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国産ホップでブームを起こせ! 青山学院の大学生がホップの魅力を伝える新プロジェクトをコンペで提案 「青山学院大学×サッポロビール 国産ホップ価値化プロジェクト」 【後編】最終発表会では学生たちのこんなアイデアが登場
サッポロビールは「国産ホップの魅力を広く伝える」ことを目的に、青山学院大学とこの春から産学協同プロジェクトを進めてきました。同大学の2つのゼミに所属する2年生・3年生たちが数人ずつのグループに分かれてアイデアを出し合い、それをコンペ形式で競うのです。前編ではこのプロジェクトが立案された経緯などを、「GOLD STAR」や「NIPPON HOP」の中味開発に携わり、このプロジェクトを主導した新木絵理と、「SORACHI 1984」のブリューイングデザイナーである新井健司へのインタビューという形でお届けしました。後編である今回は、各グループが行った最終発表の模様をご紹介します。
国産ホップの魅力を広く伝える方法を学生たちが考案
100年以上の歴史を誇るサッポロビールは、創業当時から国産ホップの栽培・育種開発を続けて来ました。現在は、そうして開発したさまざまなホップを協働契約栽培という形で国内の農家の協力を得ながら生産し、ビールづくりに活かしています。
ホップはそのほとんどがビールづくりに使われているという特殊な作物。しかも、日本ではホップを使用していないと「ビール」と呼ぶことができません。ホップが持つ独特な苦味と香りはビールにおいて不可欠なものなのです。
ところがそのホップは世界の総生産量を見ても、年間10万トン程度しか作られていません。そのうちの75%以上はドイツとアメリカだけで占められていて、国産のホップは1%にも満たない程度(Barth Report 2022/23 より)。国内のホップ生産農家は高齢化が進むとともにその数も減り続けており、厳しい状況にあります。
今回の「青山学院大学×サッポロビール 国産ホップ価値化プロジェクト」ではそうした現状を打破すべく、国産ホップそのものを知っていただき、その魅力をどう広げるかをテーマに実施されています。
プロジェクトのパートナーに青山学院大学が選ばれた背景には、3つ理由があります。まずはサッポロビールと青山学院大学の青山キャンパスは同じ渋谷区にあるということ。さらに、青山キャンパスの敷地はもともと開拓使農事試験場第二官園であり、日本で初めてホップの試験栽培がなされた場所だったのです。そして本プロジェクトを推進する新木絵理の母校であるということ。このようなご縁から、青山学院大学の経営学部長の久保田進彦教授と、同じく経営学部マーケティング学科の芳賀康浩教授が率いる2つのゼミに属する学生と一緒に、「ホップの価値化」に取り組むことになりました。
学生たちに課せられたテーマは、「国産ホップ自体をブーム化するためのマーケティング戦略提案」。身近ではない「ホップ」という植物をどのようにして世の中ごと化し、ターゲットである若年層に興味を抱かせるのか。ホップを使ったビールの新商品や既存商品のプロモーション提案ではなく、あくまでも「国産ホップ」の新たな活用や、その魅力を伝えるマーケティングプランを考えることが求められます。
今年の4月に同大学へ新木たちが赴き、「ホップ」とは何か、ビールとは何かをレクチャーするとともに、プロジェクトのテーマを説明するオリエンテーションを実施。学生はグループごとに分かれ、「国産ホップ価値化」のためのアイデアを考案し、それをコンペ形式で競うことになりました。
そして7月21日、恵比寿ガーデンプレイスタワー内にあるサッポロビールの会議室を会場に、最終発表が行われました。
6つのグループがホップの魅力を伝える多彩なアイデアを披露
登場するのは、芳賀ゼミから4グループ、久保田ゼミから2グループの計6グループ。15分という限られた時間のなかで、自分たちが考えたアイデアを披露していきました。最後にサッポロビールの社員が審査をし、最優秀賞・優秀賞・特別賞のアイデアが決まりました。それではさっそく、6チームすべてのアイデア※をご紹介します。
※あくまでもホップの活用アイデアであり、ホップに関する効果効能や実現可能性について検証を行ったものではありません。
■【最優秀賞】国産ホップを使用したルームスプレーのご提案
チーム らっこ(芳賀ゼミ)齋藤(蒼)/平川/齋藤(風)
最優秀賞に輝いたチームらっこが提案したのは、ルームスプレー「Kanpai」です。睡眠の質や不眠といった現代人が抱える課題に着目し、ホップの香りと効果で睡眠前の至福の瞬間を演出するアイデアを発表。SNSでの認知拡大や山手線をジャックしての車体広告なども提案しました。
審査員からは、「既存の睡眠改善商品の不満点に着目し、課題解決につながる提案に仕立てている点が素晴らしかったです。“眠れない”という負の解決だけにとどまらず、“眠りの瞬間を最高にする”というポジティブなベネフィットに変えていた点が新しくわくわくする提案でした。お客様にとって馴染みがなく、食経験もない『ホップ』を使ったアイデアとして、ホップの香りを活かしたルームスプレーという出口に納得感がありました。」とコメントがありました。
最優秀賞に輝いたのは、チーム らっこによる「国産ホップを使用したルームスプレーのご提案」。ホップの特長を活かし、生活の質を向上させるアイデアが評価されました。
■【優秀賞】ホップでスナック菓子を創りました!
