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“志からカルチャーは生まれる” 街でヨリミチ in 恵比寿 vol.1 ― Martha Records代表 福山渉 

誰もが一度は訪れたことがあるであろう街、東京・恵比寿。カフェやレストランなど新旧様々な飲食店が立ち並び、食やショッピングのスポットとして認知されている。しかし、サッポロビールと共に歩んできた歴史があるこの街の魅力を、私たちはまだ全て知らない。そんなメインストリームから1本曲がって”寄り道”をして、1歩踏み込んで”より未知”な魅力を発見したい。本企画では様々なジャンルで、恵比寿に貢献する人物にお話を伺い、恵比寿の”ヨリミチ”な魅力を語ってもらう。

連載初回は、世界中のレコードバーブームの火付け役ともなった「Martha Records」の代表を務める福山渉さんに話を伺った。福山さんは1994年に新宿にレコードバーをオープン後、2005年に恵比寿へと移転。29年にわたってレコードバーカルチャーを築き上げ、『ニューヨークタイムズ』等に取り上げられるなど、独自のスタイルで音楽とお酒の魅力を発信している。そんな福山さんに、CHEER UP!の運営担当でもある杉浦若奈が、「カルチャー」というテーマで、恵比寿という街の”ヨリミチ”な魅力について伺った。

白キャンバスだった恵比寿に、色を付けたくて

杉浦:メディアからの取材を断ることも多いと伺いましたが、なぜ今回の企画にご出演いただけたのでしょうか。

福山:若い頃は売名行為みたいで嫌だと思っていたけど、歳を取ってくると人に伝えたいことが多くなってくるんですよね。それに、普段お客さんと話しているようなことを好きに言っていいという約束をしていただけたので、今回はお引き受けしました。

杉浦:ありがとうございます。今日は心の内を全て話していただければと思います。まずは、福山さんの経歴をお聞かせください。

福山:今は「MARTHA」「TRACK」「NICA」の3店舗を経営しています。もともと音楽が大好きな少年だったので、熊本に住む高校生の頃から音楽を聴かせるバーの店主になりたいと思っていたんですね。大学卒業後は大手チェーンを経て、1990年に転職先の会社から「新しい店を作るから、お前が店長やっていいよ」と言われたことがきっかけで、現在もやっている「ターンテーブル2台で選曲をするBAR」の原型ができました。その店で3年ちょっとやらせてもらって、個人で「MARTHA」という名前の小さな店を新宿に作ったのが1994年でした。

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杉浦:もともと新宿でレコードバーを経営されていた中で、なぜ恵比寿という街を選んだのでしょうか。

福山:地元密着型より、いろんな人がいろんなところから来店してくれる方が好きなんですよ。となると、私鉄沿線より大きなターミナル駅の方がいい。その中でもなぜ恵比寿にしたかというと、既に固定されたイメージがついているところは嫌だと思っていたから。僕の中で当時の恵比寿は「こういう街だ」という偏見がなく、白いキャンバスのような街だったんです。VANの創業者・石津謙介氏が青山のイメージを変えたように、1軒の店から街の色が変わっていくことがあるから、そんな店を作りたいと思って、2005年に「TRACK」、2010年に「MARTHA」を出店しました(新宿にあった旧「MARTHA」は「NICA」に店名を変更)。

杉浦:今でこそ「恵比寿だったらヱビスを置きたい」と言っていただく方が増えてきました。けれど会社名の印象か、私たち「サッポロビール」が「ヱビスビール」を提供していることに驚かれる方もまだ少なくありません。「MARTHA」ではヱビスビールを取り扱っていますが、選ばれた理由は何でしょうか。

福山:単純明快で、ヱビスビールが好きなんです。麦芽の量が多くて味が好き。その上、サッポロビールさんのお膝元で店をやっているんだったらヱビスビールにしない理由はないんじゃないかな。

杉浦:その言葉を聞けて、本当に光栄です。素敵な空間を提供するお店にヱビスビールを置いていただき、私たちも本望です。

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「MARTHA」のメニュー表。1ページ目の最初に、ヱビスビールが配置されている。
 

まだカルチャーが成熟しきっていない だが音楽カルチャーが潜む街、恵比寿

杉浦:次は恵比寿の街についてお聞かせください。レコードバーが多数あったり、アートを楽しめるカフェがあったり、恵比寿は「大人が集まるカルチャーの街」だと感じることが多くなってきたのですが、福山さんはどう思われますか?

