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【前編】伝説のホップ「ソラチエース」を軸に5社が集結 羽田エアポートガーデンにて国産ホップの未来を見据えたビールイベント「SORACHI BEER GARDEN」を開催
去る9月7日と8日の2日間にわたり、羽田空港第3ターミナルの羽田エアポートガーデンを会場に、「SORACHI BEER GARDEN ―SORACHI ACE 40th ANNIVERSARY―」というイベントが開催されました。これはビールメーカー5社が集まり、期間限定のビヤガーデンを開くというもの。どれもサッポロビールが育種開発を手がけたソラチエースというホップを使用したビールばかりという点が最大の見どころです。それに先駆け開催された記者発表会の模様を前後編の2回にわたってお届けします。
ホップでビールを選ぶ新たな楽しみかたを提案
9月7日と8日の2日間にわたり、羽田空港第3ターミナルの羽田エアポートガーデンで多くの人を集めた「SORACHI BEER GARDEN ―SORACHI ACE 40th ANNIVERSARY―」。このイベントは、サッポロビールとキリンビールの共同で開催されました。
サッポロビールは「SORACHI 1984」を、キリンビールはブルックリン・ブルワリーとの共同出資会社であるブルックリンブルワリー・ジャパンから「ブルックリンソラチエース」をともに2019年に国内で発売しました。どちらもサッポロビールが育種開発したホップ「ソラチエース」を用いたビール。今年はそのソラチエースが品種登録されて40周年にあたり、それを記念してこのイベントは企画されたのです。
SORACHI BEER GARDENはこれら2社に加え、木内酒造1823、ヤッホーブルーイング、忽布古丹醸造の3社が参加。ソラチエースを使った全5社のビールを飲み比べることができるという、これまでにない試みのイベントとなりました。
開催前日の6日に行われた記者発表会は、SORACHI 1984のブリューイングデザイナーである新井健司と、ブルックリンブルワリー・ジャパンのコマーシャルダイレクター、金惠允(キム・へユン)さんの2人が登壇し、このイベントが開催されるに至った経緯を説明するところからはじまりました。
実はこのイベント、SORACHI 1984とブルックリンソラチエースが全国で発売された2019年、5年前にも両社によって開催されているのです。国内ではまだあまり知られていなかったソラチエースの魅力をしっかりと皆さんにお伝えし、盛り上げていこうと両社のブランド担当が意気投合して実現へと至りました。
この間、サッポロビールは少しずつではありますが、国産ソラチエースの増産を進めてきました。
「やはり日本で生まれたソラチエースですから、いつかは国産ソラチエース100パーセントのSORACHI 1984を作るという夢に向かって国産の生産量を増やしてきました。具体的には2020年に30アール、昨年は360アールと大幅な生産量の拡大を実現。これによって、40周年に合わせてほかのブリュワーさんに販売した国産のソラチエースでビールを作っていただくという施策を打つことができるようになりました」(新井)
ソラチエースを使ったビールを提供することでクラフトビールの流行を加速させていくと同時に、「ホップでビールを選ぶ」という新しい楽しみ方を提案することで、お客様にビールをもっと楽しんでいただきたい。そんな想いからこのイベントは企画されたと新井は語りました。
減産が続く国産ホップの現状
新井はホップに関する基本情報へと話を進めました。
ビールに苦味を生み、香りを付与し、泡を形成する重要な役割を果たし、さらには抗菌作用によりビールの保存性を高め……。ビールづくりにおいてホップはこれだけの役割をになっています。まさにビールづくりにはなくてはならない存在と言えますが、一方でホップはビールづくり以外にはほとんど使われていないというのもまた特徴的なところです。
ホップが生産されている土地は、北緯、南緯ともに35~55度にベルト状に広がっていて、日本では北海道や東北がその生産エリアに入っています。全世界の生産量における7~8割をドイツとアメリカだけで占めているなか、日本での生産量は年間200トン程度。世界的に見てかなり少ない状況です。
ただ、量は少ないものの、今では「日本のホップ」と言えばまっ先にその名前が出てくるくらい世界的に有名となったソラチエースをはじめ、信州早生、IBUKI、リトルスター、MURAKAMI7など、30種類ぐらいが生産されているのは特筆すべき点と言えるでしょう。
ところが、説明が進むとともに示されたスライドの中身は、驚くべきものでした。なんと2008年から現在にいたるまでの約15年のあいだに国内のホップ生産量は約450トンから約120トンへと約1/4に減少しているというのです。
現在までのおよそ15年のあいだに国産ホップの生産量はなんと約1/4にまで減少しています。これに対し、サッポロビールとキリンビールは生産体制を維持するための施策や、気候変動に強い育種の開発などに取り組んでいます。
「国産ホップの生産量が減っている背景には、いろんな理由があります。高齢化や後継者不足ももちろんありますし、ホップは夏場が収穫時期であるために体力勝負であること、さらに機械化が進んでいないこともあり、難しい局面にある。それが国産ホップの現状です」(新井)
続けて新井はこうした国産ホップへの取り組みを説明していきました。
サッポロビールは1876年の開拓使麦酒醸造所開業以来、ずっと国産の原料にこだわってきた歴史があります。農林水産省に登録されているホップ全28種中20種類をサッポロビールが開発したものであるのはその証。気候変動が問題視されるなか、「100年先のビール好きのかたにもおいしいビールを飲んでいただきたい」という想いから、近年は気候変動に対応したホップの育種開発にも取り組んでいます。前述の国産ソラチエース増産も、そうした国産ホップを多くのお客様に楽しんでいただく施策の一環なのです。
また、キリンビールの取り組みについては金さんが説明しました。
「なんと言っても生産者の皆さんがしっかりとホップを育てられるような環境を維持すること。国産ホップの魅力を活かしたビールをつくり、お客様に届けること。これら両輪をいかにうまく回していくかが、キリンビールが考える日本産ホップへの取り組みになります」(金さん)
キリンビールもまた気候変動などの環境変化を見据え、育種や栽培面での研究開発を行っているそうです。同時に日本産ホップのよさを活かした「晴れ風」や「一番搾り とれたてホップ生ビール」などの商品開発を進めてもいます。さらにクラフトビールの市場拡大に向け、ジャパンホップフェストの開催、自社開発ホップの外販なども行っていると金さんは説明しました。
記者発表会で進行役を務めたSORACHI 1984のブリューイングデザイナーの新井健司。国産ホップの現状や、ソラチエースが世界的に広まっていく様子などを来場者に解説しました。
さて、前編はここで終了です。
サッポロビールとキリンビールが協力して「SORACHI BEER GARDEN」を主催したその背景には、今回ご紹介させていただいたような、国産ホップが直面している危機的な状況をより多くのかたがたに知っていただきたいという想いがあったのです。後編は当イベントの柱となっている伝説のホップ、ソラチエースの物語と、ここに集った5社の担当者がどんな想いを抱いてビールをつくったのかをご紹介します。
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(文・写真=稲垣宗彦)