeatのディーン・タカハシが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで。

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