福山:どうだろうなあ。今はない、というか生まれにくいんじゃないかな。なぜかというと、現実的な話として、土地代とか家賃が高いから。カルチャーというのは、いろんな物販店や飲食店があって、情熱とか志みたいなものがお店に充満して、そこに惹きつけられた人たちが集った後に、それがだんだん渦を巻いて文化としてできあがっていくわけです。けれど、なけなしの金を元手に店をやろうと思った時に家賃が高いエリアは選びにくい。

杉浦:たしかに人気のエリアになっているからこその悩みですね。地域に根ざした飲食店や企業が連携して、新しいカルチャーが生まれるような盛り上がりを作りたいとも思っています。

福山:続けていれば何かが生まれてくると思うから、長く続くお店がもっと増えてほしいですよね。恵比寿はコロコロお店が変わるでしょう。大きな企業が店をやる時のように、「どうやったらお客さんが来るか」を考えるよりも、自分が何をしたいかの方が大事。情熱や志を持ってやっていれば、お客さんは勝手に来るものですからね。

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杉浦:「TRACK」「MARTHA」以外にも恵比寿には個人店のレコードバーがいくつかあって、そこに面白い人が集まってくるような状況ができつつあると思うのですが、福山さんから見ていかがですか?

福山:2005年に「TRACK」を出した時は、こういう形態で音楽を楽しませるお店が恵比寿にはなかったので大変珍しがられました。その後「ここで働きたい」という若者が僕のところに数人来ましたね。うちで何年か働いた後に、恵比寿で個人店を出しているOBが4人います(恵比寿以外でも4人のOBが独立)。そうすると音楽好きなお客が、僕のところに来て「今満席、ごめんね」となってもOBのお店に行ったり、その日の気分で別の店を選んだりもできる。「いい音を聴きながらお酒を」っていう気分の時は、恵比寿に来ればなんとかなる、という状態にしたいんです。

杉浦:福山さんの元から、志を持ったOBの方がまたお店を出して、そうしてカルチャーは作られていったんですね。18年間、恵比寿でお店をやられていて、レコードバー以外でカルチャー的魅力を感じるお店はありましたか?

福山:気になるお店は2つありました。今は閉店してしまいましたが、「みるく」(1995年にオープンしたナイトクラブ。2007年に閉店)ですかね。「MARTHA」よりも先輩で、何もない状態の恵比寿でポツンと頑張っていたんです。当時はソウルミュージックで踊らせることが普通だったけど、みるくはハードロックをかけて踊らせていた。あと、リキッドルームの存在も大きいですよね。リキッドルームも僕と一緒で、1994年に新宿にオープンして、2004年に恵比寿に移転した。こういった「音楽の香り」を感じる場所は恵比寿にポツポツとありますね。

杉浦:「同志」という感覚がありますか?

福山:それは全てにおいてそうです。音楽にまつわる仕事をしようと思う人はみんな仲間。特に音楽を大切にしている店の人間なら、客席から「いい曲だ。いい音だ。なんていい時間なんだろう。今日は紹介してくれてありがとう」という声が聞こえてきたら、「もう金とかいらないな」という気持ちにみんななると思います。

杉浦:私たちも、お客様の幸せそうにお酒を飲む姿を見ると、「サッポロビールで働いていてよかった」と思います。そのお酒がサッポロビールであれば尚やりがいを感じますし、サッポロビールを愛する皆さんと家族になりたいくらいの気持ちです(笑)。

お店のスタンスを伝え続け、 世界から客が集うレコードバーに

杉浦:次は「街」から「人」についてお伺いしたいのですが、お店にはどんな方々がいらっしゃいますか?

福山:日本だと勝手に掲載されることを許していませんが、海外の新聞やメディアには無許可で「TRACK」「MARTHA」を載せているようです。それの影響か、海外の方は、有名ミュージシャンなども含めて数多く来ます。日本人は、偏りなく老若男女バラバラな客層ですかね。ちょうど僕の理想の割合です。

杉浦:現在のサッポロビールの社長である野瀬も「MARTHA」に通っていたと伺いました。いつもどのように過ごしていましたか?

福山:いつも3、4人で、仕事の話半分、たわいもない話半分するのにうちを使ってくれていたんじゃないかな。本人は覚えてないと思うけど、10年くらい前、僕が冗談で「社長狙ってるんじゃないですか?」なんてことを彼に振ったら、「はい、狙ってます」って言うんですよ。かっこいいなと思って。ビジネスパーソンたるものなるべく上を目指したいですよね。そうしたら本当に社長になった。やっぱりやる男は違うんだね。

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杉浦:そんなエピソードがあったとは驚きです。まさに「お酒の場」だからそこ生まれた会話ですね。レコードバー自体が珍しいものだった時代から、どのようにして現在のように受け入れられるようになっていったのでしょうか。

福山:選曲と音質が肝な店なので、一番の敵は「大声」です。注意すると「俺は客だぞ」という人もいますが、音楽を楽しみに来られる方々のために、戦いのつもりでやってきました。勝手に写真を撮ろうとする人ともね。SNSなんか大嫌いです。そうしているとたくさん嫌われますが分かってくれる人も少しずつ増えてきて、今はいい状態です。

