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おいしいワインの証「澱(おり)」と「澱引き」について紹介
こんにちは。岡山ワイナリーでは、おいしいワインをお届けするために、さまざまな工程が行われています。
今回はその中でも、ワインの舌触りを左右する大事な工程「澱(おり)引き」作業について取り上げてみました!
2018年ヴィンテージのグランポレールとともに、澱引きとはどのような工程で、どんな意味があるのかを紹介します。
澱(おり)とはワインの浮遊物や沈殿物のこと
おいしいワインの証明ともいわれる存在が、澱(おり)です。ワインの澱とは浮遊物や沈殿物のことで、タンニンやアントシアニン、タンパク質などが結晶化して生まれます。
・タンニン:ポリフェノールの一種でワインの渋味成分
・アントシアニン:ポリフェノールの一種でワインの色素成分
できたての若いワインは、タンニンやアントシアニン、タンパク質などは別々のまま液体に溶け込んでいます。時間が経ち、ワインが空気となじんでくると徐々に結晶化が進み、澱として沈んでいく仕組みです。
ワインは長期熟成に向いているものと、熟成しすぎないほうがおいしいものの2タイプがあるため、若いワインが好きな方は澱を見る機会が少ないかもしれません。
澱が発生しやすいワインの特徴
澱はワインが空気になじんでいく期間が長ければ長いほど、結晶化が進みます。また、色素成分であるアントシアニンも澱の成分に含まれていることから、以下の特徴をもつワインほど澱が発生しやすくなります。
赤ワイン
赤ワインはブドウの皮や種子も含めて発酵させるため、タンニンやアントシアニンを多く含んでいます。熟成期間が長ければ長いほど結晶化が進むことから、長期熟成ワインを飲む機会が多い方は、澱を見ることが多くなるでしょう。
熟成期間が長いワイン
もともと長期熟成ワインは、ポリフェノールの抗酸化作用によって長期の熟成が可能となっているものです。たとえば黒ブドウを原料としたワインはポリフェノールがとくに多く含まれていることから、長期熟成に向いています。
自然派のワイン
自然派のワインは、ブドウの栽培方法からワインの醸造方法まで、さまざまなこだわりが反映された商品です。化学薬品や化学肥料の不使用、有機栽培のブドウ中には、ブドウ本来の味わいを残すために、あえて澱のもととなる混合物を取り除かずに残しているワインもあります。
白ワインにも澱がある
実は白ワインにも、澱と呼べるものが発生することがあります。長期熟成させた白ワインを保管場所から取り出してみると、どこか濁りがあるように見えるでしょう。この濁りの原因が、白ワインの澱です。ボトルをしばらく置いておくと、底のほうに沈殿していきます。
白ワインの澱の特徴は、「酒石」という白い宝石のような結晶が見えることです。酒石は赤ワインにも含まれ、澱と区別される場合もありますが、他の成分と総じて澱に分類されることもあります。
澱は飲んでも問題はない
澱は前述のとおり、もともとワインに含まれている成分が変化したものです。そのため飲んでも問題はありませんが、舌触りが悪くなります。
一般的には、製造過程で澱を取り除くことがほとんどです。ただし自然派のワインのように、あえて澱を残してワイン本来の風味を余すことなく楽しめるように瓶詰している場合もあります。
製造工程において澱を取り除く作業のひとつが、瓶詰のときにフィルターを使用する方法です。目の細かいフィルターを使用するほど、細かな澱もしっかりと取り除ける一方で、ワインの風味まで失ってしまうデメリットがあります。
そのため、ワインの風味を残すためにフィルターを使用せず、他の手法で澱を取り除いたり、あえて残したりします。
ワインの澱を取り除く「澱引き」作業
「澱引き(仏:スティラージュ)」は発酵後にタンクや樽の底に溜まった酵母などの澱と上澄みのワインを分ける作業です。
澱引きは発酵が終了するとあまり間を置かずに行われることが多いですが、「グランポレール甲州辛口」では発酵が終わってからもすぐに澱引きをせず澱とワインを同じタンクにしばらく入れておきます。
こうすることで、熟成中に澱中の酵母由来のアミノ酸などの成分が溶け出し、複雑さや旨味・コクがワインに与えられます。また、タンクからの移動がないためワインをよりフレッシュに保つ効果もあります。
ちなみに、このような製法は「シュールリー(澱の上)」と呼ばれています。グランポレール甲州辛口の裏ラベルにも記載されているので、見てみてくださいね。
それでは実際の作業について見ていきましょう。こちらは、2020年1月末に行われた甲州の澱引き作業の様子です。
タンクには図のように2つのバルブがついており、上のバルブからワインだけを別のタンクへ移します。
液面がワインと澱の境付近まできたら、タンク側面にある大きなフタを空け専用の器具を使って澱だけが残るようにギリギリまでワインを吸い取ります。
この後は、分析などでワインの状態を確認してから仕上げ工程を行い瓶詰めされます。
澱だけだと独特な香りがしますが、上澄みのワインには柑橘系やバナナのような香りにほんのりイースト香がプラスされています。
酸味がはっきりしていてスッキリとした中にもコクのある味わいになっていました。
グランポレール 甲州 2018年ヴィンテージ
自宅でできる澱の取り除き方
健康面に影響がないといっても、せっかく購入したワインの舌触りが良くなくては、おいしく飲めませんよね。ワインを楽しむためには、できるかぎり澱のない状態で飲みたいものです。
澱の少ない若いワインを選ぶ方法もありますが、特別な日にはヴィンテージワインを開けたいと思う方も多いのではないでしょうか。そんなときのために、自宅でも手軽にできる澱の取り除き方を知っておくと便利です。
ここでは誰でも簡単に実践できる澱の取り除き方を、2種類紹介します。
ボトルの底に澱を沈殿させる
ひとつ目の澱の取り除き方は、ワインボトルの底に澱を沈殿させる方法です。以下の3ステップで、澱がボトル底に溜まるのを待ちましょう。
1.1週間ほどワインボトルを涼しいところに立てておく
ボトルを動かしたときなど、わずかな振動でワインの澱は液中に舞ってしまいます。一度舞った澱が沈殿するまでは、数日~1週間前後かかるため、まずは飲む1週間前にワインボトルを立てて保管しましょう。
ワインの品質が劣化しないよう、涼しい場所を選ぶのがポイントです。澱の量が多い場合は、沈み切るまで1週間以上かかる場合もあります。
2.飲む直前ラベルを上にして横に寝かせる
保管しておいたワインボトルは、飲む直前にゆっくりと横に寝かせます。ワインを注ぐときはラベルを上にするため、寝かせるときもラベルの位置に注意してください。
ワインボトルを横に寝かせるときのポイントは、ゆっくりと傾けていくことです。急いで横に寝かせると、せっかく沈めた澱が再び液中に舞ってしまいます。
3.澱が入らないように静かに注ぎ入れる
ワインボトルを必要以上に揺らさないよう注意しながら、ゆっくりとグラスに注ぎ入れましょう。横に寝かせる作業がきちんとできていれば、ワインを注ぐときに澱がボトルの肩部分でせき止められるため、グラスの中に入りません。
また、おいしいワインは最後の1滴まで飲み干してしまいたいものですが、ワインは最後まで注ぎ切らないことをおすすめします。せっかく取り除いた澱を飲み込んでしまわないよう、飲むのは適度な量までに留めておきましょう。
「デキャンタージュ」をする
ワインをおかわりする度に、ボトルの取り扱いに注意するのは面倒ですね。また、ワインの香りをしっかりと開くためには、適度に空気へ触れさせる必要があります。
そんなときにおすすめの方法が、デキャンタージュです。「デキャンタ」というワインを注ぐ専用の容器に移し替える作業のことで、ワインを1本飲み切る場合に向いています。
デキャンタージュは、以下の3ステップで手軽に実践できます。
1.数日ほどワインボトルを涼しいところに立てておく
まずはボトルの底に沈殿させる方法と同じく、ワインボトルを立てて置いておきます。液中に舞っている澱をあらかじめボトルの底に沈ませておくことで、デキャンタに誤って注がれてしまうのを防ぐためです。
保管日数は、澱の量を見て調整しましょう。数日から1週間程度が目安です。
2.ワインボトルを動かさないように栓を抜く
澱が沈殿したら、再び舞うことがないよう注意しつつ、栓を抜きます。ワインボトルは立てたままで、できるかぎり動かさないようにしてください。
3.ボトルを静かに傾けてデキャンタに移し替える
デキャンタへ、ゆっくりと注ぎ入れます。ワインボトルを静かに傾けていくと、沈んだ澱のほとんどはボトルの肩部分で留まってくれますが、最後まで注ぎ切ると澱まで入ってしまいます。ワインを注ぐとき、澱がボトルに留まる程度の量は残しておくのがポイントです。
一度デキャンタージュをすると、空気に触れたワインは酸化が進んでいきます。とくに長期熟成されているワインは、デキャンタージュをするとかえって風味が損なわれることがあるため、ワイン選びは慎重に行ってください。
残った澱を料理に活用!ドレッシングの作り方
残った澱は舌触りが気になりますが、一方でポリフェノールやタンパク質など積極的にとりたい成分からできている結晶でもあります。そんな澱を捨てるのは、もったいないですね。
実は、フランスでは澱を料理に活用することも珍しくありません。手軽に試せるレシピとして、澱を使ったドレッシングの作り方を紹介します。
澱が残ったままのワインボトルを、そのまま使えます。
1.ワインボトルの中にお酢大さじ3杯を入れてよく振る
2.1を鍋に入れて、コショウを少々加える
3.ひと煮立ちしたら、火を止めて冷ます
4.オリーブオイルを大さじ3杯、少しずつ加える
5.とろみがつくまで混ぜる
マスタードやケチャップ、醤油など、お好みでほかの調味料を混ぜ合わせても良いでしょう。澱の独特の舌触りが気になる方は、鍋に入れて加熱する前に、濾しておくと気にならなくなります。
まとめ
ワインの澱引きは、ワインの味わいを左右する重要な作業のひとつです。いつ澱引きを行うのか、そのタイミングによってもワインの複雑さや旨味、コクの出方が変わります。
今回紹介したグランポレールの澱引き作業も、ワインの旨味をしっかりと引き出せる絶妙なタイミングで行われています。ぜひこだわりの日本ワイン、グランポレールをお楽しみください。
岡山ワイナリー 生産部 大黒 達希
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