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“生ビール”で、糖質とプリン体を70%もオフ!! 日本初「サッポロ生ビール ナナマル」が誕生【前編】開発者にその秘密を直撃
糖質やプリン体の含有量を抑えたビールテイスト飲料は今までいろいろありましたが、10月17日発売の「サッポロ生ビール ナナマル」は、ありそうでなかった商品です。何が違うか、わかりますか? そう、糖質、プリン体ともになんと70%もオフ!しかも、商品名にもあるように、発泡酒ではなく、「生ビール」なんです! こんな画期的な商品がいかにして生み出されたのか? そしてこれはどんな商品なのか。商品企画担当者とブランド担当者へのインタビューを前後編の2回に渡ってお届けします。
前編となる今回は、ナナマルの商品企画を担当した、新価値開発部の木村亮佑へのインタビューをお楽しみください。
新価値開発部 ナナマル商品企画担当
木村亮佑
(2023年9月以降はサッポロホールディングス株式会社経営企画部に従事)
ナナマルが70%オフになったその理由とは?
――本商品「サッポロ生ビール ナナマル」の開発経緯を教えてください。いつ、どのように企画はスタートしたのでしょうか?
木村亮佑(以下、木村):ナナマルとしての開発がスタートしたのはもっと後になってからですが、実はこうした糖質やプリン体を抑えたビールをつくる研究は、2016年からもう始まっていました。
――もう7~8年前ですね。
木村:私が今の部署、新価値開発部という商品開発を行う部署に配属されたのが6年前。その前からすでに研究が始まっていたんですね。そうした研究が実を結びはじめ、23年の発売を目標として具体的にナナマルという商品の開発がはじまったのが21年で、私はその時点からこの商品に携わっています。
――オフ系・ゼロ系のビールテイスト飲料としてサッポロビールは、今までも糖質とプリン体をゼロに抑えた「極ZERO」、尿酸値を下げる旨み素材「アンセリン」をプラスした、機能性を謳うノンアルコール飲料「うまみ搾り」といった商品を発売してきました。
木村:酒税法上、麦芽使用比率が50%以上でなければ「ビール」として発売することができません。これがオフ系・ゼロ系のビールを開発する難しさの1つにつながっています。ビールに含まれるプリン体は主に麦芽由来ですから、その比率が高いビールには、どうしてもこれらの成分が多くなってしまいます。
――ビールでプリン体オフの製品を実現する方法はいくつもあるのでしょうか?
木村:方法は1つだけではありません。一方で最終的に70%オフにするためには課題も多いです。ナナマルでは原料の組み合わせからはじまり、発酵や貯酒工程ではそれぞれ細かい条件管理を行い、ビールづくりの工程ごとにいろんな工夫を織り込んでいます。
――そうした工夫の積み重ねが“70%オフ”につながっているわけですね。「サッポロビールから通年販売されているビールブランドの平均値からの70%オフ」とのことですが、企画の段階から7割も減らせることに勝算はあったんですか?
木村:やはり50%オフ程度ではいくらビールといえども、お客様の視点に立って考えるとなかなか「減っている実感」が湧きにくいものがあるのではないでしょうか? でも、かといってあまり糖質やプリン体を省きすぎてもビールとしての味のバランスやおいしさが崩れてしまうところがあります。
ビールとしてのおいしさをキープしつつ、糖質とプリン体はしっかりとオフにする。そのバランスとして70%がちょうどいいという結論でした。
――ビールで糖質・プリン体ゼロを目指すことも不可能ではないんですか?
