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「やっぱりワインって面白いなあ」と実感した瞬間
~チーフワインメーカー工藤雅義~

今日は昔話を。

かつて「グランポレール ヤキマバレー」という商品がありました。グランポレールを現在の日本ワインだけの形に再整理する前の商品です。

ヤキマ1.jpg
ヤマキバレー

1990年代から2000年代まで、当社はアメリカ合衆国ワシントン州ヤキマバレーに面積72ヘクタールの広大な畑を所有していました。日本でブレンドして使用するワイン用のぶどうを供給するのが主目的でしたが、畑の中でベストな品質のぶどうを日本に生果で輸入しワインを作るというビジネスもやっていました。

品種はシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨン。日本で醸造し、ヤキマバレーの冠を付して販売していました。品質の高いワインで、高品質なぶどうを国内で醸造することで私たちの技術向上にも大きく貢献しましたが、要説明商品でビジネス的にはうまく行かず、終売となってしまいました。

当時、このプロジェクトの日本側の実務を担っていたのが私と北海道北斗ヴィンヤードの現栽培責任者の野田さんです。毎年、秋の収穫時期には2人交代でぶどうの収穫区画と時期を決めにヤキマバレーに出張していました。

工藤さん.JPG
筆者:工藤雅義
野田さん.JPG
北海道北斗ヴィンヤードの現栽培責任者の野田さん

ヤキマバレーの畑に5号園と呼ばれる一画がありました。シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローが南北に植わっている畑でした。緩やかな傾斜地でしたが、現地出張した最初の年、栽培責任者のゲアリーに言われました。「坂の上の方のぶどうと下の方のぶどうを食べて見ろ」なんだろうと思いながら食べてみると、質問が「どっちが未熟(unripe)だ?」。

 傾斜地の畑の場合、雨水が表面を流れて土を流し、下の方は表層土が厚くなりがちです。そうすると、保水性が上がって、土が乾きにくくなります。カベルネ・ソーヴィニヨンは特に水分ストレスを必要とする品種(水が少ない方が良いぶどうがとれる品種)なので、坂の下の方では未熟なぶどうになりかねない。理屈としては知っていましたが、実際に体感したことはありませんでした。

ヤキマ2.jpg
ヤマキバレーの収穫風景

私は答えました。「下の方」
するとゲアリーが「どうしてそう思った?」
私「ベジー(veggie)だから」
ゲアリーはふん、と鼻で笑いましたが、満足そうでした。

彼にとってはこれから一緒にビジネスをやる相手が素人ではないと安心した瞬間であり、私にとっては「やっぱりワインって面白いなあ」と実感した瞬間でした。その後、ゲアリーとはとても親しくなり、何度も彼の自宅に招かれBBQ(バーベキュー)をやりました。

あれから、30年近く。

ヤキマバレーの畑も売却してしまい、すっかりゲアリーともご無沙汰ですが、今あったら、なんて言ってくれるでしょうか?
「おまえも立派なワインメーカーになったなあ」でしょうか?

いいえ「おまえも年とったなあ」でしょうね。

※Veggie:ピーマンなどを連想させるピラジン化合物に由来する香り。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローでは未熟なぶどうに出やすい。

グランポレール チーフワインメーカー 工藤雅義

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