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「ニッポンのシン・レモンサワー」開発物語 後編 “サッポログループ”の強みを活かした協働開発が生み出したおいしさ
本記事は、「ニッポンのシン・レモンサワー」開発物語 前編 迷わず選べる、レモンサワーの「シン・定番」ブランドマネージャー黒柳真莉子インタビュー記事の後編です!
本記事の登場人物
マーケティング本部 ビール&RTD事業部「ニッポンのシン・レモンサワー」担当 黒柳真莉子
2015年サッポロビール株式会社に入社。東海北陸エリアのマーケティングを経験した後、3年間RTD(レディ・トゥ・ドリンク:購入してすぐに飲める缶やペットボトル入りの飲み物)の商品開発に従事。2021年にビール&RTD事業部に着任、現在はニッポンのシン・レモンサワーをはじめとするRTD商品のブランドマネージャーを担当している。
■ポッカサッポロの主力はやっぱり“レモン”
――まずはサッポロ ニッポンのシン・レモンサワー、滑り出しは好調だそうですね。
黒柳真莉子(以下、黒柳):おかげさまで予想を超える売上を記録しています。
――Twitterなどを見ていても、好意的な意見が多くて驚きました。
黒柳:ポッカサッポロとの協働開発がきちんと実を結んだ形です。お客様から「おいしさ」を評価していただけていることがうれしいですね。
山口研志(以下、山口):アルコール飲料の開発に携わったのは初めての経験でしたが、きちんとお客様に評価いただけてよかったです。
――山口さんたちも数十種類のレモンサワーを飲み比べて味を評価されたとか?
山口:僕らが試飲したのはそれらすべてではなくて、いわば予選を勝ち抜いた(?)ものだけでしたが、それでもかなりの数がありました。ブラインドテストだったので何を飲んでるかわからなくてドキドキしましたし、評価項目の多さに苦労しましたね。
――レモンマイスターである山口さん、田村さんにとっても貴重な体験だったんですね。ポッカサッポロといえば、やはり「ポッカレモン100」のイメージが強いですけど、やはりレモン関連の商品が主力なんですか?
山口:ポッカサッポロはレモン、飲料、スープ、それとプランツミルクの4つの事業があります。レモンはやはり主力であり、これから成長させていこうとしている領域でもあります。ちなみにプランツミルクとは、豆乳などの植物性ミルクですね。
1957年にポッカレモンが誕生して以来、ずっとレモンに向き合ってきました。
――もともとレモンが主力なうえに、さらに成長を狙っているんですね。
山口:現状の数字だけでいえば飲料のほうが大きいですが、レモンは直近でも右肩上がりで伸び続けていますね。その流れに乗って、世の中にもっとレモンを広げていくことを目標にしています。レモンの果汁だけでなく、通常なら捨てられることの多い果皮までを活用した開発や、自社農園でのレモン栽培などレモンの産地形成にも取り組んでいきます。
――産地形成って、生産から一貫して関わっているんですね。
山口:そうですね。そんなポッカサッポロだからこそできる“レモンまるごとの価値”をあらゆる食カテゴリーで展開できるよう取り組んでいます。
田村安吾(以下、田村):レモンとひとくちに言っても、家庭用のレモン果汁のトップシェアを誇る「ポッカレモン100」のような商品もあれば、果皮の加工品といった業務用の素材もあって、かなり幅広く扱っていますね。
業務用の素材は総菜や製菓・製パンなど、様々なところでご使用いただいているので、知らず知らずのうちに皆さんが口にされていることも多いのではないでしょうか?
山口:「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」の缶に印刷されている「ポッカレモンプロフェッショナル」というブランドがまさにその取り組みのために立ち上げたものです。食のプロのためのレモンの素材をこれからもっと提供していくのがこのブランドの狙いです。
■発売前提だからこそのプレッシャーも
――お二人は開発にあたって「レモンマイスター」としてご参加されていますが、これは資格試験のようなものはあるんですか?
田村:資格試験ではなく、レモンの素材などの開発に携わるレモンの専門家といった意味合いですね。
――ふだんのお仕事もやはりレモンの素材やそれを使った商品の開発をされているんでしょうか?
