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「ランドビール」ってご存知ですか?

アメリカ・ヴァージニア州にある農園では、天然酵母も含めた全ての原材料を自分たちの手で栽培してビールを作っています。

ウィートランド・スプリング・ファーム+ブルワリーでは、今年6月に初めてとなる「ランドビール・フェスト」を開催しました。多くの参加者が試飲テーブルに群れをなす、昔ながらのビールフェスとは違い、オーナーのブランディング夫妻はこのイベントを通じてビールづくりの“舞台裏”を来場者に垣間見せてくれたのです。

「皆さんに農場に足を運んでもらって、今飲んでいるビールと、ここで栽培している作物とのつながりを感じてもらいたいと思ったのです」と妻のボニーさんはいいます。2人が主催する“醸造のための農業”をテーマにしたこのフェスティバルでは、ワシントンDCの北西約80キロ、ヴァージニア州ラウドン郡にある12万坪の農園に同ブルワリーのビール造りを支える農家、麦芽製造者、醸造家なども招待しました。

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Land beer  Photo by Erin Sellers Films   ランドビール

ブランディング夫妻が作る「ランドビール」 とは、自分たちの農園で栽培・収穫した材料のみを使ったビールという意味です。アメリカ国内に同じようなビール造りをしているところはほかにないとブランディング夫妻はいいます。小麦や大麦などの穀物から、ハーブ、フルーツ、ノコギリソウやキュウリなどの野菜、さらには畑にある2つのコロニーから採取したハチミツなど、農園で採れるものを余すことなく使ってキュウリ風味のゴーゼ(ドイツのクラフトビール)「Hold on to Summer」やハウスラガーの「Corn Crib」を作っています。

ランドビールは数多くあるビールのスタイルのうちの一つだと思われがちですが、ブランディング夫妻によると、これはむしろ方法論に近いもので、「農業と醸造を結びつける精神を表現すること」だと夫のジョンさんはいいます。ウィートランド・スプリングは、ブドウの栽培から醸造、熟成、ボトル詰めまで製造のプロセスを100%コントロールし、その場でワインを提供する“エステートワイナリー”のビール版ともいえる“エステートブルワリー”なのです。

「醸造所から300メートル圏内で作られた材料だけで作ったビールもあります」とジョンさん。それ以外のビールには、ヴァージニア州か同じエリアの小規模農園で作られたクラフト麦芽を使用しています。

ボニーさんとジョンさんは3年間の準備期間を経て、2019年6月にウィートランド・スプリングをオープンしました。そのきっかけとなったのは、ヴァージニア州北部に引っ越してくる前に住んでいたドイツで、その地域のビールという意味のランドビアをつくる現地のブルワリーを訪れたことだといいます。

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ウィートランド・スプリング・ファーム+ブルワリー   Erin Sellers Films

「バイエルン州北部のブルワリーまでドライブして、そこで醸造されるビールの材料が育つ畑のすぐ側に車を停めるなんていうことは、アメリカで経験したことがありませんでした」とボニーさんはいいます。「あれほどレベルの高いビールがその土地から生まれ、タップルームで提供されているのはもちろん、周辺で行われている農業に溶け込んだブルワリーも見たことがありませんでした」

エステートブルワリー経営という夢を実現しようと決めた2人は、水質や土壌にこだわって理想の農園を探し求め、70以上の農地を見学した後、ようやくウィートランド・スプリングに出会いました。1832年に始まったこの農園は、最高の土壌と、地下数十メートルから湧き出るきれいな水に恵まれています。週末にはサイクリングチームが給水のため農園に立ち寄りますが、彼らもここの水質を絶賛しているといいます。

こうした要素が全て融合して、その時その時の土地の特徴を反映した最高のビールが作られるのです。醸造場として使っているのは100年前に建てられたトウモロコシ倉庫。冬から春にかけてオークのワイン樽で熟成したハウスエール「Harvest 2020」には、農園で採取したハチミツと天然酵母を使用しているといいます。

農園の味と特徴を忠実に表現するため、天然酵母作りも自分たちで行っています。糖分の入った麦汁を畑にしばらく放置し、研究室に持ち帰ってイースト菌を分離するという方法です。2年目には少量ずつビールを醸造して菌株をテストしました。「大部分はあまり良い出来ではありませんでした」とジョンさんは振り返ります。試行錯誤する中で夫妻は、農園の豊かな風土が反映された美味しいビールを作り出す3つの株を見つけだしました。「1つ1つのビールに、ファームハウスエールの菌株が反映されています」

どうしてブランディング夫妻は全ての材料にここまでこだわるのでしょう。それが農業だといえば確かにそうですが、彼らはただ地元に密着したビールを作りたいわけでも、自分たちで育てた材料しか使わないといっているわけでもありません。土壌、材料の選択、醸造工程の全てのステップを自分たちの思うようにコントロールして初めて、人々に愛されるビールを作ることができるという信念があるのです。

「地元にこだわることは何も目新しいことではありません」とジョンさんはいいます。「私たちの願いは、最高品質のビールを作ること。しかし、ほかにはない特別な素材で作ったビールは、自然とそれが作られた土地の風土を反映するものなのです」

その時々によって製造法の違いがあることによってビールは一層美味しくなります。アメリカのビール造りは、品質の一貫性を重んじるマイクロブルワリーの流れを受け継いできました。畑で栽培している作物によって味が変わる蜂蜜はもちろん、天候や作物など、変化する要素がいくつもあるということは、農園で作られるビールの味は予測できないということでもあります。

ジョンさんは次のようにいいます。「自然のものである農産物が変化に富んでいることは、当たり前であるだけでなく本当に素晴らしいということも皆さんにお伝えしていきたいと思っています」

この記事はFood & Wineのレーガン・スティーブンスが執筆し、 Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで。

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