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“馬肉料理=馬刺し”の思い込みを覆すお店:馬喰ろう 新橋店

馬肉の唐揚げ、食べたことありますか?

馬喰ろう 新橋店

仕事帰りのサラリーマンが憩う飲食店がいくつも集まり、東京有数の飲み屋街としても知られる新橋。その中心からは少し離れた場所にありながら、ひときわ異彩を放つ個性的なお店があります。それが馬喰ろう 新橋店。その名の通り、馬肉料理を主体にしたお店です。

■“馬肉料理=馬刺し”の思い込みを覆すお店

 間口の半分を馬刺しを販売するカウンターが占める入口の上には、「馬肉問屋」の文字。確かに店頭で馬刺しの販売もしているのですが、ここ、馬喰ろう 新橋店は、問屋ではなく、居酒屋さんです。

 たくさんの電球で照らされた店内にも、やはり「越後屋肉店本店」「ミートショップなかつ」など、時代がかった肉屋さんを思わせる看板がかかってはいますが、その作りは居酒屋そのもの。のれんをくぐると、奥行きのある店内にテーブルが並び、入口から受ける印象よりも、店内は広め。右奧には小上がりも設えられています。

 メニューを見ると、すき焼きやメンチかつ、唐揚げ、冷やしトマトなど、居酒屋らしいお馴染みのものがずらり。しかし、ほかの店と違うのは、メニューに使われているお肉がすべて“馬肉”であるという点。馬肉というと、馬刺しくらいしか食べたことのない人にしてみると、「え? こんな料理も馬肉で?」という驚きの連続です。

 それもそのはず、この馬喰ろう 新橋店は馬肉を専門で卸す株式会社NTCデリバが馬肉の魅力を伝えるために展開しているお店のひとつ。ここで提供されるメニューには、「牛、豚、鶏のように、日常的な料理で馬肉を味わい、その美味しさを知ってもらいたい」という想いが込められています。

徒歩でも内幸町駅から約2分、新橋駅、虎ノ門駅から約5~6分という立地にある新橋駅馬喰ろう 新橋店。看板には「馬肉問屋」とあるが、のれんにはちゃんと「大衆馬肉酒場」と書かれている。店頭では馬刺しの販売も

馬喰ろう 新橋店の人気メニューのひとつである馬肉の唐揚げ。食べ慣れている味との比較で馬肉の美味しさが一発で理解できるわかりやすさが、このお店の特色

■馬肉の魅力を知ってもらうアンテナショップとして出店

 近年は大手の居酒屋チェーンでも馬肉が食べられるようになり、かなり定着してきてはいますが、それでもやはり馬刺しが中心。でも、当然のことながら、馬肉にもさまざまな部位があり、それぞれに味わいも、適した調理法も違います。

「近年でこそ、うちみたいないろいろな食べ方がだいぶ広まってきましたけど、15年前は状況がまったく違いました」

 前述のNTCデリバを母体に馬喰ろう各店を展開する株式会社馬喰ろうの代表取締役、沢井圭造さんはそう語ります。

「たとえば馬のカルビやハラミなんかは焼き肉にしても牛に負けない美味しさだし、すき焼きも絶品です。食肉の部位は上半身に行くほど味が濃いので、たとえば肩ロースのうま味はすき焼きのような味の濃い料理にマッチします。それに対して、下半身はさっぱりしているので、しゃぶしゃぶや刺身といった食べ方が美味しいですね」(沢井さん)

 長らく馬肉卸の営業をやっている沢井さんは、馬肉のそうした多彩な味わいがなかなか広まっていかないことから、飲食店の展開を思いつきました。馬肉はお酒とのマッチングが絶妙です。「そのよさを活かすなら、スーパーマーケットよりも飲食店」と考え、2007年に神田に馬喰ろう1号店を出店。開店から9年目を迎えたこの新橋店は、3号店にあたります。

通りから見るよりも奥行きがあり、けっこうゆったりとした店内。新型コロナウイルスへの感染対策として、以前よりも座席数を絞っている。平日はサラリーマンが中心だが、週末は家族連れも多く訪れる

馬肉とこの店の魅力を熱く、そしてユーモラスに語ってくださった株式会社馬喰ろう代表取締役の沢井圭造さん

馬刺しで有名なのは、熊本と長野。熊本では主にサシの入った霜降り、長野では赤身の肉が主に使われる。馬喰ろう 新橋店ならまさに“桜肉”の名にふさわしい赤味の肉を中心に、さまざまな部位の馬刺しを堪能することができる 

■なじみのメニューを馬肉で再現し、違いを味わう

  前述のように、馴染みのあるメニューを馬肉を使って提供するのが、馬喰ろうのスタイル。

「馬ならではの独創的な料理もそれはそれでありなんですが、比較しづらいですよね。だからうちでは牛豚鶏で馴染みのあるメニューを馬肉で再現しています。そのいい例が、唐揚げです。ほかにも青椒肉絲(チンジャオロース)ならぬ、“青椒(チンジャオ)ホース”なんていう料理もあります。こうした料理なら、牛や豚、鶏との違い、つまり馬肉の美味しさがすぐに伝わりますからね」(沢井さん)

 沢井さんはこういったダジャレを交えた名前のメニューを3割ほど織り交ぜていると語ります。それも「ハードルが高そう」という馬肉のイメージを崩すため。だから値段も極力、控えめにしています。

「以前は馬肉料理の専門店は高級店ばかり。馬肉は高いというイメージがどうしても払拭できなくて、それがイヤだったんです」(沢井さん)

 聞けば平均の客単価は約4000円とのこと。一般的な居酒屋感覚で、さまざまな馬肉料理が食べられるところが、馬喰ろうの魅力。そして「会計時に高いと言われたことは一度もない」というのが、沢井さんの自慢です。

 もちろん馬喰ろうでも馬刺しの美味しさを否定しているわけではありません。卸と直結した馬喰ろうなら、馬刺しにしたときの部位ごとの味の違いが楽しめます。

「やはり一番の人気メニューは馬刺しです。うちなら馬刺しだけでも常に8~10の部位を提供しています。なかには固くて向かなかったり、焼いた方が美味しい部位もありますが、馬はほとんどの部位で生食ができるんです」(沢井さん)

 たとえばももだけでも、外もも、内もも、ランプ、シンタマといろんな部位があり、それぞれに味わいが違います。馬喰ろうでは盛り合わせを頼むことでその食べ比べができるのです。

「数ある食肉のうち、馬肉以外を生で提供するのはあくまでもグレーゾーン。厚生労働省が生食を認めているのは馬肉だけなんです。安心して生食ができるのもやはり馬肉ならではの魅力と言えますね」(沢井さん)

馬肉のレア唐揚げ。火を通すことで味わいが増す部位は、それに適した調理法で。馬肉を知り尽くした卸売り業者を母体にしている強みだ。馬の脂は牛や豚よりも融点が低く、食べ過ぎても胃にもたれない。

店内には馬肉の部位の名称と、その栄養的効能が書かれたパネルが掲示されている。「なんとフランスでは、病院で医者が患者に馬肉料理を薦める程です!!」といった一文も

蹄鉄を組み合わせて作られた、小上がりの電灯。昭和の懐かしさを感じさせる看板など、店内の内装に込められた遊び心を見つけるのも馬喰ろう 新橋店の楽しみ方と言える

■馬肉人気は右肩上がりで上昇中

 親しみやすいメニューと価格で馬肉の魅力を知ってもらうという沢井さんの狙いは的中し、今では馬喰ろうだけで15店舗以上、株式会社馬喰ろうが展開する系列店は20を超えています。また、飲食業界全体を見ても馬肉の人気は右肩上がりが続いていて、首都圏には約130もの馬肉専門の飲食店があり、馬刺し以外の馬肉料理を提供するお店も全国的にどんどん増えているそうです。

 ちなみに、株式会社馬喰ろうが出店する店舗はどこも馬肉料理の店ですが、それぞれに違ったコンセプトやストーリーを持っているのが大きな特徴。この馬喰ろう 新橋店は、長野県伊那市で今も続く老舗、越後屋精肉店をモチーフにしています。長野は南部の伊那谷周辺地域を中心に、日本でも2番目に馬肉の消費量が多い土地。

「越後屋精肉店の二代目社長には懇意にしていただき、馬肉の歴史から何からいろいろ勉強させていただきました。新橋店を出すに当たって名前を使わせてくださいとお願いしたんです」(沢井さん)

 また、同じ新橋には厳選した馬肉を用いたステーキを中心に創作馬肉料理を提供する、馬酒場ボブリーという系列店があります。

「世界一の規模を誇る馬肉生産業者がカナダにあるんです。そこの社長が新橋の居酒屋にハマり、自分で出店することになった、というストーリーを考えて作ったお店で、店名もそのエピソードにちなんだもの。カナダのかただったらこんな料理を出すだろうとメニューを考えています」(沢井さん)

 沢井さんの胸中にはほかにも新店のアイデアがいくつも眠っていて、適した物件との出会いや時流とのマッチングを待っている状態とのこと。いずれのアイデアにしても、「馬肉の魅力を知ってもらう」という当初からのポリシーにブレはありません。

「牛肉と比べて馬肉のカロリーは1/3、脂質は1/5~1/7。至れり尽くせりのヘルシーなお肉なんです。もっともっと馬肉の魅力を広く知ってもらいたいですね」(沢井さん)

 今回紹介している馬喰ろう 新橋店をはじめ、沢井さんが仕掛けるお店で、ぜひ馬肉の魅力を体験してみてください。きっとやみつきになりますよ?

 

馬喰ろう 新橋店の小上がりにかけられた、伊那市の越後屋精肉店開業当時の写真。今も続く馬肉専門店の二代目社長から受けた薫陶を店のコンセプトに活かしている

(文=稲垣宗彦)

 

●馬喰ろう 新橋店

住所:〒105-0003 東京都港区西新橋1-17-10 正明冨士ビル1階

電話番号:03-6268-8348

Webサイト:https://bakurou.com/

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