木村:技術的な課題はありますし、今すぐできるものでもありませんが、不可能ではないと思っています。ただ、お客様がはたして「糖質やプリン体がゼロのビールを求めているのか?」というと、いろいろな調査結果などを見てもまだ検証が必要な部分もあります。
ビールってあくまでも飲んだときのおいしさ、楽しさも大事で、糖質やプリン体をカットした数値ばかりを追求するだけでは、その大切な部分も失われてしまうと思うんですね。
――なるほど、これ以上はプリン体や糖質よりもっと大事なものが損なわれてしまう可能性が高いんですね。
木村:「技術的に可能だからつくる」のではなく、やはりあくまでも「お客様が求めているもの・期待するものをつくる」ことが商品開発としては、はるかに大事だと思います。買っていただくお客様を想像しながら商品を仕上げていってこそですね。
ビール好きのための、糖質&プリン体70%オフ
――ナナマルのような商品の場合、「お客様が欲するもの」というそこがまさに難しいところじゃないかと思うんですね。というのも、あまりにもほかのビールと変わらなすぎる味だと、「え? 本当に70%もオフになってる?」っていう猜疑心が生まれかねないというか、“減ってる納得感”が得られない気がするんですよね(笑)。かといって、一方でやっぱり「おいしさ」が損なわれてもいけないですし……。
木村:確かにそのバランスには独特の難しさがなかったわけではありませんが、思い悩むほどではなかったです。というのもの、本質的にはこの商品をご購入していただくのは「ビールを飲むことが好き」なお客様。糖質やプリン体がカットされていればそれはうれしいと思っていただけるはずですが、何より「おいしいビールが飲みたい」はずなんです。
先ほどの話ではないですが、「30%を残す」という選択がおいしさを実現する秘密でもあったりするわけです。
――なるほど、大事なのは「おいしいと思える」ことなんですね。
木村:やはりお届けしたいのは生ビールのおいしさです。そのおいしさを我慢せず、カラダに気遣いながら晴れ晴れした気持ちでお楽しみいただきたい。ナナマルという商品は、そこをずっと目指して開発してきました。
――糖質とプリン体を減らしていくと、味には具体的にどんな変化が出てくるんでしょうか?
木村:あくまでも一般論としてですが、コクやうまみ、飲み応えといったところが減っていく傾向がありますね。ただ、発泡酒とビールでは商品化のアプローチが違うところがあるので、一概には言えません。また、糖質やプリン体が「ゼロ」か「オフ」でも全然違うと今回のナナマルの開発でも実感しています。今回はあくまでも、生ビールのおいしさをしっかり楽しんでいただくことを前提に開発を進めてきました。
――かつて販売されていた「うまみ搾り」は違いますが、アルコール飲料はオフやゼロといった、何かを減らすのが一般的ですよね。何かを足す・加える方向でのアイデアは考えられないのでしょうか?
木村:何かをオフする、あるいは何かを足す・加えるにしても、大事なのは商品との相性だと思っています。ビールを飲みたいと思って商品を手に取ってくださったお客様にとって、例えばビタミンCが入ってたとして喜んでいただけるのか? レモンサワーならなんとなくわかりますが。相性とはそういった部分です。ただ、組み合わせの意外性をおもしろいと思っていただけるケースももちろんありますから、チャレンジする価値はあると考えています。
――なるほど、商品との相性ですか。確かにビール好きのお客様にとっては、ビタミンCが入っているよりも、「糖質やプリン体を気にせず楽しめる」ほうが喜んでいただけそうですね。
木村:ナナマルに関しては酒税改正でビールへのシフトが予測され、お客様のカラダを気遣う意識も増加しているなかで、「糖質とプリン体を大幅にカットした“初の生ビール”」として商品化することが大事でした。
ただ、食中酒といったお酒の楽しみ方が今は注目が集まっていることを考えると、オフやゼロだけではなく、何かを足す・加えることもアイデアとして考えることができそうです。
おいしそう&オフ系商品であることのわかりやすさの両立を考えたパッケージデザイン
――70%オフだから「ナナマル」とはずいぶんストレートなネーミングですけど、ほかに候補はあったんですか?
木村:具体的にどんな名前が候補としてあったかは言えませんが、いろいろありました。「やっぱり糖質とプリン体が70%オフになっていることはきちんと伝えていかないといけないよね」という基本的な考え方がまずあって、そのうえでアイデアをいろいろ出していきました。
一方で商品名は糖質・プリン体70%オフといった商品特徴をアピールするだけでなく、ブランドとしてお客様に親しみやすさや覚えやすさを感じていただく「愛称」としての役割も大事です。「ナナマル」は7割カットであることがきちんと伝わるうえに、愛称として呼びやすくもある、いいバランスかな、と思っていますね。
――カラダを気遣う商品だとイメージを増すために名前に「グリーン」とか色を取り入れることが多くないですか?
木村:仰る通り「グリーン」のように一般的にオフ系・ゼロ系の商品と思えるようなイメージをネーミングに取り入れる、という考え方もあると思います。ただし、ネーミングの抽象度が高くなるとお客様に内実を伝えるためのコミュニケーションがより多く必要になってしまうという難点があります。店頭でお客さんが見かけたときにすぐにどういう商品か伝わることはとても重要です。確かに直球なネーミングではありますが、親しみやすさがあって覚えやすいという意味でもナナマルは我ながら素敵なネーミングだと思っています。
――名前に「グリーン」は入ってませんが、缶は緑を基調としたデザインですね。パッケージデザインではどんなことに気をつけられたんですか?
