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元NBA王者のチャニング・フライが自身のワイナリーをオープン
元NBA選手のチャニング・フライ氏が、オレゴン州で自身のワインブランド「チョーズン・ファミリー」を2020年秋に立ち上げました。
NBA選手たちの多くがワインを偏愛していることは有名な話です。84本の貴重なワインコレクションを守るため、NBAバブル(新型コロナ対策のために建設された、選手のための隔離施設)の自室を冷蔵庫に改造したポートランド・トレイルブレイザーズのC・J・マッカラム選手のように、ワイン好きを憚ることなく公言している人もいます。また対照的に「スーパーコンピューターのような脳をもつ」と言われるレブロン・ジェームズ選手などは、公けに主張したりはしません。さらにはワイン好きが高じて、自分のワインブランド「チョーズン・ファミリー・ワインズ」を立ち上げた元選手のチャニング・フライ氏のような人物もいます。
フライ氏はオレゴン州ニューバーグにあるワイン生産者のランゴロ・エステートと提携してこの新たなブランドを立ち上げました。そして2018年産ピノ・ノワールと2019年産シャルドネの製造を開始し、2020年10月5日にブランド初となる2種類のワインが発売されたのです。
フライ氏がオレゴンワインと出合ったのは、ポートランド・トレイルブレイザーズに所属していた2007年のことでした。その後フェニックス・サンズ、オーランド・マジック、クリーブランド・キャバリアーズとチームは変わっても、ウィラメット・ヴァレーのピノとシャルドネへの愛情は変わることなく、さらに大きく育ち続けました。
2016年にフライ氏とジェームズ選手、カイリー・アービング選手、ケビン・ラブ選手などを擁したキャバリアーズは、NBAで悲願の優勝を遂げます。ちょうどその頃チームメイトの多くがワインを嗜み、学び、そしてその経験をシェアすることに夢中になっていたため、彼らは「ワインチーム」とも呼ばれるようになりました。
フライ氏は2019年のシーズン終了と共に現役から引退しましたが、醸造家としてのキャリアは始まったばかり。この「Food & Wine」誌のインタビューでフライ氏は、ワインへの愛、チョーズン・ファミリー立ち上げの経緯、そして今後のワイン業界をどのように変えていきたいか、などについて大いに語ってくれました。
ワインの関係性は、年齢を重ねるに連れてどのように変化してきましたか?
私はアリゾナ州フェニックスで育ちました。1990年代初めの当時は、普段から両親がワインを飲むことはありませんでした。ワインは常に家にありましたが、「本当に特別な機会に飲むもの」「ワインを開けるときは絶対にステーキを食べる」という決まりがあって、今のように身近な存在ではありませんでした。美味しいステーキや魚料理を食べながら母が「この料理にこのワインはとても合うわ」といった時の父親の反応を見るのが面白かったです。両親がどんなワインを飲んでいたのか記憶は定かではないですが、二人がワインを楽しみ、冗談をいいあったり、会話に花を咲かせていたという良い思い出があります。
特に男性は成長するにつれて、女の子とレストランに行った時にカッコよく見られたいとか、贅沢したいとか、そういった理由でワインを口にするようになります。私も最初はそうでしたが、段々とワインという飲み物を心の底から好きになっていったのです。試合のために国内を頻繁に移動する選手時代から、私は妻と二人でゆっくり食事をしながらワインを飲む時間を大切にしてきました。特に子どもたちが大騒ぎしているような時は疲れがドッと出ますが、ワインで乾杯すれば、すぐさま家族や友人との深い絆を感じられる点が、私にとってのワインの醍醐味です。ワインは私たちのアイデンティティの一部といっても過言ではありません。
NBAで培ったキャリアの中で、ワインが心の大きな部分を占めるようになったのはいつ頃でしょうか?
オーランド・マジックに移籍して、オーランドの街に引っ越しましたが、そこでは試合が終わるとみんなで「Scratch」というレストランに足を運ぶのが恒例でした。もう6年も前のことになります。私が何か新しいワインを飲んでみたいというと、お店の人が新種をいくつかもって来て、そのワインについて説明してくれたものです。
それがきっかけで、今私が住んでいるオレゴン州のワインに興味をもつようになったのです。その頃、友人がランゴロ・エステートというヴィンヤードで働き始めたのですが、その彼が送ってくれたワインに惚れ込みました。今でも私の一番のお気に入りです。もともとワインは好きな方でしたが、文字通り没頭するようになったのはその頃からです。(NBAコーチの)グレッグ・ポポヴィッチがレックス・ヒルの一部を所有しているとか、元NBA選手でコーチのジョージ・カールの話や、ウィラメット・ヴァレーに興味を示しているNBAコーチ、オーナーたちの話もよく耳にしました。しかし数多くの場所にワインテイスティングに行った経験はあっても、あの頃の私はまだ単なるワインファンでした。
それから2016年にクリーブランド・キャバリアーズにトレード移籍しました。チームメイトたちと飛行機で移動していた時のことです。「明日は試合に出ないからシャルドネを開けて飲むんだ」と私がいうと、どうしてみんなで飲めるくらいもって来なかったんだと、チームメイトたちが囃し立てました。それ以降は、チームで移動する時には、必ずお薦めのワインを6〜12本くらいもっていくようになりました。飛行機で全部飲めなかった時は、残りをレストランに持ち込んで飲みました。自分の好きな土地のワインをもっていくというのが当時の暗黙の了解でした。数的には、イタリアのワインが好きな選手が多かったですね。若い選手の中にはナパのカベルネを押すのもいましたが、私のいち押しはオレゴン州のピノとシャルドネでした。そしてワインへの愛は、私の中でオレゴン州に対する誇りへと変わっていったのです。
ワインについて真剣に学ぼうと思ったきっかけを教えてください。
ある時点で、私にとってワインがいい意味で自分の人生の大きな部分を占めるようになっていることに気が付きました。「先週飲んだピノはなんだったっけ?」とか「あのシャルドネはどこのだっけ?」などと仲間からワインについて聞かれるようにもなりました。またレストランに食事に行けば、どんな味か知りたいから今日はチリのワインを飲んでみようという風でした。
こうして仲間内で「ワインといえばチャニング」という感じになったのです。私と一緒に出かけたら、飲んだことのないワインを試すことになるとみんな分かっていました。当たり障りのない話をするのではなく、ワインについて自分の思いを語っていると会話も弾みます。自宅に友人を招くとみんなが「チャニング、ワインを飲もうよ」といってきます。みんなワインについて熱心に学びたいのです。こうして私たちの話題といえばいつもワインの話でもち切りという状態になったのです。
私はレストランのワインメニューをきちんと理解できるようになりましたが、これもまたいい話のネタになります。ディナーの席で重要なのは会話を楽しむことだと思います。わざわざいいレストランに行って食事をしても、会話が弾まなかったら食事もワインも味気なくなり、1日が台無しです。でも会話が盛り上がったら、食事が今ひとつでも楽しい時間を過ごすことができます。
ワインは人と人を結びつける大切な役割を果たすと思います。当時は自分たちが何をしているのか正確に分かってはいませんでしたが、ドウェイン・ウェイド、C. J. マッカラム、ステフ・カリーなど、あの頃の仲間の中には、ワイン事業を始めた人もいれば、次世代の選手のインスピレーションとなった人もいます。「ワインチーム」の一員であったことは本当に素晴らしい経験でしたし、今後もこのつながりを保っていこうと思っています。
「Chosen Family」立ち上げのプロセスについて教えてください。
先ほど触れたように、私がオーランドに所属していた時、友人がランゴロ・エステートで働き始めました。その頃私はピノ・ノワールの素晴らしさにすっかり魅せられ、こんなワインが作りたいというアイデアで頭が一杯でした。それでランゴロ・エステートの人たちと話をするようになり、チャリティーイベントのために限定ワインを作ったりしました。
ランゴロ・エステートのオーナー、チェイス・レントン氏と貯蔵庫を歩き回り、どんな味わいを表現したいのかを語り合う作業を通じて、私にとってワインはグラスに入ったぶどう以上の何か特別な存在に変わっていくのが感じられました。私がこのプロセスを心から愛していることを周りのみんなが理解してくれました。ついには私の熱意と情熱が伝わり、一緒にビジネスを始めようということになったのです。
私たちは昨年(2019年)の初頭からワイン造りを始め、今年はピノ・ノワールを85ケース、シャルドネを40ケース生産しました。チョーズン・ファミリーというブランド名に決めた理由の一つは、私の両親がすでに亡くなっていることにあります。私はポートランドという街とそこに住むファンの皆さんが大好きになったのでこの街への引っ越しを決意し、そして妻と恋に落ちて結婚しました。このオレゴンこそが、私が自分で「選んだ家族」であるという意味がその名前には込められています。
バスケットボール選手だった経験がワイン造りにおいてプラスになることはありますか?
バスケットボール選手であることはむしろ不利だと思います。私のような人間、あるいはバスケットボール選手がワインを造るなんてあり得ない、名前を貸しただけで飲んでさえいないだろうと思われることもあります。チョーズン・ファミリーを立ち上げた初日から、私は全てのミーティングに参加し、研究を重ね、自分の意見を発言してきました。ワインについて全てを知っているわけではありませんが、私は素晴らしいワインを世に出すために少なくない時間を割いてきました。
チェイスとジェイク(・グレイ)の力を借りたのもこのためです。ゼネラルマネージャーを務めるジェイクはランゴロで素晴らしいワインを造っています。私たちはヴィンヤードを所有していないので、ワインを造るぶどうの種類に制限されることがありません。テイスティングルームもありません。優れたワインを少量だけ造って販売しています。大手のスーパーにも、オーガニックスーパーにも売っていません。ワイン専門店であっても私たちのワインを見かけることはないでしょう。
私たちのワインは、私たちから直接買うしか方法がないのです。この手法にこだわる理由は、信頼を大切にしているからです。私たちは、金儲けのためにワインを造っているのではありません。これは私の情熱をかけたプロジェクトなのです。ですから、ワイン造りについて話すときは、いつでも胸がワクワクします。このオフィスには、NBA優勝のチャンピオンシップ・リングのほかに、私たちのシャルドネとピノ・ノワールのボトルが並んで飾られています。これらは自分の家族以外で、私が一番誇りに思っているものなのです。
85ケースもあったピノは、私も一緒に手作業でボトル詰めしました。疲労で腕がちぎれそうだったかって? その通りです。それでも私は愛と情熱を込めてワイン造りを行っていますし、毎年もっといいものをつくろうと常に自分に挑戦し続けています。バスケットボール選手として培った仕事に対する情熱と、ほかの人にはなかなかないネットワークも最大限活用しています。
どんなワインが好きかと質問されたときは、一番よく飲んでいるピノ・ノワールとシャルドネと答えます。しかし新しい出会いも常に望んでいます。ワイン業界で成功するのは簡単なことではありません。私はゼロからスタートしましたが、ほかの人たちの取り組みから様々な刺激を受けています。今は私も彼らのように自分の限界に挑む準備ができたと思います。お互いに切磋琢磨しながら素晴らしいワインを作って世界中の人々と共有していくことができれば最高です。
チョーズン・ファミリーのワインを造る過程で一番思い出深かったことはなんでしょうか?
自分でボトル詰めをして出来上がったピノ・ノワールにすっかり興奮していた私は、「ボトル・ショック」のことを完全に忘れていました。その日の夜、さっそくボトルを開けて飲んでみたところ「なんだ、これは!!」となりました。妻は、そんな私の顔を見て今にも泣き出すんじゃないかと思ったそうです。私はビジネスパートナーやワイン職人にメールや電話をかけまくりました。完全に気が動転していたのです。
みんなに「ボトルを開けたわけじゃないよね?」と言われました。「もちろん開けたよ!」というと、「おいおい、これから数週間はボトル・ショック状態だから飲めたもんじゃないよ」といわれてしまいました。全く恥ずかしい話です。初歩的なことを度忘れして大騒ぎを起こしたこのエピソードからも、私がどれだけワインを愛しているか、ワイン造りにハマっているか、そしていいものを造りたいと思っているか、が分かってもらえると思います。
自分の作ったワインが誰かのお気に入りになって欲しい。美味しいだけでなく、私たちのワイン造りの姿勢も含めて、みなさんが一番好きだといえるワインを造っていきたいと思っています。
現在のワインやワイン文化について、どのような変化を起こしたいとお考えですか。
ワインカルチャーはほぼ白人だけのものです。文化という観点からワインを見てみると、アメリカにある様々な文化の影響が見過ごされていると感じます。フェニックスで育った私は、幼い頃ワインの存在さえ知りませんでした。30歳の時でさえ、自分がワイン造りを始められるとは夢にも思っていませんでした。私は黒人ですが、私にワインを注いでくれる黒人はいません。
黒人のワイン醸造家やソムリエがいないのです。私はこの状況を変えたいと思っています。人種や文化的背景に関係なく、私のようにワインを好きになったり、情熱を燃やして欲しい。その始まりは、毎日ぶどうを相手に仕事をすることでしょうか。それともテイスティングルームで過ごす時間でしょうか。ワイン畑、醸造庫、テイスティングルームなど、ワインの現場であらゆる人種の人々が働くようになれば、今よりもっと多くの人がヴィンヤードに足を運んでワインを試してくれるようになると思います。
ワイン業界は特定の客層にしかアピールしていませんが、全ての人に対してワインについての話をすべきです。ワイン業界には異なる視点、異なる文化や人種の人々の視点が必要だと思います。多様な視点から絶え間ない進化が求められるようになれば、ワイン業界は今よりももっと良くなると思います。
自分のワインブランドを立ち上げるにあたって一番難しかったことは何でしょうか?
チョーズン・ファミリーは、皆さんからワインメーカーとしての信頼を得たいと願っていますが、それが一番難しいところです。購入してくれる消費者の皆さんを大切に思っていること、そして、愛情を込めてワインを造っていることを広く知っていただけるようこれからも努力しています。
チョーズン・ファミリーやワインへの愛、自身のワインをめぐるこれまでの経緯について考えるとき、一番心が踊ることはなんですか?
私のようなNBA選手のことを、単なるワイン好きの元バスケットボール選手として見て欲しくない。これまでの市場にはないワインを供給できる生産者であり、皆さんと同じくらいワインに対して情熱的な人間の集まりとして見てもらえたらと思います。
私たちはワインが大好きで、その文化を愛しています。ワインのボトルを開けるときは、いつでもハッピーな瞬間です。私たちが造ったワインを好きだといってもらえたときの興奮は、言葉にしようがないほどです。ワイン業界では新人かもしれません。しかし私はこの業界の一員になれたことを光栄に思っていますし、またこの業界で成功したいと思って切磋琢磨しています。私のワインの旅を皆さんが共に歩んでくれたらこんなに嬉しいことはありません。
この記事はFood & Wineのニナ・フレンド氏が執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで。