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第3回:ビヤか?ビアか?サッポロビール社史相談室

<登場人物>

サッポロビール㈱社史相談室/社史原ノリ子

入社3年目。社史(会社の歴史)に関するよろず窓口。普段は社史室にこもって黙々と仕事をしているが、相談を受けるとノリノリになる。愛称はシャッシー。

サッポロビール㈱東京外食営業部/営業マン太郎

入社3年目。東京中を飛び回る営業マン。社史、特に自社商品の歴史に関する知識を身に付け、営業活動に活かしたいと考えている。シャッシーとは同期入社。愛称はマン太郎。

夏は暑い!

シャッシー!助けてくれ!外は暑すぎで、汗びしょびしょだ。

あ!マン太郎くん、おかえりなさい。猛暑の中の外回りお疲れ様。

うん。もう今日は体力の限界!

こんな日は、冷えたビールを大ジョッキでグイッと行きたいな。

いいね~。もうビアガーデンもオープンしているしね。

ん?今、ビアガーデンって言った?

そう。ビアガーデン。

ビヤか?ビアか?

ビアガーデンじゃなくて、ビヤガーデンだろ?

いや、ビアもビヤもどっちもあるよ。

どっちもあるの?なんで?俺はこう見えて、超几帳面な営業マンだから、そういう曖昧なのがイヤなんだよ。

まあ、そんなことでカッカしないで。益々暑くなるよ。

ビヤとビアが混在しているなんて、日本のビール業界の大問題だよ。

そこまで言うなら、社史担当として、歴史的な観点も踏まえて、その問題に切り込んでみるね。

お~、さすがシャッシー!頼んだぞ~!

(画像3)シャッシー.png

もともとは「ビヤ」だった?

日本初のビヤホールは「恵比寿ビヤホール」だし、現存する日本最古のビヤホールは「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」でしょ?それと、下の写真は、大日本麦酒時代に東京・吾妻橋にあった「サッポロビヤホール」。

▲大日本麦酒時代の「サッポロビヤホール」(東京・吾妻橋)

ビヤを使っているな。

当社の歴史上の表記は「ビヤ」が使われている。サッポロライオン社は、現在においても「ビヤホール」と表記しているしね。

(画像4-2)ライオンビヤホール.png
▲現在の「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」

私の調査によると、サッポロライオンだけでなく、老舗ビヤホールはだいたい「ビヤ」を使っているよ。1937(昭和12)年創業の「ニユートーキヨー」も、1909(明治42)年創業の神田神保町の「ランチョン」も、公式Webサイトや看板などでは「ビヤホール」の表記を使っている。1900(明治33)年に開業した「函館ビヤホール」も「ビヤ」だし。

あ~、ビール飲みたくなってきた。

老舗ビヤホールの表記を見ると、もともとは、「ビア」よりも「ビヤ」の方が主流であったと考えられるね。

あ~、もうビヤでもビアでもどっちでもいいから、早くビール飲みに行こう!

もうちょっと我慢して。ここからが本題なんだから。

今は「ビア」が主流

だけど、近年は状況が大きく変わっているの。

な、なんだって?!

このグラフを見て。

なんじゃ、このギザギザは?

(画像5)ビヤホールとビアホール.png
(画像6)ビヤガーデンとビアガーデン.png

これは、Googleトレンドのデータなんだけど、2つの言葉の検索数比率の月別推移を示したものなの。上のグラフが、「ビアホール」と「ビヤホール」、下のグラフが、「ビアガーデン」と「ビヤガーデン」の比較で、2004年1月〜2024年6月までの、約20年分のデータになる。ギザギザになっているのは、毎年夏場に検索数が上がるからね。

な、なんじゃこりゃ?!!どちらも圧倒的に、「ビア」が多いぞ!

そう! ほとんどの人が「ビヤ」じゃなくて「ビア」でググっているということだね。

外来語表記の原則

でも、もともとは「ビヤ」が主流だったのに、なんで、今は「ビア」になっているんだ?

言葉というのは、時代とともに変化するの。今回の「ビヤ」と「ビア」のように、いわゆる「外来語」の表記の仕方についても、変化しているっていうことね。

へ〜、例えば?

今回と似たような事例で言うと、次のようなものがあるよ。

 

いずれも、今は、「ヤ」より「ア」が主流でしょ?

つまり、「ヤ」は古い表記ということ?

うん。実は、このような外来語の表記については、国からガイドラインが出ていて、それが、下のリンク先の1991(平成3)年に出された内閣訓令「外来語の表記」。

内閣告示・内閣訓令 > 外来語の表記

そんなのがあるんだ?!

ここには、「イ列・エ列の音の次のアの音に当たるものは、原則として『ア』と書く。」 と書いてある。

その原則に従えば、「ビア」になるな。

ただ例外もあるの。タイヤ、ダイヤモンド、ダイヤル、ベニヤ板など、「『ヤ』と書く慣用のあるものは、それによる」と書かれている。

確かに。タイアとは言わないしな。

「ヤ」と「ア」の勢力争いで、「ヤ」が圧倒的に勝っているもの、言葉として定着しているものは、原則とは関係なく、そのままそっちを使っていきましょう、ということね。

俺が使っている「ワイヤレスイヤホン」は「ヤ」が圧勝している。「ヤ」が二つもある!

「ビヤ」と「ビア」の結論

まとめると、「ビヤ」は古い表記であり、今は「ビア」が一般的に使われている。

うん。うん。

「ライオンビヤホール」のように伝統的に使用している場合は、「ビヤ」のままでよいと思うの。

うん。そこは伝統ある「ヤ」にこだわってほしいな。ヱビスビールが「エ」と表記せず「ヱ」と表記しているようにね。

一方、新しい商品やサービスについては、現在の言葉として主流になっている「ビア」を使うのを原則とすべきでしょうね。

まぁ今はだいたいそうなっているよね。例えば、日本ビール検定の通称は「ビア検」だし、ファミリーマート限定ビールは「ビアサプライズ」だ。

(画像7)ビア検.png

確かにそうね。サッポロビール以外の商品でいえば、サントリーの「ビアボール」、アサヒの「ビアリー」。それ以外では、「日本ビアジャーナリスト協会」「ビアソムリエ」「ビアジャッジ」など。今は「ビア」と表記するのが普通だし、自然だよね。

よし!シャッシー!話はまとまったから、早くBEERを飲みに行こう!BEERを!

なに?急にBEERって?英語の発音良すぎじゃない?

だって、最初からBEERってアルファベット表記にしておけば、「ヤ」とか「ア」とか気にしなくてよいだろ?

でも、マン太郎くんの発音、舌を巻きすぎで、ちょっと気味が悪いよ!

(画像8)マン太郎.png

※人物イラスト:iStock.com/wakashi1515

※ビール液体イラスト:iStock/olga_hmelevska

※夏の日差し写真:iStock/batuhan toker

<この記事を書いた人>

山根 一洋

1987年サッポロビール㈱入社。ヱビスビールのブランドマネージャーなどマーケティング部門を歴任。ラッキーヱビスの生みの親。現在は広報部で、社史に関するコラム執筆や社員教育などを担う。同時に、一般社団法人日本ビール文化研究会でビア検(日本ビール検定)の企画・編集主幹、ビールセミナー講師を務める。趣味のラジオCMコピー制作では、第7回文化放送ラジオCMコンテストでグランプリ&リスナー大賞など受賞歴多数。

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