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ビールととうもろこしの関係|”もろこしビール”が業界を変える

ビールは麦芽を使用した発泡性のお酒、というイメージをもっている方も多いのではないでしょうか。ビールと一口にいっても、実際は国やメーカーごとに原料の組み合わせが異なります。

消費者の好みに合わせて使用されるビールの原料の1つが、とうもろこしです。本コラムでは、とうもろこしがビールにどのように活用されているのか紹介します。

ビールに含まれるとうもろこしとは?

ビールの醸造に使用される材料を大きく分けると、原料と副原料の2種類です。とうもろこしを含め、まずはビール作りに必要な原料、副原料について解説します。

ビールの主な原料は麦芽・ホップ・水

世界各地で醸造されているビールには、様々な原料が使用されています。もっとも一般的な原料が麦芽・ホップ・水の3つで、日本のビール作りで主に使用されているのが大麦麦芽です。

大麦は穂の形から二条大麦と六条大麦の2種類に分けられており、日本では二条大麦が主流です。そのため、ビール用の二条大麦は「ビール大麦」とも呼ばれています。二条大麦の特徴は一粒一粒が大きく、六条大麦より多くのでんぷんが含まれている点です。

麦芽と並んでビールの主な原料となるホップは、アサ科の宿根性多年生植物のことです。ビールの代名詞ともいえる苦味や爽快な香りを生み出すホップによって、ビールの泡持ちも良くなります。受精させるとホップの苦味・香りが劣化することから、栽培段階で雄株を取り除き、雌株のみを使用するのが一般的です。

とうもろこしは副原料として使われる

とうもろこしは、ビールの副原料として取り入れられます。ビールの成分表示を見ると「コーンスターチ」または「コーン」「スターチ」と書かれていますが、いずれも、とうもろこし由来の成分であることに違いはありません。ここで表記されているコーンはとうもろこしを粉砕したもので、スターチはコーン由来のでんぷんです。

とうもろこしをビールの副原料として使用する理由は、味をすっきりさせたり香味を調整したりする役割があるためです。

日本国内で製造販売されているビールはもちろん、外国産ビールでも消費者の嗜好に合ったビール作りの副原料として活用されています。

ビールができるまでの過程

前提として日本の法律では、酒類を作るためには製造免許の取得が欠かせません。さらにビールの製造免許は年間生産量が60リットル以上であるなど、いくつかの条件をクリアしていなければ取得は困難です。

条件を満たして製造免許を取得した酒造メーカーは、どのようにビールを製造しているのでしょうか。

ここからは大麦麦芽やとうもろこしが、どのようにビールになっていくのか、その製造工程を紹介します。

1.麦芽の製造

まず、大麦を発酵させ、ビールの原料となる麦芽を製造します。

・大麦の貯蔵・精選

収穫後に貯蔵されていた大麦は休眠状態にあり、そのままの状態では発芽できません。時間が経つとともに休眠状態から明けてくるため、大麦が発芽できるかどうか発芽試験で確認します。

・浸麦

精選作業で大きさが同等の大麦のみを仕分け、ホコリやゴミを取り除き、次に行うのが浸麦です。浸麦工程とは大麦に水分を含ませる作業のことで、浸麦槽でたっぷりの水に浸けます。水は何度か入れ替えられ、大麦が水分を含んでいくのと同時にホコリや雑味成分が洗い流されていきます。

・発芽

水分を含ませただけでは大麦の硬さが残ってしまい、麦芽になりません。そこで発芽室に運び発芽工程に入ります。もともと大麦自身がもっていた酵素によってでんぷん、タンパク質などが分解され、緑麦芽と呼ばれる柔らかい状態になるまで待ちます。

・焙燥

麦芽の製造における最後の工程は、ロースターによる焙燥です。麦芽の焙燥は、ビールごとに異なっています。焙燥の温度や時間を調節して、作りたいビールに適した麦芽を作ります。

低温で時間をかけて焙燥する麦芽もあれば、高温で糖がカラメル化するまで焙燥するものもあり、風味や色も様々です。焙燥方法が異なる複数種類の麦芽を組み合わせることで、ビールに個性が生まれます。

2.仕込み

製造した麦芽を使用して、いよいよビールを仕込んでいく作業に入ります。

・麦芽の粉砕

仕込みで最初に行われるのが、焙燥した麦芽の粉砕です。焙燥して不要な部分を取り除いた麦芽をローラー式のミルにかけ、こまかく粉砕します。粉砕した麦芽のこまかさも、ビール作りにおいては重要なポイントです。麦芽の穀皮に含まれる苦味などが溶け出さないよう、かつ次の工程がスムーズに進めるよう、粗く挽きます。

・糊化

ビール酵母が細胞内に入り込むためには、麦芽のでんぷんを適切な大きさにしなくてはなりません。糊化作業は、麦芽の大きく固まったグルコースの結晶構造を分解し、酵母が働きやすい状態を作るための工程です。お湯の入った仕込釜で加熱処理を行い、糊化を促します。とうもろこしなどの副原料も、このとき投入します。

・糖化

酵素の働きによって、麦芽の糖化が進みます。また、タンパク質がアミノ酸とペプチドに分解されます。アミノ酸は酵母の栄養となり、酵母を増やしたりビールの香り成分を生み出したりと、でんぷんと同じくビール作りに欠かせない存在です。ペプチドも、ビールの泡を形作るための重要な役割をもっています。

・麦汁のろ過

糖化が進んだ麦汁には、大麦の固形物が残った状態です。フィルターを使用して、ろ過を行います。無理にろ過を行うと麦汁が濁ってしまい、泡立ちや風味に影響するため、丁寧な仕事が欠かせません。

最初にろ過した麦汁は、大部分のエキスが抽出された第一麦汁と呼ばれるものです。残ったエキスを抽出するために再度湯が注がれ、こうしてろ過されたものを第二麦汁と呼び、第一麦汁とともに煮沸されます。

・麦汁の煮沸・ホップ添加

麦汁を煮沸釜に移したら、次は煮沸です。ホップの添加も煮沸の工程で行います。最初から全量を投入する方法や何度かに分けて投入する方法など、ホップ添加のタイミングは様々です。ホップ由来の香りを強調させたい場合は、煮沸終了の直前に一部投入することもあります。

・麦汁の冷却

円筒形のワールプールタンクに麦汁を移して、凝集物を除去します。勢い良く麦汁を注ぐとタンク内で渦ができ、凝集物が中央に集まるため取り除きやすくなります。ホップを粉砕せず使用していた昔は目の粗いふるいで除去する程度で十分でしたが、近年は原料を粉砕するため、ワールプールタンクを使用した方法が主流です。

凝集物の除去が終わったら、発酵開始温度まで冷却します。

3.発酵

発酵開始温度は使用する酵母の性質によって異なり、8~10℃もしくは15~20℃で行います。冷却後は、酵母の増殖に欠かせない酸素を供給した麦汁に酵母を添加して、糖の発酵を進ませる工程です。

酵母によって糖が分解されると、エチルアルコールと炭酸ガスが生まれます。1週間も経てば、若いビールができます。

4.熟成

若いビールを作る工程を、前発酵または主発酵と呼びます。貯酒タンクに移して沈降していた酵母を広げることで、後発酵が進められます。

最高の泡や風味を作るためには、ビールの種類や酵母ごとに適切な期間の熟成が必要です。0℃以下の低温で数十日~約1ヶ月貯蔵して熟成させることで、コクのあるおいしいビールが完成します。

アメリカにおける”もろこしビール”の挑戦

2019年に行われたスーパーボウル中継の際に放映されたTVコマーシャルで、バドワイザーがビールの原材料としてコーンシロップを使用している競合他社を攻撃した「コーンゲート」論争からも明らかなように、ビールにとうもろこしを使うと槍玉にあげられてしまうことがあるようです。しかし、コロラド州デンバーにある醸造所では、アメリカのクラフトビールファンにひと味違うスタイルのビールを広めようと、不名誉な烙印を押されたとうもろこしを積極的に活用しているのです。

ドス・ルセス・ブリュワリーでは、モルト化したブルーコーンを使って、クリストファー・コロンブスが1492年にアメリカ大陸に到達する以前まで、インカ・アステカ帝国の人々が作っていたビールと同様のものを製造しています。デンバーのサウス・ブロードウェイ地区にあるこのブリュワリーでは、伝統的なラテンアメリカの酒であるチチャプルケを独自に解釈した新しい飲み物を生み出しています

「バドワイザーが、コーンシロップを使っている(ライバルブランドの)クアーズ・ライトを馬鹿にしたコマーシャルをご覧になったことはありますか? しかし現実にはとうもろこしは全くもって悪いものではありません」とドス・ルセス・ブリュワリーの共同創始者、サム・アルカイネ氏は語る。「種類が豊富なとうもろこしから、豊かな伝統と深みのある味わいが作られてきました。安っぽい冗談では済まされない重要な作物なのです。とうもろこしを使うと、とても濃厚な味のドリンクを作ることができるのです」。

バドワイザーの見解とは異なり、この醸造所ではとうもろこしがビール作りの主原料で、ともすると見逃されがちなメキシコやペルーといった国々で作られるビールの伝統に光を当てようとしています。もちろん、美味しいビールを作ることが一番の目的ですが、これまでになく多様化した今日のアメリカにおいて多様性の素晴らしさを訴えることも大切にしています。

「西ヨーロッパから来た植民者たちは、ビールのあるべき姿を一方的に決めつけていますが、それがビールの全てではありません」と同ブリュワリーの共同創始者でオーナーのジャッド・ベルストック氏は言います。「南北アメリカ大陸には、ヨーロッパから来た人々がもたらしたものよりもずっと沢山の種類のビールが存在するのです」。

ビールは一般的に大麦から作られます。この伝統は、初期の文明が穀物を栽培しパンを作り始めた時代にまで遡ります。パンを水に浸すとイーストの力で発酵が始まることから、パンが作られているところには必ずビールがありました。

今日でも米やとうもろこしが副原料として使われることもありますが、とうもろこしや糖類の添加物に対する決して好意的でないイメージも手伝って、ビール作りは大麦に限ると言う意見が大半を占める傾向にあります。

しかしベルストック氏とアルケイン氏は、このとうもろこしの汚名返上に果敢にチャレンジしています。両名ともビールの世界で輝かしい経歴を持っていて、ベルストック氏はアメリカのビール製造会社であるミラークアーズとボルダービールで働き、また現在コーネル大学で助教授として乳製品の発酵について研究しているアルケイン氏も同じくミラークアーズで勤務した経験があります。

実際、アルケイン氏はミラークアーズで研究開発に携わり、とうもろこしを含む様々な原材料を使ってビールの試作を行ってきました。エルサルバドル出身の父親とキューバ人の母親を持つアルケイン氏は、ラテンアメリカの伝統的な飲料についても多少の知識を持っていると言います。

自宅では、インカ帝国の人々のお気に入りでアンデス地方では今でも人気がある飲み物、チチャをモルト化したとうもろこしから作る実験をしているというアルケイン氏。できたチチャは、友人たちに試飲してもらっています。ベルストック氏もその友人の一人ですが、彼の父親は1960年代に平和部隊に参加してペルーで過ごした経験があり、ベルストック氏は子どもの頃からチチャがいかに素晴らしいか聞いて育ったと言います。2018年7月にドス・ルセスをオープンする前には、二人で古代メキシコのアステカ帝国で飲まれていたプルケの醸造にも挑戦したそうです。

ドス・ルセスでは大麦の代わりにとうもろこしを使用するため、醸造と蒸留の双方が可能な特注のハイブリッド設備を使っています。

伝統的にチチャはとうもろこしを噛んでから吐き出したものを使って作ります。口いっぱいにとうもろこしを頬張る代わりに、彼らはとうもろこしをモルト化したものを潰してスターチを分解した“ウォート”と呼ばれる糖液を作っています。発酵に使う酵母菌は、ペルーの山中で自生している種類に近い菌を使うことで、オリジナルのチチャになるべく近い飲み物を製造しています。

また彼らが作るプルケは、モルト化したとうもろこしと、テキーラの原料として使われているメキシコの植物、アガベのシロップから作られています。そしてプルケの自然な発酵を促進するために、メキシコから輸入したアガベの樹液から直接培養した独自の菌株を使用するのです。

こうしてできたチチャとプルケに、さらに新鮮なフルーツ、スパイス、コーヒー、チョコレートなどのフレーバーで味付けしてクラードスやフルティージャスと呼ばれるドリンクが出来上がるのです。

伝統的なレシピや製法を徹底的に研究したうえで、彼らはこの古代の飲み物を現代的に解釈して自分たちにしか作れない独自の商品を作り出しました。“とうもろこしを噛み砕く”という工程はもちろん省略されていますが、その他にも昔は発酵中のチチャやプルケが飲まれていましたが、輸送・法規制上の理由から発酵が完了した状態で出荷しています。さらに、伝統的なチチャやプルケは無炭酸ですが、ドス・ルセスでは炭酸を加えています。

「私たちは3,000年以上の歴史を持つ伝統のドリンクからインスピレーションを得て、全く新しい飲み物を作っています」とベルストック氏は言います。

こうして完成したグルテンフリーのビールは、陶器のマグカップやピッチャーに入れて販売しています。外見だけでなく中身も市場の他のビールとは全く異なるものです。ベルストック氏によると、ドス・ルセスはモルト化したブルーコーンを主原料に、とうもろこし100%のビールを作っているアメリカ唯一の醸造所だそうです。(一回限りの試みとしてチチャやプルケを作ったことがある醸造所やミードを生産するワイナリーはあるようです。)

アメリカの小規模醸造業者と個人事業主を代表する業界団体「ブリュワーズ・アソシエーション」のクラフトビール・プログラム・ディレクターを務めるジュリア・ハーツ氏は「(ドス・ルセスの)ビールは、未だかつて体験したことがない味です」と言います。「エールやラガーといった標準的なビールとは似ても似つかない飲み物です。この違いは本当に興味深いですね」

この記事はFood & Wine誌のサラ・クタによって書かれたもので、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じて合法的にライセンスされています。ライセンスに関する質問については、legal@newscred.comまでお問い合わせください

まとめ

ビール作りには、種類や地域によって様々な副原料も使用されています。とうもろこしも一般的な副原料の1つで、日本国内で醸造されているビールでも多く使用されています。

ビールを飲むときは、ぜひ成分表示もチェックしてみてください。好みの味を見つけるヒントになるでしょう。

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