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AR機能によって進化したPinterestのデータ戦略

「Pinterest」(ピンタレスト)は、広告主やクリエイターが販売するプロダクトを写真にタグ付けできる機能「ストーリーピン」(ベータ版)の拡張計画を発表しました。バーチャルメイク機能「トライオン」にアイシャドウを追加し、顔認識AR技術の導入からわずか1年で、さらなる機能の拡充を実現したのです。

「VentureBeat」とのインタビューで、Pinterestのシニア・バイス・プレジデントを務めるジェレミー・キング氏は、こうした技術的な拡張が可能にしたデータ戦略について語ってくれました。さらにユーザーがよりスムーズに商品を購入できるプラットフォームを目指してAR機能を進化させ続ける、同社のコンピュータビジョン技術についても触れています。

VetureBeat:アイシャドウ追加によるトライオンの拡充、ショッピング機能を備えたストーリーピンの追加に至った経緯を教えてください。この革新的な技術の開発は1年ほど前にスタートされたということですが、データ分析の観点から留意していることはありますか。

ジェレミー・キング氏:この種のAR技術でもっとも難しいのは、収集するデータからバイアスを可能な限り排除する点です。機械学習とコンピュータビジョン双方の分野で優れた技術者をこのプロジェクトにアサインし、肌や口紅の存在し得るすべての色合いに関するリサーチを行いました。

新型コロナのパンデミック中にトライオンを使ってマスクの試着をしたユーザーが驚くほどたくさんいました。ご想像の通り、コンピュータはマスクを着用しているかどうか、またそれが普通の顔色なのかを判断できないのでデータにバイアスが生じ、アルゴリズムが劇的に変化してしまいました。システムからバイアスを排除するため、私たちのシステムに保存されている何億人もの人の画像を活用したのです。

Pinterestに一番多く寄せられるリクエストは「素敵なものを見つけたから購入したい」というものです。ユーザーのこのリクエストを、私たちは「行動のインスピレーション」と呼んでいます。ここに大きく関わっているのは、無数にある小売店のカタログ画像をアップロードし、正確な価格と在庫状況を常に表示するために使われる、無味乾燥なテクノロジーです。常に最新の画像を表示し、ライフスタイル関連の「ヒーローイメージ」から20個程度の商品が特定できるようにしています。

例えば、リビングルームの写真一枚あたりに平均して20~30個のアイテムが写っています。それを見た何十、何百人の人が、様々な理由でこの写真をボードに追加するでしょう。その人たちの願いを叶えるためVMO(ベンダー・マネジメント・オフィス)が1つ1つのアイテムがどの商品であるかを特定するのです。

Pinterestとは、タグ付けのための巨大なシステムに過ぎないのではと思うことがあります。まるでボードゲームでもしているかのように、たくさんのユーザーがアイテムに次々とタグをつけていく。こうして私たちのコンピュータビジョン技術が向上し、アイテムの識別精度がどんどん向上していくというわけです。

こうして集めたデータからどのようにして知見を得ているのでしょうか。実際に使用しているフレームワークやコンピューター言語があれば教えてください。

私たちは、オープンソースやマシンラーニングの技術を、何年もの歳月をかけて進化させてきました。Pinterestを支えているもっとも重要なテクノロジーは「グラフステージ」というもので、これは様々なテクニックを使って類似画像を特定する巨大なグラフデータベースです。できるだけ多くの人が使えば使うほどボードに多くのアイテムが追加され、システムが向上していきます。Pinterestは、このようなテクノロジーをオープンソース・ソフトウェアとして提供しています。

Pinterestでは、幅広い答えが返って来るオープンな質問を検索するユーザーが多くいます。Googleでも、英語で7~10ワード程度の検索をすることは珍しくはありません。例えばPinterestでよく見るタイプのサーチワードは「インスピレーション」「参考になるリビング」「“シャビーシック”なベッドルーム」といったもので、多種多様な画像を提示する機会が生まれます。こうしたキーワードに沿った画像を表示することで、ユーザーはそこからさらに気に入った画像をすぐに絞り込むことができる。これこそがPinterestの真髄です。

新機能が次々と開発・追加されていますが、例えば最近追加されたアイシャドウ機能は既存のインフラを使いつつ、どのように作り出しているのでしょうか。

Pinterestを支えるベースのシステムには、グラフデータベースだけでなく、私たちがゼロから作った「実験プラットフォーム」も含まれています。これは何百もの実験を並行して行うもので、ユーザーの属性を異なる階層に分けてユーザー体験を試してもらっています。

これを行うことで開発した新機能を迅速にテストし、問題なく作動する状態でローンチすることができるのです。ローンチされた新機能のうち成功するのはだいたい30~40%ですが、これはごく一般的な数字です。上手くいかなかった70%は、その時点で開発を中止します。

実験による開発成功率は3040%ということですが、成功を測る基準は何でしょうか。

私たちは何百種類にもおよぶメトリックスをトラックしています。ユーザーエンゲージメントで成功を測ることもありますが、サイト滞在時間を伸ばすことは重視していません。ユーザーが自分で求めるものを見つけて、それを実際の行動に移すことを見届けるのが私たちの役割です。それは壁の塗り替えでも、子どもとのクリエイティブな遊び方でも、夕食の献立でも、なんでも構いません。ユーザー自らが見つけて行動に移すことがもっとも重要だと考えています。

適切な広告を表示しつつ、ユーザーの興味と合致し、さらにインスピレーションを与えるため、どのようなサイト運営を行っていますか。

コンピュータビジョン技術のおかげで、ユーザーが思いつくままに自分のボードにピンをつけて楽しんでいる時にも、ユーザーの興味に合った広告を表示できるようになっています。

何千という広告を用意しているので、ユーザーの嗜好に合った広告を表示することができるのです。広告の内容がぴったりの時には、ユーザーも即座に購入したと思うようになる傾向があります。

Pinterestを使うと、たくさんの発想が沸き、ポジティブな気分にユーザーがなるよう意図的に操作しているのではないかという意見を少なからずいただきます。そこでピンや広告の非表示・ブロックはユーザー自身が設定できるようにして、広告の表示に対しても細心の注意を払っています。

Pinterestのデータ戦略全体についてご説明いただけますか。また23年前に入社されてからその戦略はどのように変化してきたと思いますか。

以前のPinterestは、画像のクオリティだけを重視していたので、その画像や付随するピンを中心にサイト運営のすべてが集約されていました。でもこれは一般的なカタログ製作に最適な方法ではないと気づいたのです。カラバリ10色のTシャツに、50色の花瓶、何百色ものチョイスがある口紅を網羅するような場合には、なおさらです。

ユーザーが欲するアイテムをより正確に特定するための解を提示しなければなりません。そのためデータベースもさらなる拡充が不可欠となり、今のPinterestでは、大きく2つに分けることができます。ここまではイメージ技術を使う部分についてお話してきましたが、ショッピングカート機能では、より従来的なデータの活用に着目しています。

私たちは、「Etsy」や「eBay」といった評判の高い大手ECサイトに掲載されている何億もの画像をアップロードする作業に長い時間を費やしてきました。これはすべて、テーブルでもソファでもランプでも、ユーザーが欲しい商品があったら、探していたピンポイントのものだけでなく、類似したプロダクトも見つけられるようにするためです。これを目指すことで、Pinterestでのショッピング体験はこの一年半で飛躍的に向上したのです。

しかし、まだまだ私たちの道のりは長いと思っています。Pinterest上にあるピンの数は1000億を超えていますが、その大分部には複数のアイテムも含まれています。これらのアイテムをタグ付けするために、最速でできる限り多くの会社やカタログの商品をアップロードしているところです。これも商品タグ付け機能をもった「ストーリーピン」を公開した理由の一つです。この機能を開発したのは、実際に欲しいアイテムを手軽に特定できるユーザー体験を提供したいという私たちの想いがその根底にあります。

この記事はVentureBeatのマナサ・ゴジネーニ氏が執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで

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