日本には江戸時代の「士農工商」の名残が未だにあって、いわゆる商売人をちょっと下だと思っている人がいるけど、僕は店とお客さんは対等だと思っています。横柄な態度を取られて悔しい想いをしている商店主がたくさんいるけど、ぺこぺこしなくていいよ、時代は変わったんだぞ、と言いたいですね。

杉浦:福山さんは、お店を大事にしてくれるお客様を守るために、お店のルールを伝え続けてきたんですね。

福山:そう。「お客は金払ってくれたらなんでもいいや」では店をやっている醍醐味がないですから。ずっとスマホを見ている人には「何のためにうちに来た?」なんて言ったりもします。あえて摩擦を起こして、そこから仲良くなったりもしますよ。そんな店主がいるから、どうやら日本でトップクラスに悪口をネットに書かれているお店みたいだけど、僕はそれを見ないし気にもしない。それでもお客さんは全然減らないから。悪口なんて全然怖くない、ということも他の商店主にわかってもらいたいですね。

「MARTHA」に置かれているプレーヤーやアンプたち。音楽を楽しんでもらうために、1960年代のヴィンテージオーディオを中心に選び抜かれたものばかりだ。

“おしゃれだけの街”から脱却し、

雑多なカルチャーも含んだ成熟した街になってほしい

杉浦:恵比寿という街がさらに魅力的になるには、どんな文化があればいいとお考えですか?

福山:最初に話したように少し前まで恵比寿はまっさらなイメージで、最近は音楽カルチャーも浸透しつつあるけど、どうしても根底には「デートに使う街」というイメージがあると思うんです。それは別にいいことだけど、それ以外の雑多な文化が入ってきてほしいですよね。特に飲食店を中心に街は変わっていくと僕は思っています。たとえば「香湯ラーメン ちょろり」みたいな本物の職人がやっている中華屋とか、安い居酒屋も増えてほしい。

「おしゃれな街」よりも「かっこいい街」になってほしいですね。個人的には「おしゃれな街、おしゃれな店」と言われたら悪口と捉えています。「一緒にかっこよくなれるかも」と、いい意味で勘違いできる街になった方がいいじゃないですか。ロンドンやニューヨークを歩いていたら、そんな気持ちになるでしょ?

杉浦:「おしゃれ」だけだと文化が消費されてしまうということですよね。街に集う人や街を作る人の「かっこいい」というマインドから新しい文化が作られていくことを期待したいですね。福山さんの今後の展望や、何か新しくチャレンジしたいことがあれば教えてください。

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福山:自分がこれからやっていく仕事に興味はありません。チャレンジもしません。読書や旅など、プライベートに興味は向いていますが、もう60歳になったし、これからは音楽を聴きながら仕事ができる幸せを感じて、淡々とやっていきたいです。

最近は皆、スマホばかり見ていて、人のことを気にしすぎているように思います。そのせいか、恵比寿で新しくオープンする店は、よくある型やパターンにはまっていることが多いように感じます。どこかで見たことある看板だったり、内外装だったりね。

スマホ脳から脱却して、人と比べず、自分で考える力のある個性ある若者が、恵比寿で自分の人生とリンクするお店を作ってほしいですね。チャレンジしてほしいです。「やられた! ここ通っちゃお」って思えるお店が恵比寿に増えていったら幸せですね。

杉浦:素敵な展望をありがとうございます。最後の質問になりますが、福山さんにとってヱビスビールとは何でしょうか?

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福山:「幼馴染み」。小学生の時に三船敏郎さんの「男は黙ってサッポロビール」というCMを見て、小学生ながらに「なんてかっこいいコピーだろう」と思ったわけ。他のビールも飲んだことあるし、新しい商品が出る都度飲むけれど、やっぱり10歳くらいの時にイメージした「サッポロビール」という名前を60歳になっても忘れない。色々変化はするけれど、ずっと昔からいる幼馴染みみたいなものですよね。だからきっと、一生飲み続けるんだろうね。

プロフィール

福山 渉

大手飲食会社勤務の後、1994年新宿三丁目に「旧BAR MARTHA」(現在は「BAR NICA」)をオープン。「BAR TRACK」、「BAR MARTHA」など現在は3軒のレコードバーを経営。公式サイト:https://martha-records.com/

杉浦 若奈

2019年サッポロビール株式会社に新卒入社。首都圏エリアで3年間業務用のワイン営業を経験。2022年9月にビール&RTD事業部メディア統括グループに着任、現在はファンマーケティングを起点にCHEER UP!や公式ファンサイトSAPPORO STAR COMPANY、公式SNS等のオウンドメディアの運営を担当している。

クレジット

Photograph_Mikako Yagi

Text_Yukako Yajima(@yukako210@fujimon_kitchen

Edit_Tenji Muto(amana)

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