CATEGORY : 知る
SORACHI 1984を支えるビール職人たちの物語【前編】 〜知られざる現場の情熱と、決して妥協しないものづくり〜
唯一無二の香りを放つ伝説のホップ、ソラチエース。そのソラチエースだけでつくられたSORACHI 1984は、2019年の誕生から多くのビールファンを魅了し続けています。この特別なビールは、一体どんな人が、どんな情熱を込めてつくり上げているのか。
今回は、SORACHI 1984の製造現場があるサッポロビール静岡工場を訪問。前半では、醸造現場担当の吉田拳士朗さん、パッケージング現場担当の高橋栄仁さんに、SORACHI 1984への想いを語っていただきました。他の製品とは一線を画す難易度の高い製造工程、そして何よりもビールを愛する気持ち。彼らの言葉を通して、SORACHI 1984に宿る熱い物語を紐解きます。
SORACHI 1984の製造現場の最前線。
醸造とパッケージングの現場から語る仕事への想い
――まずは、それぞれ現在所属している部署と普段担当されている仕事内容を教えてください。
吉田拳士朗(以下、吉田):2019年に入社してから一貫して醸造の仕込を担当しています。仕込の工程管理が主な業務で、具体的には原料の準備から発酵までを担当しています。他には、設備の保全業務なども行っています。
高橋栄仁(以下、高橋):私は2004年にパッケージングの製造ラインのスタッフとして入社し、現在は缶製品のパッケージングのリーダーを務めています。パッケージングの工程には、出来上がったビールを缶に詰め、箱に詰め、製品を倉庫へ送り出すまでが含まれます。日々の業務としては、製造ラインの設備管理、製品の品質管理、そして製造スケジュールに沿った製造の実行などがあります。
――ビールづくりに関わりたいと思ったきっかけを教えてください。
高橋:サッポロビールに入社する前は、別の飲料メーカーの工場で同じようなラインスタッフをしていました。サッポロビールへの転職を決めたのは、自社ブランドを持つ会社でより責任のある仕事をしたいと思ったのと、これまでの経験を活かして好きなビールに関わる仕事で活躍したいという強い気持ちがありました。
吉田:私は静岡工場のある焼津で生まれ育ちました。今はもうありませんが、工場の隣にガーデンハウスというビアガーデンがあり、幼い頃からよく両親と訪れていました。そのときからサッポロビールの社員の方々の人柄が素敵だと感じていて、ここで働けたらいいなと思っていました。また、父と祖父がサッポロビール好きだったことも入社の決め手でした。

品質へのこだわりと情熱。
醸造の現場を支えるプロフェッショナルの仕事
――ここからは醸造担当の吉田さんに伺いします。醸造の現場で働く中で大切にしていることはありますか?
吉田:品質を左右する重要な工程なので、ミスを起こさないことを念頭に置いて、責任感を持って仕事に取り組んでいます。仕込工程は自動化されているものも多い中、人の手による作業も発生します。そのため、チェック表を導入するなどしてミスを撲滅する努力を続けています。
特に、SORACHI 1984は他のビールと比較してかなりの量のホップを使用します。ときには一度に数百キロを扱うこともあり、計量ミスをしないように細心の注意を払っています。

――醸造の工程で、気を付けていることはありますか?
吉田:今特に注意を払っているのは、麦汁ろ過工程におけるロスを極限まで減らすことです。この麦汁ろ過工程では、麦芽中のエキスを極力取り出すのですが、エキスをできる限り搾り取りたいところですが、やりすぎると雑味につながる成分まで出てきてしまいます。そのため、都度状態を観察しながら、調整しています。

――長年の経験によって培われる部分もありそうですね。SORACHI 1984をつくる上で大変なことはありますか?
吉田: SORACHI 1984は、先ほども紹介した通りホップの使用量が多いため、他のビールに比べて準備の時間がかかり、体力の負担も大きいですね。ホップの準備は基本的に1人で行うのですが、SORACHI 1984の場合は人手が必要で、2、3人で作業をすることが多いです。
――日々の業務の中でどのような時にやりがいや喜びを感じますか?
吉田:やはり、スーパーなどでお客様が製品を手に取ってくださったり、売れているのを実感した時にやりがいを感じますね。他にも、友人と飲みに行った時にサッポロビールを選んでくれて「これおいしいよね」と言ってくれると、本当に嬉しいですし誇らしい気持ちにもなります。
――ちなみに、吉田さんは高橋さんと日々の業務で関わることはあるのですか?
吉田:基本的には仕込工程のメンバーは、パッケージング部と関わることは少ないんです。醸造工程だと、最後の工程であるろ過のチームがパッケージング部と密接に関わっています。とはいえ、製造はすべて繋がっているので、遅れが生じないよう全体の工程の安定化を常に意識して取り組んでいます。

精密な連携と調整が鍵。
パッケージングの現場の舞台裏
――ここからは高橋さんに伺います。パッケージングの現場で働く中で心がけていることはありますか?
高橋:パッケージングの現場では、3つのシフトを交代して働く三交代制の勤務のため各シフト間の連携を大切にしています。引き継ぎが不十分だと、不具合が出る可能性が出てくるので、それぞれの時間帯で発生したことやその際行った対応など、情報共有を徹底しています。それ以外にも、さまざまな部署とのコミュニケーションを大切にして業務していますね。
――パッケージング部以外の部署とも連携することが多いのですね。
高橋:そうですね。パッケージングの前工程である醸造部のろ過チーム、設備の維持管理を担当しているエンジニアリング部、そして品質保証部など、さまざまな部署と日々やりとりしています。
特に、パッケージングラインはたくさんの設備があるので、メンテナンスや設備の不具合を修理してもらうエンジニアリング部の保全業務をしているチームとは密に連絡を取り合っています。
――SORACHI 1984をパッケージングする際に気をつけていることはありますか?
高橋:皆さんは、6缶パック販売されているビールをよく目にするのではないでしょうか。しかし、SORACHI 1984は4缶パックという特殊な形態をしていて、一般的なパッケージとは異なるため不具合が起きやすい傾向があります。そのため、できるだけスムーズに製造できるようラインを停止してのメンテナンスや、稼働させながらの微調整などを日々行っています。SORACHI 1984を静岡工場でつくるようになってからまだ2年ほどしか経っていないので課題はあるのですが、工程の安定化に向けて努力を続けています。
他にも、SORACHI 1984の作業をする機会は限られているため、前に調整をした担当者が次回の製造に立ち会えるとは限りません。そこで、調整に関する情報をチーム全体で共有し、誰が担当してもスムーズに作業ができるように徹底しています。
――4缶パックの場合、具体的にどのような調整が必要になるのでしょうか?
高橋:梱包資材であるスリーブを使って缶をパッケージングしていくのですが、そのスピード調整や、スリーブと缶の位置がずれないようにするための幅や高さの微調整が不可欠です。また、設備は長年使っているとどうしても劣化してしまうので、その都度適切な調整が必要です。どちらも経験が重要となる部分で、チームには経験豊富なベテランが多くいるので相談し合いながら細かく対応を行っています。

――SORACHI 1984は、4缶パックであることに加えて、段ボールの梱包も特徴的ですよね。
高橋:ええ、その通りです。通常のビールは1ケース24本入りで梱包されますが、SORACHI 1984は12缶入りを採用しています。通常の商品であれば箱詰め機械の調整はそれほど多くありませんが、この12缶入りのケースに対応させるための機械の調整や設備管理には、特に力を入れています。
――日々の業務の中で、どのような時に達成感を感じますか?
高橋:製造予定に対して納期をきちんと守れた時です。大きなトラブルが発生してラインが1時間でもストップしてしまうと、お客様への納品に大きな影響が出てしまいます。ですから、これまでの調整やメンテナンスが上手くいき、スムーズに製造できた時にはやはり大きな達成感を感じます。
現場の熱意が注がれたSORACHI 1984を
多くの人に味わって欲しい
――ふたりにお伺いします。SORACHI 1984が、他のビールと異なる点やこのビールならではの魅力を教えてください。
吉田:SORACHI 1984は独自の「ドライホッピング製法」を採用している点です。この製法では、伝説のホップであるソラチエースを2回にわたって添加します。1回目は仕込の段階で、麦芽と湯から作った麦汁にホップを加えて、ビールに苦味を与えます。その後、発酵の段階でも再びソラチエースを加えることで、他に類を見ない独特の香りが生まれるのです。
このドライホッピングという工程があるのと、大量のホップを使用するので、正直なところ醸造現場では他のビールと比べて苦労が多いです。しかし、この工程を経ることでSORACHI 1984特有の、レモンやヒノキのような爽やかで奥深い香りが生まれます。このビールを手に取ってくださった皆さんには、製造に携わる私たちの努力や想いも感じていただけたら嬉しいですね。
高橋:これまでにも話題に上がりましたが、やはり他のビールとは一線を画す特殊な包装形態が魅力的ですね。私自身、SORACHI 1984のパッケージングに携わるまでこのような形態の製品を扱った経験がなかったので、中味だけでなくパッケージングでも唯一無二の存在だと感じます。
――SORACHI 1984は、ふたりとってどのようなビールですか?個人的な想いを教えてください。
吉田:静岡工場でSORACHI 1984をつくることになった際、専用のタンクや配管を作っていただいたので特別な思い入れがあります。また、これまでにお伝えした通り、醸造現場の皆が苦労して、でも信念や愛情を持って作っているビールなので、ぜひ多くの方に味わっていただきたいという強い思いがあります。
高橋:SORACHI 1984は、本当に多くのことを学ばせてくれる存在です。通常のサッポロビールの缶製品ラインでは経験できない特殊な形態ゆえに、これまで経験したことのないトラブルや不具合、そしてそれに対応するための調整作業を通じてさまざまなノウハウを吸収することができました。そこで得た知識や経験を活かして、従来の24本入り製品ラインの稼働アップにも繋げられているので、とても勉強になっています。
――ちなみに、SORACHI 1984はよく飲まれますか?
吉田:はい、酒場にあると必ず頼みますね。香りがとても好きなんです。ちなみに、作業中に漂うホップの香りも素晴らしくて、他のビールと比べても爽やかで鼻をくすぐるような心地よい香りがするんですよ。
高橋:私も好きです。他にない爽やかな香りや味わいが印象的ですよね。
――SORACHI 1984に携わる一員として、ファンの方々に伝えたいメッセージをお願いします。
吉田:SORACHI 1984をつくる時は手作業も多く、醸造現場では他のビール以上に手間と時間をかけて製造しています。ぜひお飲みいただく際には、その個性的な香りをじっくりとお楽しみいただきたいです。そして、さらに多くのお店で手に取っていただけるようになることを願っています。
高橋:味を楽しんでいただくのはもちろんなのですが、パッケージ担当としては、通常の何倍もの時間をかけ、多くの関係者と調整を重ねて完成しているこの梱包を皆さんにご覧いただきたいです。この特別感あふれるパッケージから、私たちのこだわりを感じ取っていただけたら嬉しく思います。
前半はここまで。後半では、醸造現場の管理担当者とパッケージング現場の管理担当者に、SORACHI 1984の製造方法やこだわりについて詳しく伺いました。
★後編を読む
★SORACHI 1984ブランドサイトを見る
高橋栄仁
2004年にサッポロビールに入社。パッケージング部で缶製品のラインスタッフを担当後、樽製品に異動。現在は再度缶製品に戻りラインリーダーを務める。
吉田拳士朗
2019年にサッポロビールに入社。入社当初からこれまで、醸造部で仕込をメインに担当している。
