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がんサバイバーら250名の想いをつなげた「Thanks & Cheers!」ができるまで
こんにちは、スターカンパニー広報部 ライターの谷口優子です。スターカンパニーの社員の皆さん、HOPPIN’ GARAGEから新しいビールが登場しました。HOPPIN’ GARAGEとは人が持つ人生ストーリーからビールを生み出す「ストーリーブリューイング」という製法でバラエティ豊かなビールをお届けするビールブランド…というのは、スターカンパニーの社員の皆さんならご存じかもしれませんが、8月に登場するのは、がんサバイバーを中心に総勢250名によって誕生した「Thanks & Cheers!」です。ある日、突然降りかかってきたがんに立ち向かうがんサバイバーたちの物語や彼らの想いをどうビールで表現していったのか?今回のプロジェクトの発起人であるがんサバイバーの村本高史さん、開発に携わったHOPPIN’ GARAGEの土代裕也さん、商品開発担当の蛸井 潔さんに、当時を振り返りながらお話を伺いました。
がんを経て感じた「悲しみの向こうの笑顔」を表したビールを目指しました
土代さん: 「Thanks & Cheers!」は、がんサバイバーと呼ばれるがん経験者たちの想いをもとにつくられたビールです。メンバーは、当社のがん経験者のコミュニティ「Can Stars(キャンスターズ)」を中心に、様々な企業のがん経験者の有志が参加する団体「WorkCAN’s(ワーキャンズ)」のビールプロジェクトとしてスタートしました。
「私たちだからできることをやりたい」そんな想いが私を動かしました
村本さん:私ががんに罹患したのは13年前のことでした。喉と食道のつなぎ目あたりにがんが見つかりましたが、幸いなことに放射線治療でがんは消え、また仕事へ戻ることができました。しかし2年後、恐れていた再発を医師から告げられます。今回は手術で声帯を切除することになりますが、手術すれば治る可能性はあるし、食道発声法を身につければ小さい声だが話せるようになると説明されました。早速、食道発声法の教室へ見学に行ったところ、明るく懸命に練習に取り組む皆さんの姿を拝見し、生きていれば何とかなるかな、そんな勇気と希望をもらったのを覚えています。その後、過酷な入院生活を乗り越え、会社へ復帰を果たすことができたときは本当に嬉しかったですね。
そして復帰後の直近の人事異動で人事総務部長から部下なしの立場に変わりました。複雑な想いも多少ありましたが、私に無理をさせないための温かい配慮だと受け止めました。また、当時の社長が「仕事のプロではなく、人間のプロになれ!」と言ってくれたのです。これは人間を知り尽くした人になれという意味だと感じました。今の自分が出来ることは、まさにその言葉にあるのかもしれない、そう心を律したことで気持ちが切り替えられたのです。
私はがんになったことで不便や不安はありましたが、生きていることの素晴らしさを実感しました。そして多くの素晴らしい人々との出会いもありました。「Can Stars」や「WorkCAN’s」で出会った方々は、私にとってかけがえのない仲間です。彼らと自分たちだからこそできることを何かがしたい!実は以前からそんな想いをずっと持っていました。
生きることの素晴らしさを知り尽くしているがんサバイバーだからこそつくれるビールを
一般的にがんになると、お酒を飲んではいけないと思われています。治療経過などによってはお酒を飲んではいけない場合ももちろんありますが、中には主治医からお酒を飲んでもいいと言われる場合もあります。そのような人でも、がんを経験すると飲み会に誘ってもらえなくなったり、お酒を飲むと心配されたりするという声がありました。そこでコロナ前、約50名のがんサバイバーが集まった「GANNOMI(がん飲み)」を開催したんです。それは大変盛り上がって、心から笑い合える楽しい時間でした。その時ふと、生きることの素晴らしさを知り尽くしているがんサバイバーだからこそつくれるビールがあるんじゃないかなと思いました。
土代さん: 村本さんから、がん経験者を中心に周囲の人たちの想いをつないでビールはつくれないだろうかと相談がありました。今、がんは私たちにとって身近な病気です。自分たちの周りにもがんサバイバーの方はいらっしゃると思います。そんな人々のストーリーはきっと多くの人々の心に響き、共感も呼べると思ったんです。
250人それぞれのストーリーの中には共通の思いや風景がありました
村本さん:ビールづくりはコアメンバー10数名を中心に、一般公募で集まった人を含む約250名に関わっていただきました。コロナ禍のため、オンラインでワークショップを開催し、どんな味がいい? どんなシーンで飲みたい? そんな話からはじまり、それぞれの人生ストーリーを伺いながら、ビールの方向性を整理していきました。
土代さん:私もワークショップに参加し、皆さんのお話を伺わせていただきました。どれ一つとして同じストーリーはありません。果たして、これを1つの味で表現できるのかな、そんな不安もありましたが、「生きる喜びを、心から実感できるビール」というキーワードが定まってからは、誰か一人のストーリーではなく全てを包括するようなビールの味わい探しをはじめてゆきました。
村本さん:生死の境に直面した多くのがんサバイバーは同じようなシーンを見ていたり、同じような想いを抱いていたりしています。例えば、それは入院した時に病院の窓から見た風景であったり、不安を抱えながら朝を迎えた時のことであったり…、そんな共感できる部分も多くあるんです。その気持ちが「悲しみの向こうに笑顔がある人生のような、ほろ苦さと爽やかな後味、香りが特徴のビール」づくりへ向かわせました。ここへたどり着くまで、それぞれが吐露した心の声や経験の共有は、私たちメンバーの絆はより一層強くしました。だからこそ、本当にピュアな気持ちでビールづくりに取り組めたのだと思います。
「悲しみの向こうの笑顔」をソラチエースで表現しました
蛸井さん:今回の「Thanks & Cheers!」では、3つの試作品を作り、その中からヒノキやレモングラスのような香りや味が特徴的な、サッポロビールの隠し玉とも言えるホップ「ソラチエース」を使用したものが最終的に選ばれました。〝苦さから爽やかさ〟〝悲しみから笑顔〟そんな心の揺れ動きを表現するのに最適なホップだった、ということになるんでしょうね。今回私は、皆さんの想いをそのままに、そして何よりも参加いただいた皆さんが美味しい!と純粋に思える、そんなビールが作れればという思いで取り組みました。
村本さん:蛸井さんの想いはみんなに通じていると思います。それは完成したビールを飲んだときわかりました。「まさにこれ!」そう思えたんです。
蛸井さん:HOPPIN’ GARAGEのストーリーブリューイングという商品開発はかなり特殊なやり方ですね。当社の中でも比較的小さな工場で生産していて、多少は小回りが利きますので、企画者の方のアイディアや想いをなるべく取り入れて、通常では難しいたんぽぽや、い草などを使ったビールづくりにもチャレンジしてきました。長年開発に携わってきた私たちでも、普段思い浮かぶ事がないような素材や味のヒントが、皆さんのストーリーにはあります。人生のストーリーからビールを作るという、HOPPIN’ GARAGEのこれまでとは全く違うアプローチから生まれる味わいはきっと驚きに満ちていると思います。
ビールには美味しさ以上の価値があると思っています。それは人とのつながりを生んでくれるから
村本さん:ビールに直接携わる仕事からは20年近く離れていましたから、今回のビール開発は私にとって忘れられない体験でした。何より、がんサバイバーの大切な仲間とモノづくりができたことは何にも代えがたい感動でした。
土代さん:誰の人生も、どんな小説より素晴らしく輝いていると思います。そんな魅力的な人生ストーリーを感じながら味わえるビールが、HOPPIN’ GARAGEです。今回はがんサバイバーの方々の思いをストーリーとして紹介しましたが、そこから見えてくる何かが、皆様の人生のヒントや共感につながれば嬉しいです。
村本さん: 「Thanks & Cheers!」には「であいに感謝。いのちに乾杯。」という言葉を添えてあります。まさにこの言葉が全てだと思っています。ぜひ大切な人を思いながら、また大切な人と一緒に、自身の人生を見つめながら、味わってみてください。
編集後記:
人生には悲しみが突然襲ってくることがあります。がんもその一つです。今回の取材を通じて感じたのは、悲しみや苦しみの心と感謝の心は通じるものがあること。実は、私の母もある日スキルス性胃がんであることが発覚。がんであることがわかった直後、母は私に残りの日々は〝ありがとう〟の言葉でいっぱいにすると話しました。感謝を伝える大切さ、これが母の最期の教えでした。
「Thanks & Cheers!」 は苦味の先に爽やかさが広がり、自然の恵みである柑橘の香りが鼻をくすぐります。大切な人と一緒に飲んで、感謝の気持ちを表してみる。そんなきっかけになりそうなビールだなと思いました。「Thanks & Cheers!」とのであいにありがとう!(谷口優子)
#プロフィール
人事部 村本高史さん
「Thanks & Cheers!」の企画者。人事部として「Can Stars」の運営を始めとする治療と仕事の両立支援などのダイバーシティ推進や健康経営関連の活動の他、社外での執筆・講演活動も行っている。
価値創造フロンティア研究所 蛸井潔さん
「Thanks & Cheers!」の開発担当ブリュワー。ビールテイスト商品の開発等に20年以上にわたり携わる。2022年より価値創造フロンティア研究所のフェローとして技術広報や後進の育成を担っている。
新規事業開拓室 土代裕也さん
HOPPIN’ GARAGEブランドマネージャー。サッポロビール初のD2C型サービスとして、企画の立案から運営までを担っている。
谷口優子
大学卒業後、出版社で女性誌の編集者としてビューティー、インテリアやインタビューページなどを担当。その後はフリーランスとして企業の広報誌やウエブマガジン。PR業務などを行なっている。