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ヒツジとエコなワイン造りの”美味しい”関係

癒し効果抜群の愛くるしいヒツジたちに、草むしりや肥料やりの仕事を委託するカリフォルニアのワイナリーを紹介します。

今から約3年前、ラムズ・ゲート・ワイナリーで働き始めたジョー・ニールセン氏はちょっと変わった質問をネットで検索していました。その内容は「ヒツジをレンタルできる?」というもの。

ワイン造りの責任者であるニールセン氏が、ヒツジを飼いたいなんて何を言っているのかと思われるかもしれませんが、ソノマにある彼のワイナリーを見ればその理由は一目瞭然です。春になると、何百頭ものヒツジたちが、ラムズ・ゲートの150エーカー(約0.6平方キロメートル)の敷地を跳ね回り、草を食べ、「メェーメェー」と啼いてはフンをしている光景が広がるのです。

このモコモコした可愛らしいヒツジたちが、草刈りのプロとしてエコな農業の実践、景観の美化、土地の整備、防火などの仕事をワイナリーの各所でこなしています。

春が訪れると、ヒツジたちは一生懸命草を食べ、ヴィンヤードの土壌を豊かにします。ヒツジを使えば時間とお金を節約できるだけでなく、ワイン生産が環境に与える負荷も軽減されるのです。また夏の初めには、ぶどうの若葉を食べてくれるので、太陽の光と空気がブドウの木全体に行き渡りやすくなり、カビやうどん粉病を防ぐと当時に、ぶどうの実の均一な成熟を助けることで豊かな味わいも生まれます。

さらには山火事の季節に先立ってヒツジたちが草を食べつくした部分は防火帯になるうえ、休耕地の外来植物も食べてくれるので在来種の保存にも役立っています。

こうした「実利」のほかにも、ヒツジの存在はワイナリーで働く人や訪れる人に純粋な喜びを与えてくれるという効用もあります。

「ヒツジを迎えた1年目はとにかく嬉しくてたまりませんでした。本当に見ているだけで気持ちが明るくなるからです」とニールセン氏は振り返ります。「今年で3年目になりますが、当初と変わらず、どこかに別の場所へ旅行に行ったかのような気分にしてくれるのです」

このヒツジたちの管理をしているのは、カリフォルニア州とコロラド州に拠点をもつワトソン夫妻です。現在63歳の夫ドンは、1980年代半ばに親友がガンで亡くなったことをきっかけに、人生の意味や優先すべきことを見つめ直したといいます。サンフランシスコで会計士をしていましたがその仕事を辞し、キャロリンとともにオーストラリア、ニュージーランドへと渡り、1年の歳月をかけてヒツジの育て方を学んだのです。

アメリカに戻った2人はナパバレーに居を構え、本格的にヒツジの飼育を開始します。当初は、カリフォルニア州北部のレストランに、母ヒツジの乳を飲ませて放し飼いで育てた子ヒツジを卸していましたが、その後まもなく起きた“事件”をきっかけに、ヒツジたちが思いがけない収入源になったといいます。

「私たちは心からヒツジを愛しています。環境に良いし、ぶどうにも良いし、ヴィンヤードにも良い。ヒツジはとにかく役に立ちます」

その“事件”が起きたのは1991年のこと。夫妻が飼育するヒツジが近くのぶどう畑に迷い込んでしまいました。オーナーはナパバレーのワイン造りのパイオニアとし知られるロバート・モンダヴィ氏。ヒツジの行儀の悪さに恐縮し、またどれだけ大きな被害が引き起こしたのか戦々恐々としたというワトソン氏は、2頭分のラム肉を持参してモンダヴィ氏のところに謝罪に行きました。しかし数日後、モンダヴィ氏から「ヒツジたちをワイナリーに派遣してくれないか」というリクエストが来ました。ヒツジが草刈りや肥料やりに最適なことがわかったから、というのがその理由です。

ワトソン夫妻の新しい事業はこうして始まりました。今日、彼らは2500頭の雌ヒツジと3000頭以上の仔ヒツジを飼育しています。2月後半〜3月初旬にかけて、このヒツジたちは、アメリカ有数のぶどう栽培地域として知られるロスカルネロスAVAで、シャルドネやピノノワールのぶどう畑に生えている雑草や不要な作物をひたすら食べているのです。

ぶどうの木に小さな新芽が出始める時期になると、今度は北へ向かい、メルローやカベルネソーヴィニヨン、カベルネフランなどボルドー種のぶどう畑に出張します。(グルメな羊たちの大好物はマスタードの花、ライ麦、ラディッシュで、これらを食べるチャンスを見逃しません。)

ヒツジを使ったこの農法の登場をきっかけに、ハイテク機械や農薬が普及するまで広く行われていた、昔ながらの農法や自然な土地管理の方法を取り入れるワイナリーが増えてきました。そんなワイナリーが作るワインには、今よりずっとシンプルだった時代をワインを飲むことで感じ取って欲しいという想いがこもっています。

「昔から草を食む動物は草原の一部でした。この自然の営みを活用したのがヒツジ農法です」とワトソン氏はいいます。「ワイナリーは、自分たちのワインのニュアンス、ユニークな特徴やフレーバーを極めようと常に努力しています。その1つの方法は、土地を深く耕し栄養豊かにして、ぶどうの味を最大限に引き出すことです。この点において、私たちのヒツジは大きな役割を果たしているのです」

またレンタルするのではなく、フルタイムのヒツジを飼育しているワイナリーもあります。カリフォルニア州パソロブレスでローヌ種を有機栽培しているタブラス・クリーク・ヴィンヤードもその一つです。フルタイムの羊飼いが、牧羊犬や番犬と一緒に250頭を超えるヒツジ、さらにはロバ、アルパカ、リャマなどの世話をしています。

「270エーカー(約1平方キロメートル)におよぶ敷地全体の雑草をヒツジたちが食べてくれます」とタブラス・クリークのマネージャー兼パートナーを務めるジェイソン・ハース氏はいいます。「敷地の3割強は川床とナラの木の森です。ヒツジたちは下生えを食べることで山火事のリスクを下げてくれます。残りはぶどう畑か今後、ぶどう畑にする予定の土地で、ここでヒツジたちを放牧することで年々土壌の質が上がってきているのです」

フォトジェニックなヒツジたちは、ワイナリーのマーケティング活動だけでなく、サステナビリティの実現にもひと役買っています。化学合成した除草剤の使用を減らすか完全に止めてしまえば、トラクターや農業機械の出番もなくなるので二酸化炭素排出量が減ります。(カリフォルニア州では雨の多い冬になるとトラクターが泥にハマって動けなくなることもしばしばですが、羊たちは地面のぬかるみなど全く気にしません。)さらに、ヒツジのフンに含まれる栄養成分が自然と土壌に蓄積されていくので化学肥料も不要になります。

「何もかもが見えない糸でつながっているのです」とノースコーストにあるクライン・セラーズジャクージ・ファミリー・ヴィンヤーズにワトソン氏のヒツジたちを導入した醸造家のトム・ゲンダル氏は力説します。「私たちは心からヒツジを愛しています。環境に良いし、ぶどうにも良いし、ヴィンヤードにも良い。ヒツジはとにかく役に立ちます」

この記事はFood & Wineに掲載され、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで。

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