趣味食事(久保田ゼミ)腰越/清水/宮川/向川
国産ホップのブームをどう作るか。この課題に対し、優秀賞に選ばれた趣味食事チームは「ホップがブームになる=ホップが多くの人に認知される」と解釈するところから考えをスタートさせ、ビールのおつまみに最適で、お酒を飲まない人も楽しめるスナック菓子とおつまみのコンビ商品を考案。段ボールで商品パッケージなどの巨大なモックアップを制作し、プレゼンテーションに活かす工夫も見せました。
審査員からは、「趣味食事チームのアイデアは、ビールの傍にある『おつまみ』の提案という、主力事業とのシナジーが発揮できているものでした。ビールは飲んでみたいけど苦手で飲めない人に対して、ビールと一緒に食べると“ビールがおいしくなる“”苦手なビールが好きになる“という新しい体験を提供している点がとてもよかったです。パッケージやプロモーション戦略についてもお客様が『やってみたくなる』『手に取ってみたくなる』仕掛けが考えられている点も非常に魅力的でした」とコメントがありました。
商品パッケージの巨大なモックアップを作るなど、プレゼンテーションへの工夫も光った趣味食事が優秀賞を受賞しました。
■【特別賞】“たたかうホップ”による国産ホップ価値向上策
チームポプテピピック(芳賀ゼミ)河本/時村/阪野
特別賞を獲得したチームポプテピピックは、「“たたかうホップ”による国産ホップ価値向上策」と題した提案を行いました。「たたかうホップ」とは、サッポログループの研究により、その成分を水で抽出した「ホップ水抽出物」が持つとされている「花粉症状緩和効果」に着目した、「鼻とのどに効く飴」のこと。実は、「ホップ水抽出物」は、鼻水やくしゃみなどの花粉症の症状を緩和する効果が期待されると言われています。「ホップマン」というヒーロー風の販促キャラクターも考案。これを使ったさまざまなプロモーション施策についても言及しました。
審査員からは、「若年層へのアプローチとして、国民病である花粉症に着目した『たたかうホップ』というコンセプトが非常におもしろく、お客様の課題もしっかり特定できている点がよかったです。サッポロビールの過去の研究との結びつきも考えられているうえ、プロモーション案には消費者目線での具体性があり、イメージがしやすかったアイデアでした。」とフィードバックがありました。
特別賞を受賞したチームポプテピピック。
■国産ホップの食品化計画
グミーズ(芳賀ゼミ)岡野/三森/園部
グミーズはそのグループ名通りにホップを用いたグミ「ホップグミ」の商品企画を立案しました。脱マスクの時代になり、口臭がきになる人たちが増えることに着目し、『ホップ水抽出物』が持つとされている「口内清涼」機能に着目。製菓メーカーとのコラボによりグミを作ることをCM案などとともに提案しました。
■国産ホップ由来の新しい美容法
チームわしゃわしゃわしゃ(芳賀ゼミ)秋山/村松/村山
のど飴、グミと、食品が続きましたが、3番目に登場したチームわしゃわしゃわしゃが発表したマーケティング施策はなんと「美容アイテム」。ホップのつるを原料に洗顔紙を作り、これを使った美容法や、オウンドメディアを立ち上げてのプロモーション活動を提案しました。
■ホップの認知向上を狙った動画によるプロモーション施策
クボタマジカル(久保田ゼミ)宇藤/大内/前原/吉田
ここまでのチームは、のど飴やルームスプレーなどホップを使った商品を作るアイデアが続きましたが、最後に登場したクボタマジカルは、ホップの魅力を伝えるための動画を駆使したプロモーション手法でした。学内で実施したアンケートからもっとも効果的な動画のありかたを研究したほか、動画の内容やイメージキャラクターのデザイン、さらにダイジェストや予告をショート動画にまとめて拡散をサポートさせる手法についても触れました。