木村:パッケージデザインでは気をつけたことが2つあって、ひとつが「70%オフといった特徴を伝えること」と「お酒としておいしそうであること」のバランスです。70%オフであることをきちんと伝えたいとは思っていますが、あまりそこを強調しすぎると「おいしさは二の次か?」なんて思われかねません。
一方で、おいしそうに見えることを重視しすぎた結果、せっかくのオフやゼロといった特徴がきちんと伝わらずに失敗したケースも過去にはあるんです。
――もうひとつはなんでしょう?
木村:やっぱり「ズバリ生ビールであること」を伝えるということですね。
1点目の「オフ系商品であることのわかりやすさ」と「おいしさ」のバランスについては、緑と金の色合いや配色を試行錯誤し、直感的にオフの商品とわかりつつ、ビールのおいしさ感も同時に感じられるように工夫しました。
2点目の生ビールの伝達は、缶の中央に商品名の「サッポロ生ビール」という文字を目立たせ、レイアウトも調整することでビールらしい堂々感を演出しました。
――パッケージのデザインはすんなり決まったんですか?
木村:70という数字が目立ちすぎたのをはじめ、全体的に文字の配置と大きさのバランスがおかしかったりで、かなりの紆余曲折がありました。文字の配置、大きさ、配色、いろんなパターンを試しました。
最終的に満足のいくデザインができたとは思っているんですが、商品名同様、最終的にはお客様がどう判断されるかがいちばん大事なので、発売が待ち遠しくもあり、怖くもあり、という感じです(笑)。
木村「ナナマルはぜひジャンクな食べ物といっしょに」
――研究段階から7~8年、木村さんがナナマルとして開発をはじめてから約2年を経ての発売となったわけですが、満足いく商品となったのでしょうか?
木村:糖質とプリン体をカットした生ビールとして、今のサッポロビールがお客様に提供できるベストなものに仕上がったと思います。
――定番としてヱビスビールがあり、黒ラベルがあり、そして糖質とプリン体をカットしたナナマルがそこに加わる。バリエーションが広がった感はありますね。今はいろんな味わいのビールが増えていますけど、ナナマルはどんなシチュエーションにマッチするビールとして仕上がっているのでしょうか?
木村:目指したのはど真ん中、「『おいしい生ビールが飲みたい!』と感じたときに飲むビール」です。
普段からカラダを気遣いつつも、おいしいビールやご飯に関してはあまり我慢をしたくない。ナナマルが想定しているのはそういうお客様です。おいしいご飯とともに、気兼ねなく楽しめるビールとして楽しんでいただけたらうれしいです。
これはあくまでも個人的な意見ですけど、揚げ物やピザなど、ちょっとジャンクな食べ物をごくごくと流し込むように楽しむのが好きなんです。ぜひお客様にも一度そういうシチュエーションで味わっていただきたいですね。
――お話をうかがっていると、従来のビールとそのまま置き換えられるものに仕上がってる感じですね。
木村:商品名に「サッポロ生ビール」と入っている部分にもその自信のほどを感じていただきたいです。生ビールのおいしさをしっかり伝えられるものになっていると思います。
――酒税改正でビールにスポットが当たっているタイミングですし、ナナマルみたいなちょっと変わった商品をきっかけに、ビール好きな人がもっと増えてくれるといいですね。今後は「こんなお酒を開発してみたい」みたいな目標はありますか?
木村:私たちみたいに職業としてお酒に関わっているのでもない限り、お酒について考えることって、1日のうちに1回あるかないか、あっても一瞬のことじゃないかと思うんですね。でも、新しい商品が出ると、「おいしかった」「新しい発見があった」「定番商品にして欲しい」と、飲まれたお客様の声がお客様センターに届いたり、SNSに投稿されていたりするんです。
これって実はスゴいことなんじゃないかと感じたりします。
こうして意見を寄せていただけるのは、お酒という商品が消費されるときの「楽しさ」が大きく影響していると思うんです。でも、現実には若い世代を中心に「お酒離れ」みたいなことが起こっています。これはお酒の位置づけが変わってきていることも一因じゃないでしょうか。今はお酒以外にも楽しいものがいっぱいありますし、お酒の楽しさが若い世代にうまく伝わっていないのかもしれません。
食中酒に注目が集まっているという話が先ほど出ましたけど、これは食事全体をコーディネートするひとつの要素としてお酒を捉え、食事全体の満足度を向上させる役目をお酒が果たしていると考えられます。
1日のしめくくりに飲むことで、ちょっと日常が豊かになるようなお酒。そういう商品をご提案できたらいいなと思っています。
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(文・写真=稲垣宗彦)