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ハリウッド映画スターの心を掴んだウォッカの歴史をひも解く
ウォッカというとどんなイメージが頭に浮かびますか? 学生時代のハウスパーティーにバーのはしご酒? それとも洗練されたカクテルパーティーや、パッションフルーツのマティーニを傾けながら過ごす長い夏の夜でしょうか。
900年を超える歴史の中でウォッカには、ありとあらゆる意味やイメージがつきまとってきました。単なる蒸留酒を越えた存在であるウォッカは、大衆文化のみならず、民間療法や伝統的儀式などあらゆるところに浸透しています。そのためウォッカにはそれを飲む人々と同じくらい多様で魅力的な世界を舞台にした物語があると聞いても驚くことはないかもしれません。
ロシアより愛をこめて
中世ロシアか、またはポーランドの僧侶が作った薬用酒がウォッカの始まりだといわれています。ウォッカがもつ可能性を見出したロシア大公イヴァン3世が1470年代にウォッカの製造を独占・国有化すると、ウォッカはロシア財政の重要な収入源となります。また、イヴァン3世の孫にあたるイヴァン雷帝は、殺戮を繰り広げたエリート親衛隊「オプリーチニキ」にモスクワの酒場を解放し、大量のウォッカを提供していたといわれています。
それから200年後、今度はエカチェリーナ2世がウォッカの魅力に目をつけ、ウォッカ製造と販売を貴族の専売特許にしました。ロシアの貴族はその後100年にわたってこの恩恵を得たのです。
ハリウッドの影響
何百年もの間、ウォッカの中心地といえば東欧でしたが、ウォッカがアメリカ人のハートをつかんだのは皮肉にも禁酒法がきっかけでした。1920年代にアメリカを離れてヨーロッパで職を見つけようとしたバーテンダーたちがウォッカに出会い、1930年代になって帰国するとアメリカ各地にウォッカを広めたのです。お酒を飲んでいるところを見られたくないハリウッドスターたちにとっても、ほぼ無味無臭のウォッカは好都合だったし、1940年代に(ジンジャーエールとライムジュースではなく)ジンジャービアとレモンを使ったモスコミュールが考案されると、ウォッカの人気はさらに広がりました。
ハリウッドに愛されたウォッカは、おしゃれなドリンクとして瞬く間に受け入れられたのです。1947年に女優のジョーン・クロフォードがウォッカとシャンパンしか出さないパーティーを開いたことは有名で、これによってウォッカはシックなお酒という地位を固めました。マティーニが登場したのもこの頃で、最初のレシピが掲載されたのは、デイビッド・エムベリーが1948年に出版したカクテルのレシピ本「The Fine Art of Mixing Drinks」だといわれています。
1954年にはウォッカの全世界の売上は110万ケースを突破。その4年前の4万ケースと比べると、ウォッカの需要が急激に高まったことが分かるでしょう。1930年代のブラッディ・マリーに始まり、70年代のフレーム・オブ・ラブ、80年代のエスプレッソ・マティーニなど、ウォッカベースの超人気カクテルも次々と登場しました。新しいカクテルがヒットするたびに、ウォッカは新しいファンを獲得し、その魅力がより多くの人に受け入れられていったのです。
イアン・フレミングが1953年に出版した小説「カジノ・ロワイヤル」に登場したオリジナルのドライマティーニ、ヴェスパーは、ボンドが作り方をカジノのバーテンダーに説明し、穀物ベースのウォッカを使った方がいいとアドバイスするシーンで一躍有名になりました。
ボンドは、さまざまなカクテルを劇中で飲んでいますが、ウォッカ・マティーニはボンドが愛したお酒として映画「007」シリーズに繰り返し登場することになります。1964年公開の「007/ゴールドフィンガー」でボンドが口にする名セリフ「ステアせずにシェイクで」は事あるごとに引用されています。ボンドのおかげで、ウォッカ・マティーニは官能的で滑らかな魅力を感じさせる、永遠のクラシックとしての地位を得たのです。
また、ウォッカベースのカクテルを普及させたのは、スパイ映画やハリウッドスターだけではありません。1990年代後半にドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のキャリ―・ブラッドショーがコスモポリタンを愛飲したことで、キャリア志向が強く独立した女性たちの間でカクテルの人気が再燃したのは記憶に新しいところでしょう。
プレミアムウォッカの誕生
ウォッカ造りのプロセスは一見シンプルですが、良質なウォッカができるかどうかは、最終製品のアルコール度数と特徴を決める蒸留のプロの腕前にかかっています。現代の蒸留家の多くは、ベースとなる原料が醸し出す風味をできる限り取り除こうとしますが、伝統的な製法を重んじる人たちは、ベースの香りを残した、はっきりした個性を放つウォッカを好みます。
例えばフランス産のスーパープレミアムウォッカ「グレイグース」は、単独蒸留という伝統的なアプローチで造られています。材料はピカルディ地方で栽培されている柔らかい冬小麦とコニャック地方のジャンサック=ラ=パリュで採取する湧水の二つのみ。世界中のカクテルバーにその名を轟かせている個性的な風味(フレッシュレモン、アーモンドとトーストしたブリオシュ、そしてほのかに漂うペッパーとアニスの香り)を守るため、徹底的な品質管理を行っています。
このように伝統的な製法を守るグレイグースですが、ブランドが誕生したのは1997年と比較的最近のことです。考案したのは、アルコール業界でキャリアを築き上げてきたアメリカ人実業家のシドニー・フランク氏。ウォッカの人気が高まっているのにも関わらず、ストレートでもマティーニでも美味しいウォッカが存在しないという事実にフランク氏が注目したのは1990年代半ばのことでした。
メインとなる材料の個性を表現した高品質なウォッカを創ろうと思い立ったフランク氏は、コニャック蒸留所でメートル・ド・シェ(責任者)を務め、コニャックの生産・開発では右に出る者がいないとされるフランソワ・ティボー氏にアプローチしました。そのティボー氏は、世界に認められた才能と経験を新しいウォッカの開発に惜しみなくつぎ込みました。こうして誕生したグレイグースは、他ブランドの先を行くウォッカとして瞬く間に名声を博していきました。今日でもティボー氏は全てのバッチの製造を監督し、テイスティングすることで品質と一貫性を守り続けているのです。
ウォッカは最も繊細な風味をもつ蒸留酒なので、その香りや特徴を理解し、違いが判るようになるには時間がかかります。しかし、探し続ければきっと自分の好みの味を見つけられるはずです。ティボー氏がよく言うように「シンプルさから複雑さが生まれる」のです。
エスプレッソ・マティーニ
- 50ml グレイグース・ウォッカ
- 30ml シングルオリジンのエスプレッソ
- 20mlコーヒーリキュール
- 塩少々(お好みで)
- コーヒー豆3粒
グレイグース、エスプレッソ、コーヒーリキュールと氷をシェイカーに入れます。お好みで塩少々を加えます。勢いよくシェイクして、カクテルグラスに注ぎ、コーヒー豆3粒を飾ります。よりラグジュアリーな雰囲気を演出するには、ダークチョコレートをすりおろして飾り、チョコレートをコーティングしたアーモンドやレーズンを添えるとよいでしょう。
グレイグースを飲んでみれば、その品質と香りがあらゆるカクテルを特別な一杯に変えてしまうことを実感することができるでしょう。
この記事はThe Guardianのセレン・チャリントン=ホリンズが執筆し、 Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで。