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科学の力で美味しくなったノンアルビール
近頃は、バーやショップなどでノンアルコールビールを普通に見かけるようになりました。しかし、ノンアルビールの売上は増えていても、ビール業界が期待したレベルに届いていないのも事実です。とはいえアルコール依存症をはじめとする飲酒にまつわる諸問題に啓発活動を行っている団体は、ノンアルビールが選択肢に加わった事実をポジティブに受け止めています。
売上が伸び悩んでいる大きな理由は、多くの消費者がノンアルビールは普通のビールほど美味しくないと感じているからです。コペンハーゲン大学のソティリオス・カンプラニス教授によれば、ノンアルビールの味は単調で水っぽいというのが大方の意見だといいます。
カンプラニス教授は、原因がホップの香りにあると主張します。ビールといえばホップですが、ホップの香りはビールからアルコールを抜く過程で飛んでしまうため、ノンアルビールはビールらしさに欠けるのです。これに代わる方法として、酵母の働きを抑えてアルコールを生成させない醸造法もありますが、今度は香りが十分に立たないという問題が発生します。
そこで、美味しいノンアルビールを造ろうと決意したカンプラニス教授は、バイオテック企業「EvodiaBio」を立ち上げ、豊かなホップの香りが楽しめるノンアルビールの作り方を編み出しました。
Laboratory Newsによると、このプロジェクトに携わった研究者たちは、様々なエッセンシャルオイルに含まれているテルペンの一種、モノテルペノイドという低分子化合物の生成に成功しました。ノンアルビール製造の最終段階でこのモノテルペノイドを添加すると、ホップのような香りが生まれるということです。
この製造法では、遺伝子操作したイースト菌、サッカロマイセス・セレビシエ(出芽酵母)を使います。通常は脂肪酸を酸化するイースト菌の細胞小器官が、ホップの香りを生むモノテルペノイド(=ゲラニル二リン酸)を生成できるように遺伝子を操作するのです。
こうすることで本物そっくりのノンアルビールができます。さらには、ホップを醸造所に輸送する必要がなくなるので、既存の技術よりもはるかに持続可能性が高い製造が可能となるのです。ホップの輸送には冷蔵保管が可能な列車・トラックが不可欠なだけでなく、加工に大量の水を使うため、この新しい製造法が普及すれば、二酸化炭素排出量を大幅に減らすことができるのです。
環境負荷という点では、本物のホップと比較すると、この新しいホップの香り成分の生産に必要な水は1キロあたり1万分の1、排出する二酸化炭素は100分の1以下に抑えられるということです。
デンマークにある複数の醸造所で、この製造法を使ったトライアルが行われています。2022年10月までに世界の醸造業界でこの技術を導入できるようにすることが目標だということです。
この記事はDigital Journalのティム・サンドル博士が執筆しIndustry Dive Content Marketplaceを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで。