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国産ホップでブームを起こせ! 青山学院の大学生がホップの魅力を伝える新プロジェクトをコンペ形式で提案 「青山学院大学×サッポロビール 国産ホップ価値化プロジェクト」
サッポロビールがこの春、青山学院大学と共同でひとつのプロジェクトを開始しました。その目的は、「国産ホップの魅力を広く伝える」というもの。同大学の2つのゼミに所属する3年生たちが数人ずつのグループに分かれてアイデアを出し合い、それをコンペ形式で競うのです。このプロジェクトはいったいどのような経緯ではじまったのか? 「GOLD STAR」や「NIPPON HOP」の中味開発に携わり、このプロジェクトを主導した新木絵理と、「SORACHI 1984」のブリューイングデザイナーである新井健司に話を聞きました。
取材を行ったのは、各学生グループの最終発表があった7月21日。前編では2人へのインタビュー、そして後編では最終発表の模様と、前後編の2回に渡ってお届けします。
会社のDNAに刻み込まれた国産ホップへの想い
――今回のプロジェクトは「国産ホップの魅力をより多くの人に伝えるにはどうしたらいいか?」をテーマにされていたとのことですが、具体的な話に入る前に、改めてビールの原料である「ホップ」について教えてください。
新井健司(以下、新井):ホップは特に日本においては「ビールとは切っても切り離せない植物」です。というのも、日本の酒税法上、麦芽100%で作ったとしてもホップを使わないとビールとは呼べず、発泡酒になってしまうんです。
ホップは全世界で見ても年間12万トン程度しか作られていない作物で、そのほとんどがビールの原料として使われています。
――逆に言うと、ビール以外にはあんまり使い道がない作物ということでしょうか?
新井:いまのところ、そうですね。ビールの味というと、まず「苦い」と表現されることが多いですけど、その苦味のもとになるのがホップなんですね。ただ最近はクラフトビールなどでは特徴的な香りをつけるためにちょっと変わったホップを選ぶことがあります。それ以外にも、泡持ちをよくしたり、ビールを腐敗しにくくする効果もあります。
――インディアペールエール(IPA)はイギリスからインドまでの長時間輸送でも腐らないよう、ホップをたくさん使ったことがはじまりでしたよね。新井さんが手がけられた「SORACHI 1984」、それに今年の1月31日に発売された「始まりのホップ」からはじまる限定醸造の「NIPPON HOP」シリーズなど、近年のサッポロビールではホップに強い思い入れのある商品が増えているように思います。これは意識的に取り組まれていることなんですか?
新井:国産ホップは年々生産量が減少していて、厳しい状況にあるんです。ホップの生産はアメリカ、ドイツ、の2カ国でその75%くらいが占められています。日本の生産量は全体量の1%にも満たないくらい。でも、アメリカのクラフトビールで一気にブレイクし、「SORACHI 1984」にも用いている「ソラチエース」はもちろん、それ以外にも魅力のある個性的なホップが日本にはまだまだ存在するんです。
――約150年に渡ってホップや大麦の栽培・育種開発を続けて来た会社だけに、サッポロビールはやっぱり国産ホップへの思い入れが強いんですね。
新井:当社は育種開発だけでなく、国内の農家さんとの協働契約栽培で国産ホップを調達してますが、国内のビールメーカーでこれらをずっとやり続けているのはサッポロビールだけなんですね。やっぱり会社の国産ホップに対する想いが会社のDNAに刻み込まれているようなところはあります。
そんな国産ホップの魅力を改めて広く伝えるにはどうしたらいいか。それを僕らは考えて、「国産ホップ価値化プロジェクト」としていくつもの施策を進めています。ちなみに先ほど名前が出た限定商品の「NIPPON HOP」シリーズもそうしたプロジェクトのひとつですね。
国産ホップの魅力にスポットを当てた限定品「NIPPON HOP」シリーズ
――新木さんは「NIPPON HOP」の中味開発を担当されているとうかがいました。1月発売の第1弾「始まりのホップ信州早生」、5月発売の第2弾「偶然のホップゴールデンスター」、そして8月1日に発売されたばかりの第3弾「希望のホップリトルスター」。使用するホップを毎回変えて、違う味わいに仕上げているのがおもしろいですね。
新木絵理(以下、新木):そうですね。国産ホップを使用していることを訴求するだけの商品ではなく、それぞれのホップを栽培・育種開発してきた歴史やホップが生まれるに至った一つひとつのバックグラウンドを伝えていきたいという想いから、限定品としてシリーズ化し、発売していこうとスタートした企画です。
ホップの品種を変えた商品を連続してリリースすることによって、単に「国産ホップが使われている」というだけでなく、それぞれの品種ごとに秘められた物語を伝えていく。そうした背景を知ることで、ビールをよりおいしく楽しく味わえる、そんな体験をお届けしたくて作った商品です。
――ということは、使われているホップの選定にもかなり気を遣われているんですね。
新木:当社は長い時間をかけてホップを栽培・育種開発してきました。いま存在する様々な国産ホップ品種の基礎となったものや、当時の研究者の執念によって発見された品種など、重要な品種がたくさんあります。そういったもののなかから、誕生した順番なども考えて選びました。
8月1日には、第3弾の「希望のホップ リトルスター」が発売されます。こちらに使われている国産ホップ「リトルスター」は、生産者の栽培にかかる負担を減らしつつ、それでいて味や香りがいいホップを目指して10年以上もの歳月をかけて開発した品種です。未来のビールづくりを担う存在として生み出された、まさに「希望のホップ」なんです。
ホップ栽培における課題の解決を目指し、長い年月をかけて開発されたホップ「リトルスター」。ファインアロマホップ品種の系統にあり、上品で穏やかな香りを持つのも、このリトルスターの特長。
――なるほど。商品化の順番や商品名にもちゃんと物語があるんですね。
新木:商品ごとに異なる国産ホップ品種が使われているからといって、品種名だけを書いてもお客様には伝わらないですよね。そこで、ホップがもつそれぞれの物語にちなんで「希望のホップ」といったダブルネームにしているんです。その名前から使われているホップに興味を持ってもらえたらと思って工夫しました。
コラボ相手が青山学院大学になったのは、「ご縁の積み重ね」
――国産ホップ価値化プロジェクトの施策のひとつとして、青山学院大学と共同で進めてきたプロジェクトもあるとうかがいました。これは具体的にどんなものなのでしょうか?
新木:「青山学院大学×サッポロビール 国産ホップ価値化プロジェクト」という取り組みです。「NIPPON HOP」シリーズのようなビール商品とは異なるアプローチで「国産ホップそのものを知ってもらい、その魅力を広める取り組み」ができないかと考えてスタートしました。
――ホップがビールの原料であることを知っていても、それが具体的にどんなものかを知っている人はまだまだ少ない印象がありますね。
新木:調査をしてみると、ホップを麦の一種というか、「緑色の麦」だと思われているお客様もけっこういらっしゃることがわかったんです。そもそもホップは、生産されたほぼすべてがビールの原料として使われてしまうために、生のホップを見たり香りを嗅いだりする機会もまずありません。
それに、ホップという植物は、たとえばアサガオやチューリップ、ヒヤシンスなど、幼稚園や小学校で誰もが触れるようなものとは違って、お酒を飲むようになって初めて存在を知る植物。しかも、一時期に比べてビールの消費は特に若い世代ではかなり少なくなってもいます。
一連の国産ホップ価値化プロジェクトを進めていくなかでずっと考えていたのは、ホップという植物を多くの人にもっと身近なものにするにはどうすればいいか?ということです。
新木:まずはお酒を飲みはじめる年齢、これからのビールやお酒の市場を担っていくその中心となる大学生にホップを知ってもらい、そのうえで「ホップの活用と価値化」の筋道をいっしょに考えてもらう。そうすれば同じ若年層のお客様により深く刺さるアイデアが出る可能性は高いし、我々としてもいい刺激が得られるのではないかと考えました。それがこの産学協同プロジェクトをはじめたきっかけなんです。
――青山学院大学がコラボのパートナーとなったのはどういった理由からでしょう?
新木:サッポロビールと同じ渋谷区にあるということと、青山学院大学青山キャンパスの敷地はもともと開拓使農事試験場第二官園だった場所なんです。
――開拓使って、北海道の開拓を担った明治時代のお役所ですよね?
新木:そうなんです。日本で初めてホップの試験栽培をしたのが、その農事試験場第二官園、つまり今の青山学院大学の敷地内だったんですよ。
――青山学院大学とホップのあいだにはそんなご縁があるんですね。
新木:もうひとつ、私の出身大学でもあって、それで経営学部長の久保田進彦教授と、同じく経営学部マーケティング学科の芳賀康浩教授が率いる2つのゼミにお声がけしたんです(笑)。
――そこもまたご縁なわけですね(笑)。
――「ホップの活用と価値化」を学生に考えてもらったとのことですが、具体的にはどんな内容なのですか?
新木:はい、「国産ホップ魅力化のためのマーケティング戦略を考えてください」というのが大学生に出したこのプロジェクトのお題です。ビールの新しい商品を作るとか、既存のビールのプロモーションではなく、「ホップ自体をどうやってブーム化するか」をビール以外で考えることをお題にしているので、今回はビールに関する提案は一切ありません。
――産学協同での取り組みって、食品やお菓子といった分野ではいくつか耳にしたことがあったのですが、お酒ではあまり聞いたことがないように思います。でも、主題はあくまでもお酒ではなくて、「国産ホップ」なんですね。もう学生から出たアイデアはすべてご覧になっているんですか?
新木:はい。この取り組みの流れを説明しますと、まず4月中旬に我々が青山学院大学まで行ってオリエンテーションを行いました。テーマの説明はもちろん、「ホップ」とは何か、「ビール」とは何かをレクチャーしたうえで本物のホップを見せて学生達に香りを体感してもらいました。
その1ヶ月後、5月中旬に中間発表を行ってもらいまして、そのときに一通りのアイデアはうかがっています。
――その中間発表はどんな様子だったんですか?
新木:久保田ゼミ、芳賀ゼミの学生約40人が大教室に集まり、各チーム10分の持ち時間でアイデアを発表。それに対してサッポロビールの社員からのフィードバックを行いました。皆さん緊張した面持ちでしたが、中間発表とは思えないしっかりしたプレゼン資料を準備し、堂々と発表していましたね。
独自にアンケートをとったり、コンセプトテストを実施するなど、こちらが出した課題に対して丁寧に向き合っていただきました。中間発表会終了後には、自主的に改善点を質問しに来るなど、ブラッシュアップに向けて積極的に取り組もうとする姿勢が印象的でした。
――学生たちがどんなアイデアを出してきたのか、非常に気になります。
新木:ビールと切り離してホップの魅力化を考えるって、すごく難しいお題だと思っていて、似たようなアイデアが出そろってしまうかと思っていたんですね。
でも実際には全チームがまったく違うアイデアを出してくれました。それぞれにホップの特徴をつかみつつ、「確かにこれが実現したらおもしろいな」というものを出してきてくれました。
――4月のオリエンテーションで初めてホップを具体的に知った学生がほとんどだったと思うのですが、そこから広範なアイデアが出てくるとはちょっと興味深いですね。
新木:オリエンテーションでは複数のホップを持ち込んでホップやビールについてのレクチャーを行いました。実際に手に取ってもらうとホップの形や、品種ごとの香りの違いなんかに敏感に反応していました。
「ミントと違って新しい香り」とか「けっこう好きな香りです」といった好意的な意見が聞かれたのは我々としてもいい収穫でしたね。全体的に我々が思っていたよりも強い興味を抱いてくれていた印象ですね。
――今日、この後で最終発表があるとのことですが、中間発表からそれぞれどうアイデアが変化しているのか、楽しみですね。
新木:最終発表ではその結果をサッポロビールの社員たちで審査のうえ、特別賞と最優秀賞を決める予定でいます。我々としても、中間発表でのフィードバックを受けて学生たちがアイデアをどう煮詰めてきたのか、とても気になりますね。
さて、前編はここまでです。はたして学生たちはどんなアイデアを繰り出してきたのでしょうか? 後編ではサッポロビールの社内会議室で7月21日に行われた最終発表の模様をお届けします。お楽しみに。
(文責:稲垣宗彦)