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牛乳からビールを作る?アメリカ人教授の驚くべき試み
コーネル大学の教授は、乳製品の副産物からビールに似た飲み物を作りたいと考えています。
ビールと乳製品。両者は対極にある飲み物のように思えるかもしれませんが、実はそうでもありません。例えばミルク・スタウトはラクトース(乳糖)を加えることで、ほのかな甘さとコクを追加したビールスタイルです。またミルクシェイクIPAは、フルーティかつジューシーな味わいで人気のヘイジーIPAの一種ですが、ここでもラクトースを加えるのがひとつのトレンドになっています。さらには、乳酸を発酵の段階で加えることでミルキーなアクセントを出すサワービールもあります。しかし、これらは全てビールにミルクの風味を加えるというアプローチです。ところが、コーネル大学で現在行われている研究は、全く逆の考え方に基づいています。つまりミルクを使ってビールと同じテイストのドリンクを作ろうとしているのです。
コーネル大学食品科学学部のサム・アルケイン助教授は、かつて「Miller Brewing」 の製品開発マネージャーとして、乳製品に関する“ある課題”に着手した実績を持つ人物。その課題とは、ニューヨーク市で生産されるギリシャヨーグルト製品から大量に排出される酸ホエーという残余物を有効活用するというものです。「クラフトビールや蒸留酒ではさかんに行れている取り組みですが、乳製品の業界では全く着手されていない領域でした」とアルケイン助教授。「酸ホエーを使って美味しい飲み物ができれば、起業家や醸造業にとって研究開発や技術革新の機会が生まれ、新しいビジネスチャンスが広がります」と続けます。
しかし皮肉にも、酸ホエーの発酵を妨げているのが、ビールの醸造ですでに使用されている前述のラクトースなのです。そもそもラクトースがビールに添加されている理由は、不発酵の糖であるため、独特の風味を加えることができるという点にあるのです。そこでアルケイン助教授は、このラクトース自体を発酵させ、アルコールに変換する方法を模索しています。
アルケイン助教授は、現在の醸造法とは異なる時間と温度を組み合わせて、ラクトースを発酵可能な糖に分解する手法にトライしてきました。その結果生まれたのがアルコール度2.7パーセントの新種ドリンクで、「Cornell Chronicle」誌によると「ドイツのゴーゼ・スタイルに似た酸味と塩味」を特徴としています。このゴーゼ・スタイルとは、ここ50年以上に渡って米国でも人気を博しているビールの種類です。
ゴーゼ・スタイルがそのユニークな味わいで高い人気を博していることからも、アルケイン助教授は、自身が開発したハイブリッドなミルクビールの可能性を信じています。「現在、醸造業で使用しているアルコール原料は、コーン、ライ麦、大麦などの農産物です。そこに消費者が新しく変わった味を求めるようになり、乳製品が当たり前のように添加成分として使われるようになったのです」。アルケイン助教授は、さらなる研究が必要だが数年のうちに製品化し、市場に出したいと抱負を語ります。
興味深いのは、世界のトレンドを見ると、こういった研究を行っているのはコーネル大学だけではないという事実です。シンガポールでも、国立大学の研究者チームが豆腐製造の残余物であるホエーを酒に似たアルコール飲料に変える方法に取り組んでおり、すでに数種の“ホエーウォッカ”が市場に出回っています。
この記事は、Food & Wine誌のMike Pomranzによって書かれたもので、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じて法的な許可のもとに掲載されています。使用許可に関する質問については、legal@newscred.comまでお問い合わせください。