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ゲーマー向けチャットサービス「Discord」がeスポーツのエコシステムを支える
SNSアプリとしても人気高騰中のテキスト&ボイスチャットツール「Discord」(ディスコード)。インスタグラム、フェイスブック、ユーチューブなど、オンラインコミュニティがベースの既存サービスと同様に、毎月100万人以上のユーザーがこのサービスを利用しています。
最近では、新たなユーザー層を開拓する施策も進めていますが、もともとDiscordは、eスポーツファンやゲーマーのためのコミュニケーション・ツールでした。娯楽目的で使っている人が大半ですが、eスポーツ業界の起業家たちは、このDiscord上で新たなビジネスを続々と展開しています。
SNSという強力なプラットフォームの力を借りてビジネスを始めるのは珍しいことではありません。実際アメリカでは、企業の91%がマーケティングにSNSを活用しているという統計もありますが、Discordが同種のアプリやサービスと一線を画しているのは、ユーザーとより直接的な関係を築けるように設計されている点です。
例えば、eスポーツの起業家が自分たちのビジネスに対する一般ユーザーからのフィードバックを集めようとしても、既存のSNSツールでは思うような結果を得られないという課題があります。フェイスブックなどのユーザーの興味は多種多様であり、またSNSで過ごす時間の8割を投稿されたコンテンツの消費に費やし、その残りの2割しか自分のオリジナルコンテンツ制作に使っていないからです。
しかしDiscordは、他のプレイヤーと交流できるオンラインコミュニティでこそ実力を発揮するゲーマーのためのツールであり、この8割・2割の比率を完全にひっくり返しているのです。ユーザーと直接コミュニケーションできる環境を醸成し、フェイスブックなど従来のSNSプラットフォームでは実現できなかった方法でコミュニティを築くことができる。つまりDiscordのプラットフォームが、投稿ベースではなくテキストやボイスによるチャットベースであるため、全てのインタラクションがリアルタイムで行われているという他にはない特徴があるのです。
それではDiscordがeスポーツ業界の起業家にとって最高のツールであるいわれる理由を詳しく見ていきましょう。
Game.tv
Discordを活用して大成功したビジネスのひとつが、2019年にローンチされた「Game.tv」(ゲーム・ドット・ティーヴィー)です。モバイルゲームに特化したこのeスポーツプラットフォームは、ゼロからネットワークを自前で構築するのではなく、モバイルゲーム大会を開催する舞台としてDiscordを活用したことによって、瞬く間に数百万人にもおよぶモバイルゲームファンへのリーチを獲得しました。
Discordユーザーなら、すでに使い慣れているアプリからGame.tvのプラットフォームにアクセスして、モバイルゲーム大会を開催できます。例えば、「Animal Tower Battle」の参加者は、Game.tvのAIボット「Tourney」を使って毎週トーナメントを開催しています。
Discordと組むというGame.tvの決断は大きな実を結びました。インテル・キャピタルを含む世界各国の優良投資機関から関心を集め、シリーズAラウンドで2500万ドル(約26億円)の資金調達を実施しています。 急速に拡大を続け、日本、韓国を含む20カ国以上に展開するまでに成長しています。
Guilded
“ゲーム・コミュニティのための究極のチャットプラットフォーム”を謳う「Guilded」(ギルデッド)。Discordの“ライバル”を自認していますが、Discordなしには存在し得なかった企業です。
2017年創業のGuilded は、イベントのスケジューリングや“ゲームを探す”機能など、Discord上でのゲーム・コミュニティー体験の向上に特化したボットとして生まれました。近年Discordが多機能化したことを受けて、ユーザーがダウンロードする独立したソフトウェアとして商品化したのが現在のGuildedです。
Discordは、Guilded にゲーム・コミュニティーからの意見や知見を収集することを許可し、Discordよりも競争力の高い商品を開発できるようにしました。こうしてチームとサーバーベースの構造にフォーカスした、負けず嫌いなゲーマー向けのニッチな商品が開発されたのです。
Discord用のボットを商品化したGuilded の戦略は功を奏しました。そして現在では、高校生、大学生、アマチュアチームから世界のトップチームまで、5万人以上のeスポーツユーザーにサービスを提供しています。また直近ではシリーズAラウンドで700万ドル(約8億円)を調達しています。
Esports OneのOneBot
シャロン・ウィンター氏と筆者は2017年に「Esports One 」(eスポーツ・ワン)をローンチしました。限られたマーケティング予算しかもたない若手スタートアップとして、最も苦労したのはユーザーの獲得です。ユーザーにリーチする手段がないのに、どうすればターゲットオーディエンスに利用してもらえるのでしょうか。
そこで私たちはDiscordに目を向けました。エンゲージメントの高いコミュニティーを築き、そこからフィードバックを得てユーザーエクスペリエンスを改善し続けるという、2つの軸からなる戦略を掲げました。eスポーツプレイヤーとしての長い経験から、Discordがゲーマーのコミュニティー形成とコミュニケーションの主要なプラットフォームに成長していることはすでに認識していました。Discordユーザーは、投稿やコメントではなく、主にテキストやボイスのチャットでコミュニケーションするため、コミュニティーの盛り上がり方もフェイスブックなどとは比較になりません。またDiscordは、コミュニティーが直接バグを報告しフィードバックできるように設計されているので、これを活用すれば多くの利益が得られることにもすぐに気が付きました。
そして2019年、私たちのエンジニアチームが、Discordユーザーが自分のサーバーにインストールできるアプリ「OneBot」(ワンボット)を開発しました。これがあれば「リーグ・オブ・レジェンド」のようなファンタジーゲームの世界を、直接コミュニティーの中に取り込むことができます。リリース以来OneBotは世界中のeスポーツファンに利用されてきました。
現在4000以上のDiscordサーバーにインストールされ、4万人以上のユーザーに使われているOneBotは、eスポーツ分野で最も人気のあるDiscordボットのひとつです。直近6ヵ月間では、成長率223%、ユーザー数210%増と文句なしの実績を記録しています。
またこの間に、OneBotの人気によって「Esports One」のユーザーベースも4倍に膨れ上がりました。OneBotがもたらした最大の成功はマーケティング予算に1円も使っていないことです。その代わりに、コミュニティーのユーザーが新しいユーザーを招待してファンタジーゲームのプレイの仕方を教えることができる空間を作りました。Discordの助けを借りれば、eスポーツに対する熱い想いを人から人へ伝染させることができるという手応えもつかみました。
では、Discordを活用してビジネスを成長させるには具体的に何をすればいいのでしょうか。以下にある私からのアドバイスを参考にしてみてください。
1. コミュニティーの軸がブレないように注意
Discordのサーバーは、テキストとボイスチャットの様々な「チャンネル」に分かれています。各サーバーは、特定の話題についての会話やエンゲージメントのための空間です。50ものチャンネルを擁する巨大なコミュニティーサーバーを作ってみたいと思うかもしれませんが、サーバーが大きすぎるとユーザーがついていけなくなったり、会話が細分化したりして、最終的にはエンゲージメントが下がってしまうことにもつながります。そのため、メンバーの興味に的を絞ったチャンネルを土台にコミュニティーを築いていくことが肝心です。
2. 権限と役職を設定しよう
成長すると同時に、しっかりオーガナイズされたサーバーを運営し、エンゲージメントを低下させないために、Discord上の役職を設定する必要があります。コミュニティーメンバーを役職でグループ分けして権限を与えることも可能です。フィードバックの収集目的で、コミュニティー内のパワーユーザーだけを対象にしたチャンネルを作りたければ、「パワーユーザー」という役職を設定し、コミュニティー内で最も活発なユーザーを任命することで、「パワーユーザー」の役職に就いているメンバーだけがフィードバック用のチャンネルにアクセスできるようにすることも可能です。
3. 司会者チームを作ってアクティブなコミュニティーを作ろう
Discordで行われるリアルタイムのコミュニケーションをスムーズに進行させるには、サーバーの司会を務めるだけでなく、コミュニティーのメンバーとチャットし、質問に答える司会者(モデレーション)チームがいると便利です。まずは自分のコミュニティーと会話をスタートし、メンバーの質問に答えたり、秘密の情報を共有したりするなどして、他のコミュニティ―に移ってしまわないよう工夫する必要があります。
4. ボットを使って面白いサーバーにしよう
Discordボットは、サーバーにインストールしてコミュニティーに役立つ機能を追加するためのアプリです。多種多様な機能をもつボットが山ほどありますが、大抵は次の2つのカテゴリーに分類できます。コミュティーメンバーのエンゲージメント維持を目的とした機能か、Discordコミュニティーの管理に役立つサポート機能です。活動状況に応じてコミュニティーメンバーをランク付けしたり、コミュニティにゲーム、ニュース、コンテンツ、音楽などを提供したり、さらにはイベントのスケジューリングをサポートするなど、数えきれないほどの機能があります。サーバー管理用ボットでは、Discordコミュニティ―の管理に関するほぼ全ての作業を自動化できるツールが揃っています。
Discordのおかげでスタートアップ企業は「いいね!」やハートの絵文字だけでなく、ユーザーの声に直接耳を傾けることができるようになったのです。また前述の通りユーザーと直接コミュニケーションを取ってフィードバックをもらうことも可能です。だからこそDiscordは、ブランドアンバサダーを集めてエンゲージメントが高いコミュニティ―を作るためにも、またeスポーツビジネスを展開するのにも、理想的なプラットフォームといえるのです。
Matt Gunnin is the CEO and cofounder of Esports One.
マット・ガニンは、Esports OneのCEO兼共同創業者です。
この記事はVentureBeatのマット・ガニンが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされています。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまで。