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CATEGORY : 知る

第5回:サッポロビールの生みの親「中川清兵衛」ってどんな人?❶「新潟→横浜→イギリス」編 サッポロビール社史相談室

(画像1)登場人物.png

<登場人物>

サッポロビール㈱社史相談室/社史原ノリ子

入社3年目。社史(会社の歴史)に関するよろず窓口。普段は社史室にこもって黙々と仕事をしているが、相談を受けるとノリノリになる。愛称はシャッシー。

サッポロビール㈱東京外食営業部/営業マン太郎

入社3年目。東京中を飛び回る営業マン。社史、特に自社商品の歴史に関する知識を身に付け、営業活動に活かしたいと考えている。シャッシーとは同期入社。愛称はマン太郎。

第5回:サッポロビールの生みの親「中川清兵衛」ってどんな人?❶「新潟→横浜→イギリス」編

マン太郎の手土産

シャッシー!先週スノボしに新潟行ってきたぞ~。

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▲マン太郎のInstagramより

わー!マン太郎くんかっこいい!

まぁ~ね~。はい、これ新潟土産の缶ビール!

あ!新潟県限定の「風味爽快ニシテ」だ!うれしい!ありがとう。

うん。で、ちょっとこの缶のデザインを見て。片面は、中川清兵衛についての説明文になっているんだ。

(画像3)風味説明文.png
▲中川清兵衛に関する説明文(「風味爽快ニシテ」の缶片面) 

サッポロビールの生みの親は、新潟県人だった。与板町(現・長岡市)出身の中川清兵衛は、日本人で初めて本場ドイツで醸造技術を学んだ後、明治9年に開業した開拓使麦酒醸造所(サッポロビールの前身)でビールを完成させました。「風味爽快ニシテ」はその味を表現した当時の広告文。先人を生んだ新潟への感謝を込め醸造した、「風味爽快」な飲み口のビールです。

お~素晴らしい。ビールを飲みながら、社史を学べるね。

うん。これを読んだら、中川清兵衛(以下、清兵衛)についてもっと知りたくなっちゃった。何と言っても、「サッポロビールの生みの親」だからね。で、今回の相談なんだけど、社史担当のシャッシーから、清兵衛についてもっと詳しい話を教えてもらえないかな?

任せて!でも、ちょっと長くなるけどいいかな?

うん。是非、よろしく~!

じゃあ、3回シリーズで説明するね。今回は❶「新潟→横浜→イギリス」編よ。

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▲中川清兵衛について今回から3回に分けてご説明します。

中川清兵衛の誕生

清兵衛(幼名:直治郎)は、1848年に、与板藩(現在の新潟県長岡市与板町)に生まれたの。

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▲2000年に生誕の地に建立された「中川清兵衛生誕碑」(撮影:山根一洋)

江戸時代の話だな。幕末だ。ペリーが浦賀に来航するのが1853年だから、その5年前だな

そうそう!それにしても、マン太郎くんはペリー来航の年号がすぐ出てくるってすごいね。

語呂合わせで覚えているんだ。「嫌(18)でござんす(53)、ペリー黒船来航」って。

なるほど!学生時代の受験勉強が役立っているね。清兵衛が生まれたのが、ペリー来航前ということは、日本はまだ鎖国の時代ということね。

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▲1854年 横浜への黒船来航
随行筆記した画家ヴィルヘルム・ハイネによるリトグラフ(パブリックドメイン)

で、清兵衛は、どんな家で育ったんだ?

うん。清兵衛の家は与板藩の御用商人「扇屋」で、その本家の跡取り養子として、育てられたの。

御用商人って何?

江戸時代、幕府・諸藩に出入りを許されて、用品納入や金銀の調達などをした特権商人のこと。※出典:デジタル大辞泉(小学館)

ということは、裕福な家のお坊ちゃんだったのかな。

うん。たぶんそうだったと思う。

清兵衛は16歳の時に故郷の新潟を出て横浜に行くことになるけど、それはなぜ?裕福な家の跡継ぎだったんでしょ?

それはある“事件”が絡んでいるの。

え?事件?

そう。この事件が無ければ、おそらく、清兵衛はビール醸造人になっていなかったと思う。

な、なんだって?そんな重大な話か?!是非、聞かせてくれ~。

うん。AIを駆使した自作イラストとともに臨場感たっぷりに説明するね!もちろんイラストはあくまでイメージで私の想像もかなり入っているけどね。

いったい事件とは何なのか?ドキドキ!

16歳の清兵衛が遭遇した事件

時は1864年、清兵衛が16歳の時ね。義父の留守中に、田畑の支配人が家に来たの。

田畑の支配人ってどういう人?

商家「扇屋」の代理として、収穫物を管理し、帳簿を付け、米を倉に納める責任を負っていたような人物だと思う。

で、その支配人は何しに来たんだ?

支配人は清兵衛にこう言ったの。「米は全部倉に納まりましたので、印判を押して下さい」と。

え?印判?!義父がいないのに、16歳の子供が勝手に押していいのか?

それが、清兵衛は言われるがままに、印判を押してしまうの。

(画像7)押印.png
▲言われるがままに印判を押す清兵衛(イメージ)

おいおい、大丈夫か?世間知らずのお坊ちゃまなのか?!

で、後日倉を開けてみたら、なんと、空っぽ!一俵の米も入ってなかった。

(画像8)倉が空っぽ.png
▲空っぽの倉でうなだれる清兵衛(イメージ)

ガーーーン!騙されたんだな。

それで、義父は大層立腹し、戒めのために、清兵衛のチョンマゲを切り落とした。

(画像9)チョンマゲCUT.png
▲立腹のあまり清兵衛のチョンマゲを切る義父(イメージ)

なんだって?!ビックリ!!

この時代、チョンマゲを切られるというのは厳罰。武士の場合は、「その立場や誇りを剥奪される」ということ。商人の場合は、「社会的信用の失墜」や「家業からの追放」を意味するんだって。

ヒジョーに、厳しーーーー!

新潟から横浜へ

そして義父はこう言った。「髪の毛が伸びるまで、しばらく横浜にでも行っておれ!」と。

あ~それで、清兵衛は横浜に行ったんだ。でも、なんで横浜なんだ?

1864 年といえば、幕末の激動の時代。黒船来航後、日本は開国し、特に1859年に開港した横浜は貿易港として急速に発展したの。

清兵衛が横浜に行ったのは、開港5年目のタイミングということだな。

当時の横浜は、外国人居留地が形成され、西洋の文化や技術がどんどん入ってきていた。横浜に着いた清兵衛は、ドイツ商館の住み込みのボーイをしていたんだって。新潟の与板という田舎町から出てきた清兵衛にとって、西洋建築、馬車、西洋服を着た人々が町を行き交う様子は、異世界のように映ったんじゃないかな。

(画像10)横浜.png
▲横浜で様々な西洋文明に触れる清兵衛(イメージ)

若い清兵衛にとって、きっと貴重な体験だっただろうね。

うん。これは私の推測だけど、義父の「横浜へ行け」という命令には、「この経験を通して成長して戻ってこい」という期待と愛情が込められていたんじゃないかと思うんだ。

なるほど~。確かにそうかもな。

横浜からイギリスへ

でも、清兵衛は、与板には戻らなかったんだよね?

そうだね。1865年4月に、17歳の清兵衛はイギリスに渡った。

な、なんと、イギリス渡航!

横浜で様々な西洋文明に触れたことが、清兵衛の海外への憧れ、学びたい気持ちを高めていったんじゃないかな。

なるほど。だけど清兵衛の行動力はすごいな。当時はまだ海外渡航は禁止だろ?

そう。だから、密航ということになる。1854年に日米和親条約が締結されて、鎖国は終わったんだけど、海外渡航は禁止されていた。密航が見つかれば死罪だって。

死罪?!!じゃあ命がけで、イギリスに行ったというわけだな。すごい覚悟だね。

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▲命がけでイギリスへ密航する17歳の清兵衛(イメージ)

このイギリス渡航が、後々、清兵衛のビール醸造人としての道を開いていくことになるわけ。

そうだね。ここでイギリスに行かなければ、後にドイツに行くこともなかったからね。清兵衛が新潟から横浜に行き、その後イギリスに渡った背景や理由がよくわかったぞ

それはよかった。では次回は、イギリスに上陸した清兵衛が、いかにしてドイツでビール醸造人になっていくかという話をするね。

お~楽しみ!また次回よろしく!

じゃあまたね!お疲れさまで~す。

<バックナンバー>

「サッポロビール 社史相談室」

<この記事を書いた人>

山根 一洋

1987年サッポロビール㈱入社。ヱビスビールのブランドマネージャーなどマーケティング部門を歴任。ラッキーヱビスの生みの親。現在は広報部で、社史に関する記事執筆や社員教育などを担う。同時に、一般社団法人日本ビール文化研究会でビア検(日本ビール検定)の企画・運営、公式テキスト『知って広がるビールの世界』(翔泳社)の編集主幹、ビールセミナー講師を務める。趣味のラジオCMコピー制作では、第7回文化放送ラジオCMコンテストでグランプリ&リスナー大賞など受賞歴多数。

<補足>

※このコラムに登場する人物や部署は実在しません。しかし、サッポロビールの社史に関する話は、事実に基づいたものです。
※参考文献は、『中川清兵衛傳』(菊池武男・柳井佐喜 著、1982年、八潮出版社)です。著者は中川清兵衛のお孫さんです。チョンマゲを切られるエピソードは、「扇屋」本家筋の杉山礼子さん(故人)の残した手紙に書かれていたものとして、この本の中で紹介されています。

<画像>

※男女イラスト:iStock.com/wakashi1515
※スノボ写真::iStock.com/molchanovdmitry
※ホワイトボードのフレーム::iStock.com/kuu00

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