田村:レモン果汁入りの炭酸飲料を中心とした商品開発を主に行っています。それと並行してレモンを使った素材の開発などにも携わっていますね。
――日本ではレモンはひとくくりに「レモン」として売られているケースがほとんどですが、実際にはレモンにもいろんな品種があるんですよね?
山口:ありますね。日本で売られているのはユーレカ種とかリスボン種が多いですね。シチリア原産と言われるビラフランカ種なんかは日本でも多く栽培されています。
他に、果汁はイタリアから多く輸入されていて、その主要品種はフェミネロ種です。
ただ、レモンを素材として使う場合は品種の違いよりも、どう加工するかといった処理の違いのほうが影響が大きいので、生食ほどデリケートに影響はしないですね。
田村:そうですね。加工されたものをどう組み合わせるか、どう使うかというほうが重要ですね。
――なるほど。そういえば「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」でも「セミクリア果汁」と「レモンピューレ」という2種類の素材を組み合わせて使っていますよね。ところでお二人はどういった経緯で開発に加わることになったのでしょうか?
望月あゆみ(以下、望月):新商品の企画を担当する新価値開発部で、新しいレモンサワーを作る企画がまず立ち上がりました。レモンサワーは市場にたくさんの商品が溢れかえっていますが、「そのなかでも本当においしいものを作りたいね」と始まった企画です。
ポッカサッポロにはレモンのプロがたくさんいますし、レモンに対する知識も豊富。そういった方にご協力いただいて中味を作ったら新しいものができるんじゃないかと思ってお声がけしました。
――企画のほんとうに初期の段階から協働がはじまったんですね。
望月:そうですね、まさに「一緒になって作り上げた」感じです。
――2社の協働開発というと、相当に力の入ったプロジェクトだったということでしょうか?
望月:そうですね。グループの叡智を集結した、力の入ったプロジェクトでした。
――そういえば開発しても商品として販売されるに至らないものはたくさんあるとうかがいました。開発した商品のうち、実際に販売されるのはどれくらいなのでしょうか?
山口:コンセプト立案、企画、実際に手を動かしはじめてから、と、販売までのあいだにいくつかの壁があるんです。最終的に半分くらいでしょうか?
望月:お酒の場合は中味を開発する段階までいったとしても、商品としてお店に並ぶのは更に少ないです。
――商品として発売されるまでが茨の道なうえに、それがご好評いただけるって、作る側としての喜びはすさまじそうですね。
望月:発売を前提に頑張っていたとはいっても、必ずヒットする訳ではないので、今は少し胸をなで下ろしています。
■改めて考えた「アルコールとあうレモン素材」
――「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」の企画が実際に動き出したのはいつぐらいですか?
望月:新価値開発部からポッカサッポロにお声がけさせていただいたところ、山口さんと田村さんのお二人にご協力いただけることになりました。市場にあるレモンサワー飲み比べをしたのが昨年、2022年の4月だったと思います。先入観を取り除くためにもブランドや商品名を伏せて飲み比べを行い、「どういうものをおいしいと感じたか」を一緒に評価していきました。
――レモンマイスターのお二人はお酒の開発ははじめてですか?
山口:アルコール飲料に使いたいという依頼に対して原料や素材を紹介したことはありましたが、こんな風に味づくりの段階から本格的に携わったのは、田村も私もはじめてですね。
――ふだんの商品開発との違いを感じた部分などはありましたか?
田村:すごく当たり前の話なんですけど、味覚設計のなかに「お酒そのものの味」が加わっていることが最大の違いですね。アルコール度数が同じくらいでも、お酒の独特な風味を感じるものとそうでないものがあることを改めて感じました。
飲み応えにもつながる部分なので、そこが難しかったですね。
山口:どんなお酒と組み合わせるかという違いはあるにしても、やはりアルコールの味は前提として外せない部分。それとマッチするレモンとはなんだろう?と、はじめはそこがまったくわからず、不安もありましたね。
ただ、それがブラインドテストで多数の商品を飲み比べたことで、甘味や酸味、アルコールの感じ方など、自分のなかに軸みたいなものが生まれていきました。
――「チューハイ」と聞くと私はどうしても焼酎をイメージしてしまう人も少なくないと思うのですが、「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」はウォッカベースなんですよね。これは当初から決まっていたのでしょうか?
望月:そうですね。ウォッカは雑味がなくて綺麗な味わいが特長です。今回はポッカサッポロとの協働開発ということもあって、レモンのよさを引き立てるのにウォッカがベストだと判断しました。もともとサッポロビールのRTDはウォッカベースのものが多いです。
■味の決め手は「セミクリア果汁」と「レモンピューレ」
――最終的に「セミクリア果汁」と「レモンピューレ」という2つの素材を組み合わせることになったわけですが、この2つに決まった経緯を教えてください。
田村:ポッカサッポロのレモン関連の素材を15種類程度、紹介させていただきました。試飲などを経て作りたい味のイメージが固まってきたあとは、サンプルを送って実際に試作してもらったりと、そのなかから味覚にあうものを選抜していきました。
――複数の素材を組み合わせるのは一般的なんですか?
望月:果汁として使う素材は一種類だけというケースが多いですね。
――「すっきりとした味わい」が市場に求められていることがわかって、そこを目指した部分があるとうかがっています。素人考えからすると、「すっきり」を目指すなら素材の数は少ないほうがよさそうに思うのですが、これはサッポロビールとポッカサッポロ、どちらの提案だったのでしょうか?
黒柳:どちらかが提案したという形ではないですね。最初に「この素材はこのような特長がある」といったことをレモンマイスターのお二人に教えていただいたのですが、それをベースに話し合っているうちに、自然とこの2つに決まりました。
田村:15種類すべてを試したというよりも、求めている味がはっきりした時点で素材の候補がある程度絞られていったような形です。
望月:レモンマイスターのお二人はやはりレモンに対する知識が深いので、お話をうかがいつつ味を組み立てていった形ですね。
――最終的に採用された「セミクリア果汁」と「レモンピューレ」という素材はそれぞれどういった特長を持っているのでしょうか?
山口:「セミクリア果汁」は文字通り、半透明の果汁ですね。レモン果汁には大きくわけて「混濁果汁」と言われる濁ったタイプと、透明度の高い「クリア果汁」の2種類があります。
混濁果汁はいわゆる果実感であるとか、コク、濃厚感がありますが、その反面、使い方によっては雑味も感じられるケースもあります。「クリア果汁」はその反対で、とてもすっきりした飲み口ですが、レモンの果実感としては物足りなく感じられることもあります。
たとえば酸っぱさが同じくらいだったとしても、「混濁果汁」と「クリア果汁」ではその感じ方に違いが出ます。「クリア果汁」はドライというか、酸味がわりとシャープに感じられます。
今回の「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」で使っている「セミクリア果汁」は、両者の「いいとこどり」というか、果実感もありながら、すっきりと飲めるのが特長です。
――なるほど。混濁とクリアの両方の特長がうまく出ている果汁、それが「セミクリア果汁」なんですね。「レモンピューレ」はどうでしょう?
山口:「レモンピューレ」はレモンの果実のうち、「果肉」と呼ばれる部分を凝縮した素材です。レモンのジューシーさをそのまま味わえる素材として、ポッカサッポロの飲料でもよく使っている原料のひとつですね。
「混濁果汁」や「レモンピューレ」を使った場合、酸味の強さは同じくらいでも、全体的に味に丸みが出るんですよ。
■裏テーマは「自分が毎日飲みたいものを作る」
――「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」はレモンの果実感、果汁感は感じられるのに、それが「過剰過ぎない」ところが魅力です。お話をうかがうと、まさに「セミクリア果汁」と「レモンピューレ」のコンビネーションの賜物であることがわかりますね。
望月:「混濁果汁」を使うと果実感を高められるのですが、同時に雑味も出てしまうことがあります。そうするとアルコール自体から感じられる苦味との相乗効果で後味が悪くなったり、飲みにくくなったりしてしまいます。
「セミクリア果汁」と「レモンピューレ」をバランスよく使うことで、レモンの果実感がありながら、毎日飲んでも飲み飽きない、すっきりした味わいを実現できたと思います。
――最終的な味に対するバランス調整はそうとう難しかったのではないでしょうか?
黒柳:最終的な調整はいろいろと試しましたよね。
山口:細かい調整を何度も重ねましたね。
田村:バランスのよさって、ともすると没個性につながりかねないと思うんです。飲み飽きないバランスを追求しながらも、レモンのおいしさや果汁感をしっかり残し、そこで個性を感じさせる。その部分にいちばん時間をかけましたし、最終的にそれが実現できたと思っています。
――おそらく皆さん、味覚の好みや鋭さに個人差はあると思うんですよね。商品としていいものを作るうえで、自分の好みから外れてしまうことってあるんでしょうか?
黒柳:コンセプトを重視するために、自分の好みを少しわきにどけておくようなことは企画サイドとしてはよくあることですね。
田村:清涼飲料水を作っているときにもそれはありますね。
山口:うん、あるよね。自分はこっちが好きだけど、オススメはこっち、みたいな。
田村:やはり商品を作るうえではマーケティング的な側面は避けて通れません。ターゲットとなるお客様に美味しいと思ってもらえるものを作ることが目的ですから、そこは個人としての好みよりも市場が求めているだろう味かどうかを重視しますね。
――今回の「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」では皆さん、どうでしたか?
黒柳:皆さんプロフェッショナルなので、そこは個人の嗜好をまじえつつ、しっかり判断基準を持って意見を出していましたね。
望月:実は自分のなかでは「自分が毎日飲みたいものを作ろう」という裏テーマがあったんです(笑)。でも、自分がよいと思ったものと皆さんがよいと思ったものが大きく外れることはなかったですね。
黒柳:何度も話に出てきますけど、やっぱりみんなでたくさんの商品を試飲したときに「こいういうものを作ろう」といった共通のイメージが生まれたのは大きかったと思います。
最初はレモン感もりもりのスペシャルなものも想定していたなかで、いろいろ飲み比べてみたら「やっぱりレモンサワーってすっきりしたものがおいしいよね」と。そこはレモンマイスターのお二人とサッポロビール側が知見を共有できたことが大きかったですね。
望月:やはり果汁感を出そうとすると、酸味を強くした味にしがちなんですね。でも、そういった固定観念みたいなものをいちど捨てて、リッチな味わいながら酸っぱすぎない部分がうまく表現できたと思っています。
――お二人ともアルコール飲料の開発ははじめてとおっしゃっていましたが、何か思うところはありましたか?
田村:いろいろ意見を交換したことで、商品開発としてどのようなものが求められているか、理解が深まりましたね。今回の経験は素材の開発にかなり役立つと思いました。
山口:味づくりを重ねて完成まで持って行く過程はとても勉強になりました。それと同時に、レモンの会社として、より魅力的な味づくりに貢献できるような原料やノウハウをもっと持っておくべきだと思いました。こういった協働開発が2回、3回と続くとしたら、その期待に応え続けたいですね。
■味と香り、食事とのマッチングをぜひ楽しんで
――最後に、お客様に向けたメッセージがあればお聞かせてください。
田村:レモンの果実をかじることってほとんどないですよね。でも、皆さんのなかに、レモンならではのおいしい果肉や果汁のイメージってあると思っています。「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」はそういった酸っぱさだけでない、レモンならではのおいしさが楽しめますし、何杯飲んでもそのおいしさをずっと味わえるお酒になっています。ぜひそこを楽しんで欲しいですね。
山口:自画自賛になってしまうかもしれませんが、酸味や苦味のバランスが絶妙なものができあがりました。
また、味だけでなく、缶をぷしゅっと開けたときに炭酸ガスとともに立ちのぼる香り、飲んだときに鼻に抜ける香りもそれぞれとてもフレッシュなものになっています。
味も香りもしっかりとレモンが感じられますが、けっしてしつこくはないはずで、だから2口目、3口目と飲み進められますし、毎日飲んでも本当に飽きない仕上がりになりました。
田村も言ってますが、酸っぱさだけでない、レモンのおいしさをぜひ感じて欲しいですね。
望月:私は完成した「サッポロ ニッポンのシン・レモンサワー」を飲んでみて、「優しい味のレモンサワーに仕上がったな」と思いました。
発売されてからは毎日いろんな食事とあわせて飲んでいますが、ハンバーグだったり、肉じゃがだったり、ふだん食べているようなものにもあうんですね。これは優しい味に仕上がったからこそ。皆さんにも、そういったいろいろな食事とのマッチングを楽しんで欲しいですね。
黒柳:確かに「日本の食卓」にあう味になりましたね。今聞いた3人の意見はブランドマネージャーとして今後のセールストークにぜひ活用していこうと思います(笑)。
(文・写真=稲垣宗彦)