今回の国産ホップ価値化プロジェクトにご協力いただいた青山学院大学経営学部長の久保田進彦教授率いる久保田ゼミの学生たち、同じく経営学部マーケティング学科の芳賀康浩教授が率いる芳賀ゼミの学生たち。
学生たちから受けた刺激を「ビールの進化」へつなげる
最終発表の後に、プロジェクトを推進してきた新木に改めて話を聞きました。
――学生から出たさまざまなアイデアをすでにご覧になったと思います。「ビールづくりのプロ」から見て彼らのアイデアはどうでしたか?
新木絵理:非常に刺激をいただきました。国産ホップを使ったビールの新商品ではなく、国産ホップ自体をどうブーム化するかを考えるのは、とても難しいお題だったと思います。
にもかかわらず、固定概念にとらわれない様々な切り口・アイデアを提案していただきました。どのチームも、世の中の変化・お客様の変化や課題を捉えた非常にロジカルな提案でしたので、とても感心しました。
――確かにみなさんのアイデアは多彩でしたし、「なぜそう考えたのか」がしっかり述べられていましたね。
新木:ホップはビールに欠かせない原料ですが、ビールだけにとどまらない多くの可能性を秘めたものだ、ということを、私自身が再確認できました。何より、いろんなアイデアをうかがって、とてもわくわくさせていただきました。創業以来、原料研究に力を入れてきたサッポロビールだからこそできる国産ホップの魅力化に向けて、今回のアイデアを参考にしながら、国産ホップをより魅力的なものにするアクションを継続し、ビールの魅力化を推進していく予定です。
――学生たちのアイデアを見た今、改めてうかがいますが、ビールの魅力をもっと高め、より多くの人に伝えるにはどんなことが必要だと思いますか?
新木:この活動の中で、ある学生さんに、「この取り組みがきっかけで、ビールを飲んでみたいと思って実際に飲んでみました!」という感想をもらいました。
とても嬉しいことではありましたが、ビール自体の魅力がまだまだ伝えきれていないのだ、ということも同時に感じました。ビールは長い歴史・伝統のあるお酒のひとつですが、その伝統を守りながらも、これからの時代に求められる「新しいお酒」としての可能性を探り続けていく必要があると思います。
――今の時代ならではの“新しいビール”ですね。
新木:そうですね、時代に合った「新しいお酒への進化」です。
また、それを伝えるためのタッチポイントづくりも大切だと感じています。サッポロビールの資産である「国産ホップ」もその手段の一つでしょう。
「ホップ」はビールには欠かせない原料でありながら、未だにあまり知られていません。その香りや種類、それぞれのホップが生まれた物語など、国産ホップが持つ様々な魅力をカイタクし、お客様に届けることができれば、これまでとは異なるビールの新しい楽しみ方を提案できると考えています。
そのためにも、ビール原料としての活用方法にとどまらず、様々なアプローチで国産ホップを魅力化し、お客様と国産ホップの“接点”をつくっていくことができれば、最終的にビールの魅力化につながっていくと信じています。
新木をはじめとするサッポロビールの社員にとって、この青山学院大学との産学協同プロジェクトは大変大きな刺激となりました。時代に合わせてビールを「新しいお酒へ進化」させるという言葉から、その影響のほどがうかがいしれるかと思います。
(文・写真 稲垣宗彦)