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SORACHI 1984を支えるビール職人たちの物語【後編】 〜唯一無二の香りや味わいを生む、こだわりの製造工程〜
唯一無二の香りを放つ伝説のホップ、ソラチエース。そのソラチエースだけでつくられたSORACHI 1984は、2019年の誕生から多くのビールファンを魅了し続けています。この特別なビールは、一体どんな人が、どんな情熱を込めてつくり上げているのか。
今回は、SORACHI 1984を製造しているサッポロビール静岡工場を訪問。後半では、醸造現場の管理を担当している近藤陽菜さん、パッケージング現場の管理を担当している石井滉久さんが、SORACHI 1984の製造工程における知られざる物語を語ります。
若きビール職人たちが語る、
SORACHI 1984の舞台裏
――まずは近藤さんに伺いします。現在所属している部署と普段の仕事内容を教えてください。
近藤陽菜(以下、近藤):2022年に新卒入社し、静岡工場の醸造部に所属しています。醸造の工程は、大きく分けて仕込・発酵・貯酒・ろ過の4つがあり、私はその前半にあたる仕込と発酵を担当しています。日々の業務としては、工程管理に加え、静岡工場では新商品を開発する機会が多いため、その際の仕込設計や発酵条件の検討をして目標とした香味品質となるように設計を行っています。
また、香味パネリストという業務も担当しています。これは、各工場に1名ずつ配置され、香味の改善を担う役割を担っています。具体的には、月に一度、各工場で作った製品を横並びで官能検査し、味の評価や改善点などを議論します。その結果をチームにフィードバックすることで、香味の維持・向上に取り組んでいます。
――店頭に並ぶ製品はどれも安定した品質を保っていますが、その裏側ではそのような香味の評価や改善が行われているのですね。
近藤:例えば、同じ品種のホップであっても香りや苦味にはある程度のバラつきがあるため、都度確認していくことが大切です。仕込と発酵は製品の香味を左右する工程なので、味づくりに興味を持って入社した私にとって、これらの工程を担当できることはやりがいですね。
――味づくりはかなり難易度の高い業務ではないでしょうか?
入社当初は苦労しましたが、日々の業務を通して訓練を重ねることで、徐々にその感覚を磨いています。また、半年に一度、味と香りの識別能力を評価する試験があるのでスキルアップの機会となっています。

――次に、石井さんに伺いします。現在所属している部署と普段の仕事内容を教えてください。
石井滉久(以下、石井):2023年に新卒入社し、静岡工場のパッケージング部に所属しています。2025年3月までは樽製品を担当しておりましたが、現在は缶製品を担当しています。普段の仕事内容ですが、パッケージング部では、缶や樽といった容器にビールを充填し、スリーブや段ボールなどへの梱包を行い、お客様へ製品をお届けする業務を担っています。
――ふたりとも新入社員から静岡工場で勤務されているのですね。
石井:そうなんです。静岡工場は新入社員の配属が多くて、他の工場と比べると若手が多いですね。
――ビールづくりに関わりたいと思ったきっかけや理由をそれぞれ教えてください。
近藤:大学で食に関わる研究をしていたこともあり、元々食品業界に興味がありました。中でもおいしさなどの付加価値がポイントになってくる嗜好品の分野に魅力を感じていました。また、前からサッポロ生ビール黒ラベルの味やコンセプトが好きで、サッポロビールへの入社を希望しました。
石井:近藤さんと似ていて、私も嗜好品に興味を持っていました。生活に不可欠な仕事も重要だとは思う一方で、私はどちらかというと遊び心のある仕事に携わりたいという思いがありました。それに加えて理系ということもあり、ゼロからイチを生み出すようなものづくりの仕事に魅力を感じていました。元々ビールが好きだった上、大学時代を北海道で過ごしていたのでサッポロビールは身近な存在でした。そうしたご縁もあり、入社に至りました。
唯一無二の香りを生む秘密。
SORACHI 1984の醸造工程を徹底解説
――近藤さんから、ビールづくりには大きく分けて仕込・発酵・貯酒・ろ過の4つの工程があると教えていただきました。各工程をもう少し詳しく説明していただけますか?その中で、SORACHI 1984ならではのポイントがあれば教えてください。
近藤:まず「仕込」の工程では、麦芽と湯を混ぜ合わせて、おかゆ状の“マイシェ” と呼ばれる液体をつくります。その後、マイシェはろ過されて煮沸によって殺菌などを行います。そしてここでSORACHI 1984のホップ、ソラチエースの1回目の投入が行われます。
その後、麦汁は静置され、原料由来の凝固物が取り除かれた後、冷やして「発酵」に進みます。一般的なビールは煮沸または静置の工程でホップを投入しますが、SORACHI 1984は、独自のドライホッピング製法を採用しており、発酵段階でさらにホップを加えます。
――2回に分けてソラチエースを入れる理由は何なのでしょうか?
近藤:ホップを投入するタイミングを変えることで、得られる効果が異なります。最初の投入では、ホップ由来の苦味を付けることが目的です。2回目の投入は、香りづけのためです。発酵段階で入れることで、SORACHI 1984特有のヒノキやレモングラスのような爽やかな香りを引き出します。
――入れるタイミングでそこまで効果が変わるのですね。その後の工程についても教えてください。
「発酵」の後は「貯酒」を行います。ここでは、約1カ月かけて熟成を行います。主な目的は、ビールをクリアな色味に仕上げる清澄化と香味をより成熟させることです。また、ビールにとって好ましくない香りを飛ばす工程でもあります。
その後、「ろ過」に移ります。この段階では、まだビールの中に酵母をはじめとする原料由来の小さな固形物が残っているため、「ろ過」によってこれらを除去し、鮮やかな黄金色のビールへと仕上げていきます。

――SORACHI 1984を手がける中で、心がけていることはありますか?
近藤:SORACHI 1984に限らずですが、常に同じ品質のビールを作るよう徹底しています。麦芽やホップといった原料は、産地や収穫年の気候などによってスペックや特性が変わることが多いので、使用する原料の特性を見極め、配合を細かく調整するなどして変わらない味わいをお届けできるよう努めています。
――原料や酵母の状態が常に変わる中で、製品の品質を一定に保つために具体的にどんな点に気を付けてコントロールを行っていますか?
近藤:事前にさまざまな方法で分析値を出して、原料や酵母の状態をしっかり把握した上で調整をかけています。例えば、ソラチエースの場合はホップ由来の苦味が製造ロットや年度によって変わることがあるので、きちんとチェックするようにしています。
――他にも、SORACHI 1984ならではの特徴的な製造工程があれば教えてください。
近藤:日本の一般的なビール、例えばサッポロ生ビール黒ラベルなどは下面発酵酵母を使用することが多いのですが、SORACHI 1984では上面発酵酵母を採用していることですね。
上面発酵酵母は、発酵後半でもタンクの底に酵母が沈まずに浮かんだままになるという性質を持っていて、発酵温度は高めの温度で行うことが特徴です。そうすることで、独特の豊かな香りが生まれるのです。ちなみに、ペールエール、スタウト、アルト、ヴァイツェンといったビールが上面発酵酵母を使っています。
――上面発酵酵母ならではの大変さはありますか?
近藤:上面発酵酵母は発酵温度が高いため発酵が早く進みすぎることがあり、その調整は必要ですね。とはいえ、下面発酵酵母もさまざまな調整が必要です。上面発酵、下面発酵のどちらにも共通して言えることですが、酵母は生き物なので、同じ条件で発酵させてもその反応は微妙に異なります。そのため、状態を毎日チェックして適切な調整を加えています。
――日々の業務で、どのような時に喜びを感じるか教えてください。
近藤:やはり、思い描いた通りの香味を実現できた時が最も嬉しい瞬間です。自分の工場が高い香味評価を受けたときも、自分の手で品質を向上させることができたという実感がわくので達成感があります。


SORACHI 1984を最高の状態で届ける。
パッケージング部のこだわり
――石井さんに伺いします。缶をパッケージングしていく工程を教えてください。その中でSORACHI 1984ならではのポイントがあれば教えてください。
石井:基本的な流れとしては、まず空の缶にビールを充填します。缶は最初、胴体と蓋が分かれていて、胴体の中にビールを入れた後に蓋を取り付け、お客様がよく目にする製品の形になります。充填工程で重要なのは、缶の中に酸素が入らないようにすることです。酸素はビールの品質劣化を引き起こす可能性があるため、製造工程で工夫を凝らしています。
その後、SORACHI 1984の場合はスリーブを使って4缶を1つにまとめ、さらに12本ケースの段ボールに詰めていきます。
――前編でも、SORACHI 1984の包装は特殊な形態だと伺いました。
石井:そうなんです。なので、SORACHI 1984のパッケージングは、他のどの製品よりも細心の注意を払って作業をしています。例えば、万が一トラブルが発生した際にさまざまな視点から意見を出し合ってすぐに解決できるように、なるべく人員が多い時間帯を選んで製造しています。
また、通常の 6缶パックとは異なり4缶パックは完全な自動化が難しく、人の手による作業が発生する部分もあります。設備の状況も日々変化するため、人の感覚と機械の状態を照らし合わせながら製造していく部分がSORACHI 1984の難しさだと感じています。
――他にもパッケージングならではの気をつけているポイントはありますか?
石井:資材の状態が季節によって変化する点ですね。例えば、梅雨の時期や夏場には、湿気で段ボールなどの紙製の資材が反ってしまうことがあります。そのため、一定の品質を保つために、夏場と冬場では保管方法を調整する必要があるのです。
――パッケージング工程の中で、心がけていることはありますか?
石井:お客様が実際に製品を手に取った時のことを考えて日々の業務に取り組んでいます。パッケージングしたものがそのままお客様の元へ届けられることになるため、強い責任感がありますね。醸造部がしっかり作ってくれたビールの中身を、例えば缶からの漏れや傷といった不具合によってお客様が手に取るのをためらってしまうような事態は絶対に避けたいと考えています。
――日々の業務の中で、どのような時に喜びを感じますか?
石井:月並みかもしれないですが、何もトラブルがなく期日通りに納品できることがパッケージング部の理想の姿ですね。また、製造工程とは離れますが、お客様が製品を手に取って購入してくださるシーンを見ると、やはり何よりも嬉しいです。

静岡工場がつく上げた特別な香りと味わいを、
たくさんの人へ届けたい
――SORACHI 1984について、他のビールと異なる点やこのビールならではの魅力を教えてください。
近藤:サッポロビールの数ある製品の中でも、SORACHI 1984は製造工程が最も特殊だと感じています。製品によって使用するホップや麦芽の種類は異なりますが、SORACHI 1984はそれらに加え、投入のタイミングや量も独自のものとなっています。そうした特殊な工程を経るからこそ、唯一無二の製品が生まれるのだと思っています。
石井:前編でも話に出ましたが、やはり包装形態です。なかなか知られていない部分ですが、SORACHI 1984包装形態はたくさんの試行錯誤を経ているので、1本や2本を買っていただくのも嬉しいですが、4缶パックでも手に取っていただきたいというのがパッケージング部の願いですね。
――SORACHI 1984は、ふたりにとってどのようなビールですか?個人的な想いを教えてください。
近藤:SORACHI 1984は、自分自身を成長させてくれた特別な存在です。実は、この静岡工場は元々SORACHI 1984の製造を想定した設備ではなかったため、製造開始当初は不具合が度々発生しました。その分さまざまなこと経験して苦労もありましたが、試行錯誤を繰り返す中で深く考える力が養われました。何よりそのプロセスがあったからこそ、この香味をつくり上げられたという達成感があります。
石井:北海道に住んでいたこともありSORACHI 1984は身近な存在でしたが、まだ広く知られているとは言えないかもしれません。しかし、そのブランドストーリーや製法にはさまざまな想いが込められているので、サッポロ生ビール黒ラベルやヱビスビールといったサッポロビールを代表するブランドに続くような存在になってほしいという期待感があります。
――最後に、SORACHI 1984に携わる一員として、ファンの方々に伝えたいメッセージをお願いします。
近藤:SORACHI 1984の最も特徴的な点は、何と言ってもそのホップの使用量です。他の製品と比較してホップをとても贅沢に使用しているので、価格にもそれが表れているかと思いますが、その分、味を徹底的に追求した自信を持っておすすめできるビールとなっています。
静岡工場の醸造部はもちろん、パッケージング部、エンジニアリング部、品質保証部など、工場に関わる全ての部門が一丸となってつくり上げています。私たちの努力の結晶を、ぜひ一度お試しいただければ幸いです。
石井:近藤さんが話してくれた通り、静岡工場全体で心を込めてつくり上げているという想いが強く感じられるビールです。その特徴は何と言っても、豊かなホップの香りと味わい。ぜひ、この繊細な香りと深い味わいを楽しんでいただきたいです。

★前編を読む
★SORACHI 1984ブランドサイトを見る

近藤陽菜
2022年に入社し、静岡工場 醸造部に配属。醸造現場のスタッフとして現場管理などを担当している。

石井滉久
2023年に入社し、静岡工場 パッケージング部に配属。缶製品のラインのスタッフとして現場管理などを担当している。
