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「GOLD STAR」開発担当とブランドマネージャーが商品開発の裏側を語る 2人がリニューアルにかけた想いとは?【前編】
2020年2月4日に発売された「GOLD STAR」は、わずか1ヶ月でその売り上げが100万ケースを突破。おかげさまで、とても高い評価をいただくことができました。その大ヒット商品が、2020年12月製造品より順次、新たなものへと切り替わり、リニューアルを果たしました。
記録的大ヒットとなった商品開発の裏側には、いったいどんな“想い”があったのか?
開発担当者とブランドマネージャーの2人へのインタビューを、前後編の2回に渡っておとどけします。前編となる今回は、「GOLD STAR」新発売時の背景から、リニューアルに向けた意気込みなどを語っています。
■新ジャンルは「味とブランド」で選ばれる時代に
―― GOLD STARという商品の成り立ちを教えていただけますか?
新木絵理(以下、新木):新ジャンル、いわゆる「第3のビール」と言われるものが登場したのは約15年前。当時もっとも買い求めやすい価格だった発泡酒に代わるものとして生まれました。新ジャンルはビールの代わりに選ばれる代替品であり、安いことが商品価値の中心をなしていました。
そのため、当時の状況を知るお客様にはあまりイメージがよくない部分もあるんですね。
ところが15年以上の時間が経った今、製造技術の進化によって、新ジャンルの味わいは大きく進化しました。最近お酒を飲みはじめた若い世代のお客様にとっては「ビールの代わり」ではなく、お酒のひとつとして「味やブランドで選ぶもの」になってきています。
野並祐介(以下、野並):新ジャンルを購入していただいたお客様へ、選択の基準を質問してみると、「カテゴリーは関係ない」というご意見がありました。ビールテイストのなかだけでなく、広く缶チューハイなども含めたうえで、その商品がおいしいかどうかで判断し、その結果として新ジャンルを選んでいるというのです。時代が変わってきていることを感じました。
新木:つまり、価格の安さや味わいがビールに近いかどうかではなく、無数にあるビールテイスト、さらにはお酒全般のなかから、味や商品イメージが「自分にとって魅力的なお酒かどうか」が大事。そういう軸でお客様が新ジャンルを選ぶ時代になってきていると気づいたんです。
――極端な話をするならば、飲んでおいしければビールにあまり似ていなくてもいいということでしょうか?
新木:そうは言っても「ビールが好き」で飲まれているお客様がほとんどであることも確かです。その人にとっての「ビールらしいおいしさ」を持っていることは絶対に必要です。
ビールに味が近いことは大前提として、そのおいしさや、なんでこの商品を選んだのかを自信を持って語れるような商品であること、トータルな商品イメージまで含めて魅力的な商品であることが、今のお客様にとっては飲んだときの喜びにつながる。そう思ったのが開発のスタート地点です。
私が出した答えは、サッポロビールが生み出せる「確かなうまさ」を持った新ジャンルの商品を作ることでした。サッポロビールの商品として、お客様が「これなら間違いないだろう」と思えるストーリーを持たせることから考えはじめました。
■「黒ラベル」(麦芽)×「ヱビス」(ホップ)でサッポロの本気度を表現
――ビールテイストの飲み物としての完成度、おいしさで選んでもらえるものを求めた結果が、「GOLD STAR」だったのですね。
新木:近年の新ジャンルは安さからおいしさに価値が移り、次に味わいの細分化がはじまりました。「市場ではコクを重視した商品が人気だから、こちらはキレで行こう」といった具合ですね。さらに現在ではそこにカロリーオフなどの機能性が付加された商品なども加わっています。
――確かに驚くほどいろんな商品が出ていますね。
新木:でも、この2~3年でまた市場には変化が生まれてきています。
これはお酒に限ったことではないのですが、2010年代に入って、食料品やお菓子など、さまざまなジャンルでメーカーの自信やプライドを感じさせる商品の人気が高まってきていました。その流れがこの2~3年、新ジャンルにもやってきているんです。
味の細分化や差別化ではなく、商品そのもののたたずまいや、その商品に対するメーカーの本気度といったことが、改めて注目されるようになっています。そんな状況のなか、「では、サッポロビールとして、どうすれば自信やプライドを込めた美味さ、そして『確からしさ』を届けられるか?」ってことを考えたわけです。
その答えとして、「GOLD STAR」の開発では、「黒ラベル」の麦芽、そして「ヱビス」のホップという、サッポロビールにしかできない確かなバックグラウンドを商品のテーマに据えました。
■発売前から反響の大きさが話題となった「GOLD STAR」
――「GOLD STAR」は発売後1ヶ月で100万ケースの出荷を記録する大ヒットとなりました。
野並:年間の出荷が100万ケースに届かない商品も少なくないので、1ヶ月で100万ケースというのは大事件だったんです。
――当然、リニューアルではそれを超えるものとして開発が進められたわけですよね?
野並:そうですね。実際に超えられるかどうかはともかく、弊社の商品としては驚くほど多い本数での生産計画が立てられていて、かなりのプレッシャーを感じています(笑)。
今回のリニューアルに関しては、酒税法の改正にともなって新ジャンルの価格が変わったこともひとつ影響しているんです。販売価格が上がってしまっているので、そこに対してよりおいしいものを目指すというのは、メーカーとしての使命でもありますから。
――やはり大ヒット商品をリニューアルするからには独特の緊張感が伴っていたのでしょうか?
野並:実はリニューアルに関しては、2020年2月4日の発売前からプレッシャーがかかっていたんです。初月に100万ケースを出荷するということは、発売前の時点で50万ケースくらいは出荷しているということです。つまり、発売前から反響の大きさが見えていました。
どんなヒット商品でも、より美味しい商品をお客様に届けるための準備は常に備えていなければなりません。もうその時点で弊社役員から「次に向けて備えておこう」とアドバイスされていたんです。
新木:醸造には時間がかかるので、中味仕様のレシピを決めても、そのサンプルを飲めるようになるまで約1ヶ月がかかります。ですからひとつの商品を作るのに最低でも10ヶ月は必要なんです。具体的なリニューアルのスケジュールが決まっていなくても、発売が決まったら「その次」を考えるのがルーティンになっていますね。
――100万ケースが出荷される大ヒットを横目に見ながらもう「次」を考えていたんですね。
新木:そうですね。ご好評をいただけそうだとわかっていても、その時点でお客様の具体的な反応はまだ読めませんから、「こういう反応があったらこうしよう」と、いろんな可能性を考えていくつものパターンでサンプルを仕込んでいました。
――まるで将棋みたいですね。
新木:そうですね。先を読んでいくつもの手をあらかじめ考えていますね(笑)。
■「変える」のではなく、「進化」を目指したリニューアル
――リニューアルに向けた最初の方針はどのようなものだったのでしょうか?
新木:自信を持って発売した商品ですから、リニューアルと言っても「変える」ことがすべてではありません。
野並:本音を言えば「できれば変えたくない」んです(笑)。
新木:それが開発する側の正直な気持ちですね(笑)。「GOLD STAR」は「黒ラベル」と「ヱビス」という2つの商品が持つ魅力を採り入れているのが特長です。たとえば「その特長をもっと魅力的に伝えていくにはどうすべきか?」といったように、変えるというよりはお客様に伝えるメッセージのどこを強めるかを考えていきました。
味そのものについては、お客様から「もっとコクが欲しい」とか、「雑味を減らして欲しい」といった反応があったらどうするかなど、あらゆるパターンを想定しておきます。ただ、同時に「GOLD STAR」としてやりたくないことはやらないという姿勢も大切にしながら、サンプルの仕込みを行っていましたね。
――自信を持って世に出した商品のリニューアルを考えるのは、ある意味、酷な話ですね。
新木:そうかもしれません。ですから、「変える」というより、来年はより良いものにする、「進化させる」という気持ちで取り組みました。
(文=稲垣宗彦 写真=志田彩香)
☆後編へ続きます。
「GOLD STAR」開発担当 新木絵理(あらきえり・右)
●プロフィール
2013年サッポロビール株式会社に入社。
広島・岡山県にて3年間、スーパー・酒量販店の営業を経験した後、2016年春に新価値開発部第1新価値開発グループに着任。
現在までの約4年半、ビールテイストの商品開発に従事。麦とホップブランドやGOLD STARの開発を担当してきた。
「GOLD STAR」ブランドマネージャー 野並祐介(のなみゆうすけ・左)
●プロフィール
2008年サッポロビール株式会社に入社。
サッポロビールで2年半、営業を経験した後、サッポログループでポテトチップスを製造・販売する会社に出向。
2013年新価値開発部に着任し6年間ビールテイスト・RTDの商品開発に従事。黒ラベルブランドやレモン・ザ・リッチの開発を担当。
2019年から現・ビール&RTD事業部に着任しGOLD STARブランドを担当している。